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異世界転移編

現在と過去

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ゲートを潜ると、そこにはこの世界とは思えない様な無機質な建物が立っている。

「なぁ、これがマザーなのか?」

魔王はコクリと頷き、壁の前に案内した。

「妾はここまでじゃ……まぁ、入りたくても入れんのじゃがのう……」

元々言っていた様に、この世界の住人には入る事が出来ないらしい。理由としてはこの無機質な建物には入り口が無く、この世界の硬さの最上級に位置する物質だからだという。

「この壁を壊せばいいんだよな?」

魔王が頷くと俺はナイフで力一杯壁を突き刺した。

ガッ……ピキッ……。

流石に硬い。自慢のナイフが欠けてしまった。

「アブソリュートミスリル製か……残念じゃがこの世界の物質では傷一つつける事はできんじゃろ?」

「硬さ自体が必要、という事なんだな……」

俺はハンマーに持ち替え、再度壁を叩くと、物質が割れる様な感じでは無く、消える様に砕けていく。

「なるほど、この先は仮想世界では無い様じゃのう……」
「仮想世界じゃないって……マザーとは一体なんなんだよ?」

「記録者と呼ばれておるが、妾の様に存在している訳では無いのかも知れんのう」

魔王自身、役割は知っていてもマザー自体に会った事があるわけでは無い。ここからは未知の領域というわけか……。

「魔王イフル。なんか色々とありがとな」
「礼には及ばんよ、妾の目的のためでもあるのじゃからのう……」

「そうだな。それじゃ、ちょっと行ってくるわ」

そう言って、壊れた壁の中、ゲートの様なところに入ると、方向感覚どころか、五感全てに違和感のある空間。これはなんなんだ?

「おーい! 誰もいないのかー?」

歪んだ空間を光の射す方向に歩く。そこは空気なのか水中なのかすらよくわからない位に、トロみのある空間が広がる。

ピピピ、カカカ……。

電子音の様な物が聞こえてくると、目の前に大草原が広がる。これはなんなんだ?

草原を歩くと、テントの様な物が見え俺は駆け足でそのテントに向かう。テントの中にはオークが沢山居る様だ。

なんで、オークが?

俺は恐る恐る、テントに近づいて行くと声がするのがわかった。

「今日の戦いで、勝てたら俺たちもようやく住む場所が出来そうだな!」
「相手は人間だ、村を作れば交渉ができるだろう」

また、オークは攻めようとしているのか?
でもなんで、マザーの中に……。

「おうおう、お前ら何そんな弱気になっているんだ?」
「ボス! いえ、俺たちも定住できるんですよね?」

「まぁ、相手は人間と言っても軍人だ、命を守る事を考えて行動しろよ? まぁ、いざとなればワシが守ってやるからな! ガハハハ」
「ボス……頼もしいっす!」

俺はボスと呼ばれる大柄なオークをみて、驚く。
来たばかりの時に倒した"オークキング"だ。

あの攻撃力。また多くの犠牲者が出るかも知れない。だか、次の言葉に耳を疑った。

「今回の戦、相手は"赤翼の騎士団"らしいですよ?」
「あぁん? そいつぁ、結構有名な奴じゃねぇか……なんでそこまでしてワシらの生活を奪おうとしやがる?」

赤翼……いや、エリカは今は軍人じゃ無い。
となると……そういう事か。

これはマザーの記録なんだ。
マザーはきっと、俺の存在を頼りに、関わる記憶を呼び出しているんだ……。

そしたら、あの場所にまだゲートがあるはずだ。
俺は急いで、ゲートの場所に走った。

はぁ、はぁ……。

ゲートのあった場所の近くでは、エリカの部隊が準備している様子だ。よく見ると銀色の鎧を着たエリカが何か話している様にも見える。

こんな感じだったんだな……。
俺は物陰に身を潜めていると、着た時の部屋にエリカが入って行くのが見えた。

やはり、俺が来た日の直前の記憶なんだ。
となると、今エリカはあの時の手紙を書いているのだろうか?

エリカが出たあと、俺は部屋に入ると案の定手紙とマントが置いてあり、ランプの明かりがついているのが分かる。

これは……もしかしたらもうすぐ俺が来るのだろうか?

俺は慌てて、ランプの明かりを消すと、部屋の隅にマントを被り身を潜める。その瞬間、机のそばにゲートが開くと、影の様な物が現れる。

あれは……俺か?

影は手紙を取り、マントを被るとドアをぶち壊しで外にでていった。

記録されていないというのは存在があやふやな状態になるという事なのか……?

記録……俺はあの時の状況のバックグラウンドを見れた気がする。このゲートでマザーの所に戻るのか?

そう思い、俺は開いていたゲートの中に入ると強い目眩で倒れそうになった。


───あれ?
目眩が収まってくると、これは、俺の部屋? 着ていたマントも、欠けたナイフも持って居ない。まさか今までのは夢だったのか?

それともゲートから帰って来てしまったのだろうか?

頭痛お殺し確かめるために、リュックを開く。
答えは、俺のリュックに入っていた、魔王の人形が教えてくれた。
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