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序章:Prelude

環断

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 我が名は環《ワ》断《ダチ》。
 太刀なり。

 我、環を断つ者なり。環を断つは、則《すなわ》ち、命を絶つなり。

 環、二有り。一に曰《いわ》く、蒼き環なり。一に曰く、赤き環なり。
 蒼き環の者、是《こ》れ生まれながらに備《そな》う。男、環断の太刀を携《たずさ》う。女、能《よ》く術を為す。
 赤き環の者、是れ望みて環を得る。妖気、環の者を蝕《むしば》み、有時に之をして狂わしむ。

 人、自《おの》ずから非力なれば、求めて赤き環を成し、宿《しゅく》業《ごう》の大環より離脱す。
 宿業の大環、是れ輪《りん》廻《ね》の理《ことわり》なり。
 環の者、己が内にて円を閉ずれば、輪廻に依《よ》らず、死して転生すべからず。其の魂、永劫に苦煩す。
 我、赤き環を断ち、環の者をして輪廻に依らしむるなり。

 乱世の人、多く環を欲す。赤き環の者、増ゆれば、蒼き環の者も亦《また》、増ゆ。
 我、使い手に従いて戦に出《い》づること数多《あまた》にして、環の者と環に非ざる者とを問わず、幾十の魂を宿業の大環に還《かえ》す。

 使い手の名、斎《さい》藤《とう》一《はじめ》なり。蒼き環の者なり。
 使い手、朋友有り。朋友、名を土《ひじ》方《かた》歳《とし》三《ぞう》と曰《い》う。
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