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異世界転移編

魔王の正体

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「今、なんと?」
ゾーハルは声に出した。

「魔王に会いに行く。俺はそれがいいと思う」

「修平が、そう言うならそうするがいい」
意外にもエリカは全く止める様子は無い。

俺はナイフを納め、ゾーハルの元に歩き出す。

ゾーハルは、俺を見て
「イフル様の所には、1人で来てもらう事になるんだけど、いいのかい?」

「まぁ、それが条件なら……」

「修平兄ぃ……」

声に振り向くとアドリが泣きそうな顔をしている。

「帰ってくるよね?」
「もちろん、そのつもりだよ。エリカ、ランツェルアドリを頼んでいいかな?」

ランツェルは戸惑いの表情をうかべる。エリカは仕方ないというように微笑み、

「ああ、何かあれば連絡してくれ。ゲートならいつでも送れる様にしておく」
と言った。

ゾーハルは、ゲートを開きリリスを送る。

俺は一旦エリカの元に行き、
「勝手を言ってすまない、だけど今後の事やこの世界を知る為には避けて通れないと思うんだ」

「私は理解しているつもりだ。修平が問題無いと思ったのなら止める事は出来ない」

俺は、エリカの頭を寄せ耳元で囁く。
「エリカなら止めてくれてもいいけど?」

「修平、それはどう言う意……」
俺はエリカの唇にキスして塞ぐ。

「こういう事!」
エリカは顔を赤らめて、俯いた。

俺はそのままゾーハルのゲートに振り向かずに入る。振り向くと、気持ちが揺れそうだと思った。

ただ、俺も今はエリカの顔を見れる気はしなかった。





ゲートを抜けると、想像とは違い洋館の様な作りの建物に着いた。

魔王と言えば城だと思っていたのだが……。

「ねぇ……一つ聞いていいかい?」
「なんだよ?」

「なぜ、急に来る気になったんだい?」
「うーん。"普段わがままを言わない魔王が会いたいと言った"という事が気になってね」

「そうかい?」
「あと、思っている以上に危害を加えそうに無かったからかな?」

「イフル様には、そんなつもりは無いだろうねぇ……」

するとゾーハルは、扉の前に止まると、
「この部屋だよ、ここからは1人で行ってくれないかい?」

「わかった……」
俺はそう言って、年季の入った木の扉を開く。
奥にある椅子に誰かが座って居るのがわかる、あれが魔王なのか?

ぼんやりとした暗い部屋の灯りの中俺はおそるおそる近づくと、少しづつ魔王の姿が見えてくる。

これが……魔王?

「よく来たのう? 妾がイフルじゃ」
そう言った魔王はアドリより小さい可愛らしい女の子だった。

「ふむ……妾の見た目に驚いておるのか?」

「えぇ……まぁ」
「あまり気にせんでよいぞ? この姿が一番誰とでも話しやすいというだけじゃ」

「なるほど……」
確かに大きな姿や厳ついような見た目で魔王と言われると萎縮したかも知れない。

「さて、今回は……色々あったみたいじゃのう?」

魔王はどこまで知って居るのだろうか?
もし自分の配下を殺された事を知っていたとして、それでも普通に話すのか?


「お主は昔あった"精霊の禁忌"というのを知っておるか?」
「いえ、何処かで聞いた気はするのですが……」

そう言うと、魔王イフルは過去の事を話してくれた。

世界の始まりの際、記録者マザーを中心に4人の管理者が置かれた事。

その管理者というのは世界を安定させる為のそれぞれが独立した仕組みなのだと言う。

そんな中、1万年の時を経て色々と知識や経験が蓄積された管理者は存在に疑問を持つようになった。

ある者は、管理する事を自動化し、眠る事を考え、ある者は自由になりたいと願った。

そこで起きた事件が"精霊の禁忌"

「まぁ、各々が世界を安定させる必要性を感じなくなったわけじゃな……だが、それでもしてはいけない事がある」

「それは……? なんですか?」
「管理者と同等の存在を生み出す事じゃ」
「それって……ドライア様の事ですか?」

「そう、ドライアは人との子を作りそれを破った。妾はそれを排除する為、管理者の使命を果たす為に動いたんじゃ……じゃが、負けた」

魔王イフルは、悲しそうな顔をした。

「まさか、その時の英雄がバーレンハイム准将?」
「そう、彼らはドライアを支持し、妾の上級魔族を殺し、最後に残ったメフィストフェレスも分断した。奴はそれほどに強かったのだ」

「なるほど……それで、それと今回の件はどのような?」

魔王イフルは、前屈みになっていた身体を背もたれに預けると、
「あの2人は、お主らとは別の事で戦っておった。じゃから気にする事は無い」

なるほど、過去の戦いの延長線上というわけか……。

「でも、それならなぜ俺に会おうと?」

魔王イフルは、少し間を開けるように。
「妾はなぁ……死にたいんじゃ」

「死に……たい?」
「そう、ぐうたら寝るのも、禁忌を破るのも妾には出来ん。そして唯一妾を殺す事が出来るのが其方だったという訳なんじゃ」

魔王は、実は真面目なのかもしれない。
任務に忠実に生きてきた。だからこそそこから抜け出す方法が"死ぬ事"意外に無かったのだ。

「俺以外殺せないって……なんで?」

「お主の世界には、ネットゲームという物があるじゃろ?」
「なんでそれを?」
「ドライアが、その"スマホ"とやらを繋いだ際に中を見せてもらったんじゃ」

なるほど……。

「この世界は、言うなればマザーという記録者が時を刻み、管理者が新しいストーリーを構築するという形のゲームなんじゃよ。その中でもラスボスとして存在する妾は唯一設定上何度でも復活が出来る存在なんじゃ」

ネットゲームのラスボス?
そしたらドライアの言っていた事はやっぱり……。
「だけど、それじゃ俺が殺しても意味がないですよね?」

「だから、お主にはマザーを壊し、この世界を終わらせて欲しいんじゃ」

魔王の言った意味がわかると、俺は怒りや怖さより、悲しさがこみ上げてきた。
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