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本編
第8話
しおりを挟む__暖かい。
石鹸の優しい香りと誰かに抱きしめられているような心地良さが俺を包み込み、更に深い眠りへと引き込んで__
…ん?
待て待て待て。
「…うわぁぁあ!?」
知らない男の腕の中で目覚めた俺は驚きのあまり二度寝することもままならず、急いでベッドから逃げだそうとする。
が、それを逃がさないとでも言うように俺を抱きしめる腕に更に強くホールドされてしまった。
「…こら、耳元で叫ぶんじゃない。」
寝ぼけているのか、男は目を点にする俺の額に軽くキスを落とし、犬でも相手にしているのかと思うほど優しく頭を撫でてくる。
いくらもがいても腕の力が弱まることはなく、俺は早々に抵抗することを諦めた。
さっきの低く通った声からして、きっとこの男は魔王なのだろう。
昨日は仮面と暗さのせいで上手く顔を見ることが出来なかったが、絶好のチャンスだ。
少しの恐怖と好奇心を抱きながらそっと顔をあげると、くせっ毛な黒髪と長くフサフサな睫毛、高く通った鼻筋が目に入った。
ひとつひとつの整ったパーツがバランスよく並び、それを白い肌がうまい具合に強調している。
まぁ、要するに目を瞑っていても分かるほどのイケメンってことだ。
ちくしょう、世の中はなんて不公平なんだ。
誰もが羨む顔と手入れの行き届いた髪をじっと睨みつけていると、ふと不純な思いが頭を過ぎる。
この気持ち良さそうな天パをもふもふしたい…!
『やめときなって!何が虚しくて魔王の髪の毛もふもふしないといけないんだよ!』
『やっちゃえよ!寝てるし気づかないって!』
頭の中で天使と悪魔が顔を出し訴えかけるが、答えはもう既に決まっていた。
この素晴らしいもふもふを前にして我慢出来るわけがあるだろうか、いや否。
これは人間の性だ、仕方ない。
仕方がないんだ…。
もふもふという名の欲求に負け恐る恐る手を伸ばすと、まるで綿毛に触れたかのような感触が走る。
(ふおぉぉぉぉおお!!!)
何故この髪の持ち主が魔王なのか。
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ…………
目にかかった邪魔そうな前髪を退けるという名目でもふもふを堪能し終え手を戻そうとすると、突然引っ込みかけた手が掴まれる。
「ひぇっ!?ご、ごめんなさいごめんなさい」
「……」
じっと寝起きの目で俺を見つめる魔王にひたすら謝り続けていると、掴まれた手が再び魔王の頭上に乗せられる。
「もっとしていいぞ」
「…えっ?」
あんぐりと口を開けたままの俺を見てフッと小さく笑い、再び魔王は眠りにつく。
いや、どうすればいいんだよ…。
互いの頭を撫で合うこのシュールさに、俺はただ先を思いやるばかりだった。
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