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第17話 戦友と悪友

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 まるで戦場にでも向かう気分になる。
 現代の平和な日本で、こんな経験はそうそうある物じゃない。でもきっと今まで見えていなかっただけで、テレビやネットで流れるニュースの裏側では沢山の人が経験している事なのかもしれない。

 カフェを出ると千佳は彼女に、元カレに連絡する様に言った。清水さんは頷き、少し離れた場所で電話をかけ始める。

「なぁ、千佳……大丈夫かな?」

 俺がそう言うと、彼女は黙っていた。
 その姿になんとも言えない不安を感じる。当たり前かもしれないけれど、多分彼女も不安なのだろうと思った。

 話を終えたのか清水さんは戻ってくる。

「なぁ、どう……だった?」

 目線を逸らし、彼女は言う。
 今日の夜22時、ここから1kmほど離れた野田駅の前で待ち合わせする事になった。

 野田駅というのは、俺の家の最寄駅から一駅。地方ならではの綺麗だけど無人の駅。夕方は通勤や多少の人がいるものの夜には人の気配はほとんどなくなる。

 そんな駅で彼はなにをするつもりなのか。あまりいいイメージは湧かない。

「清水さん、彼はなんて?」
「『少し話したいと思っていた』……と、そう言われた」

「なるほど……」

 スマートフォンで時間を見ると17時過ぎ……まだ、待ち合わせの時間までは4時間以上ある。直接話す以上、今出来る事はほとんどないと思う。

「ところでさ、清水さんはなんでそいつと別れたんだ?」
「それ、あなたに言わないといけない?」
「お前らの関係よく見えて無いし……だって、危害を加えたいくらいにこじれてだんだろ?」

 彼女は不服そうな顔をする。
 どちらから別れを切り出したのか、その原因次第で本当に彼が犯人なのか確証が得られるような気になっていた。

「別れを切り出したのは向こうだよ……」
「は? それで別れたんなら恨まれる筋合いはなく無いか?」

 千佳に目をやると、彼女もそれを黙って聞いている様に見える。

「そうよ? 勝手に怒って、勝手に逆恨みされてる……本当に意味がわからない……」

「で、でも怒った理由とかは言ってたんだろ?」
「理由……ねぇ。原因のあなたがそれを聞く?」

「俺……?」

 彼女と知り合ったのはつい先日。心当たりがあるとすれば、声をかけて千佳に蹴られたあの日。

 原因になるとすれば、声をかけた事なのだけど、実際には10秒にも満たない様なやり取りに、彼女らはその場からすぐに居なくなっている。

「本当、つまらない奴よね。私の断り方が気に入らないんだってさ……」
「俺は、嫌がられたと思っているけど?」
「思い通りにならないと気に入らない人だから」

 あの日の記憶を辿る。清水さんの彼氏はおとなしそうな好青年だった様に思う。

「そんな風には見えなかったけどなぁ……」
「人前では優等生だからね。マウンティングしてからは手がつけられないタイプ」

「なんで付き合ってだんだよ……」
「優しそうだし、羽振りも良かったから付き合ったの……そしたらあんなサイコパスだったの」

 正直俺は、ある意味お似合いのカップルだと思ったのだが、口にはしなかった。

「まぁ、それで俺に声かけたわけか……」
「そういう事。それで、長坂はなんであの時私に声をかけて来たの?」

 全く予想していなかったわけじゃないけど、聞かれたく無い質問。

「俺はあの時……」

 そこまで言うと、彼女は俺を目を見ているのを感じる。

「なんで、その彼氏を選んだのか知りたかったんだ……理由は今知れた訳だけど」
「それが理由?」
「うん……」

「どおりで、私の事覚えてない訳だよねぇ」
「まぁ、あの時色々あってあんまり精神状態も良くなかったっていうか……」

「なんだ、つ…………なぁ」
「え、なに?」
「なんでもない……」

 意味深に呟いた事が気になったが、それ以上はなにも言ってはくれなかった。

 ふと、千佳に目をやると腕を組み、退屈そうに壁にもたれ掛かっている姿が見える。

「千佳さんは寝ておられるのかな?」
「起きてるし……ちゃんときいてたわよ」

「ずっと気になってたのだけど、なんでその子と仲良いの?」

 俺と千佳は顔を見合わせた。多分考えている事はだいたい同じだと思う。

「たまたまバイト先に(入ったら居た)入ってきた」

 息はぴったり、むしろわざとハモっている様にも聞こえるくらいだ。

「そ、それだけ?」
「うん、それだけ……ついでに言うと、仕事教える事になったというのも付け加えると完璧」

「まぁ、色々きっかけも有るし話すようにはなるよねー」

「なんていうか……世の中狭いね!」

 俺はこの時、初めて清水さんの自然な笑顔が見れた様な気がした。元々清純派な見た目なだけに、その可愛さの破壊力は抜群だ。

 右手に清純派美少女、左手には美人ギャル……あれ、これ俺刺されるフラグじゃねぇか?

 浅井さんには悪いと思いながらも、そんなしょうもない事が頭を過ぎる。


「ねぇ、二人とも! まだ待ち合わせまでは時間有るし、そろそろ夕飯の時間だし……お腹空かない?」

「そうは言っても、この辺はカフェかカラオケくらいしかないのだけど?」
「はいはい、あたしらはどこで働いているのかなぁ?」
「いや、店は近いけど……うちの弁当はこの3人はみんな食べ飽きてるとおもうぞ?」

 俺はもちろん、千佳も、清水さんだって関係者だ。少なくとも食べ飽きる位には食べる機会はある。

 それに、店の人の反応が気になってしまう。
 だが、千佳はそんな事は気にしないと言わんばかりに、一人で3人分の弁当を買いに行く。

「千佳ちゃんっていつもあんな感じなの?」
「まぁ……そうだな……」
「かわいくて素敵だよね……」
「それは返答しづらいな」

 千佳が弁当を買ってくると近くのベンチと屋根のある小さな公園に向かう。日が沈むのが遅くなっているとはいえ夕方の西日が俺たちを照らす。

 赤く影が伸びていく感じが、小さい頃に外で遊んだ帰り道の様な、どこか懐かしい気分になる。

 弁当を囲って食べていると、いつの間にか3人で自然に会話している事に気づく。俺は嫌悪感を抱いていた清水さんもなんとなく受け入れられるようになっていた。

 目的が果たせたら、どこか一緒に遊びに行けたら面白いかも知れない。そう思ったのだけど、口に出すと死亡フラグが立ちそうな気がして言わなかった。
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