上 下
23 / 32
異世界転移編

ランツェルさんは隠さない

しおりを挟む
その日はいつものように朝の澄んだ空気で眠気を飛ばす。

駐屯とはいえ、なんだかみんなでキャンプでもしているような気がしていた。

結構早く目覚めた筈なのだが、エリカや騎士達は既に起き、朝食の支度まで始めている。

「エリカ、おはよ!」
「ああ、よく眠れているようだな。アドリはどうだ?」

「あいつはまだ寝てるよ。なんなら叩きおこそうか?」
「いや、駐屯地であそこまでぐっすり眠れるのはもはや才能だ。そのままにしてやってくれ」

「そうだな……」

よく俺はアドリを叩き起こす。基本的に放っておくといつまでも寝ているからなのだが、確かに時々かわいそうにも思えてくる。

既に駐屯して早1週間が過ぎているせいか、アドリもこの雰囲気に慣れ、テントでも家の様に眠るようになった。

エリカは多分、その事に気付いていたのだろう。
やはり、エリカはそれぞれの様子をくまなく見ているのだと思う。

朝食の時間になると、流石にアドリをおこす。
アドリにちょっかいをかけ、遊びながら朝食に向かうのだが、ランツェルさんの視線を感じる。

以前は、異世界人の俺に興味があるのだと思っていたが、今は違う。
ランツェルさんは俺がアドリと遊んでいるから見ていた事に気づいた。

普段なら、この視線の後練習する為に声をかけるのだが……詳細を知ってしまった事で少し気がひけていた。

「ランツェルさん……? 練習しませんか?」
「はい! 構いませんよ!」

ランツェルはアドリを時々チラチラ見ると大鎌を出した。アドリはニコニコしながら俺たちの練習をみている。

「修平さん、いきますよ!」

どフッ……

「痛っ!」
「わーすいません!」

お前今確実にアドリにいい所を見せようとしただろ……幸いいつものようにダメージはほとんどなかったが、普通の人なら大怪我していただろう。

すると、ランツェルの顔が急に険しくなった。

「ランツェルさん? どうしたんだ?」

「来ました……」
そう言うと、エリカとアイコンタクトする。

「修平! アドリをたのむ!」
エリカの声に反応し、俺はアドリの元に走る。

「ランツェル!」
「はい!」

ガシッ……。

エリカがランツェルに声をかけた瞬間ランツェルの大鎌が直ぐとなりに来た。

魔族……いや魔物か?

角の生えた山羊の様な人型の魔物が、ランツェルの鎌で止められている。

「ふぅ……お嫁さんに出だしはさせませんよ! 騎士ですからねっ!っと……」

そう言ってランツェルは鎌を振り魔物を飛ばした。こいつやっぱりかっこいいな……。

「お嫁さん? ランツェルさん結婚するの?」

いや、敏感になれとは言わんが、お前はもうちょっと危機感を持て!

俺はアドリを抱えてその場から少し離れた。

「ランツェル!」
「3!」
「違う、4だ」

騎士の決まり事なのか? エリカとランツェルは連携をとる。

ランツェルが飛ばしたのとは別の魔物も姿を表す。フェレスは来ていないのか? 俺はアドリと壁際に隠れた。

ランツェルとその部隊の精鋭達はそれぞれ魔物につく。エリカと、ランツェルは一体づつ後1体を4名で相手をする。

「直ぐフォローに向かう!」
ランツェルは部下に声をかけ、目の前の魔物に切りかかる。エリカは何かを気にしながら剣を抜いた。

エリカはやはり強い……一体を即座に捌き、ランツェルの部下が相手している魔物もあっさりと斬る。

ランツェルも難なく魔物を倒した。
「少佐、全然鈍ってないですね!」
「ランツェル、後1体いると言った筈だ。無駄口は命を落とすぞ」

エリカは鋭い眼差しで壁を見る。
すると、手を叩きながらフェレスが現れた。

「お見事です……ですが、この状況。わたくしへの歓迎と捉えた方が宜しいですか?」

そう言って、フェレスはニッコリと笑う。

「意外だな、もっと大勢で来ると思っていたぞ」
「はい、これはあくまで最終確認。もう直ぐメフィスが4人の同胞を連れてきます。もし気が変わる様でしたらわたくしにお申し付け下さいね」

そう言い終わる瞬間、エリカの剣がフェレスの喉元で止められる。

「おやおや? 気が早いお嬢さんですね……」

するとエリカはすぐに引いた。

「少佐の剣があんなにあっさりと……魔族とはそれほどなんですか?」

「あー、いや俺に聞かれてもなぁ。でも前回もあの炎の矢を消されているからかなり強いと思う」

ランツェルさんは覚悟を決めた表情を浮かべ言った。

「修平さん、僕の嫁さんを頼みます……」

めちゃくちゃカッコいいけど、冷静に考えてたらヤバい奴だよ? というかお前実は日本で育っただろ?

だが、フェレスは前回も今回も奴自身からは攻撃していない。攻撃力が無い訳では無いだろう。覚悟しといた方がいいかもな……。

そう考えながらおれはアドリを掴んでいる手に力が入る。

「はい、時間切れです。まだ4人は来てないですが、意思が無いと言う事でこちらも強行手段を取らせていただきますね」

そう言って、フェレスは動き出した。

「お前ら逃げろ!」
ランツェルは部下にそう言ってフェレスに水の刃を飛ばす。

それを躱し、拳を繰り出し、1人また1人と一瞬で4人とも倒してしまった。
攻撃された痕は鎧が割れて肉がえぐられている様だ。

なんだよあれは……拳法か何かなのか?

ランツェルは怒りに任せフェレスに向かう。

「ランツェル落ちつけ!」

エリカの檄にも反応せず、水鎌を叩きつけた。

「残念……経験がまだまだの様ですね」

バリッ……。
フェレスの腕が、ランツェルの鎧を破り腹に食い込む。

「ふっ……僕は水属性ですよ?」
「しまっ……」

ランツェルは水でフェレスを包み、腹の出血を魔法で飛び出さない様に抑えている様だ。

エリカはランツェルの元に向かい、回復を当てる……。

「部下はとりあえず死なない程度には治した。応急処置になるから隙を見てアドリに治してもらえ


「それは……このまま死ねないっすね……」

するとフェレスはまとわりつく水を飛ばす。
「ふぅ……水魔法とは厄介ですね」

「フェレス……私が相手をしよう」
「ほう……赤翼のお嬢さんが自ら?」

「あまり舐めない方がいいぞ?」

エリカとフェレスの間に緊張が走る。

ランツェルは、ふらふらになりながら俺たちの元に来た。

「少佐はアドリちゃんに治してもらえと言ってくれているが、少佐でも無理な怪我だ。気を遣ってくれているのだろう、それくらい自分でもわかる」

「いや……ランツェル?」
「修平、慰めはいらない。やはり死亡フラグだったのかもしれんな……」

いや、やっぱりお前ここの人間じゃないだろ?

「最後に、アドリちゃんとキスさせてもらえないか?」
「えっ? アドリと? ちょ、ちょっと……」

こいつ何言い出してんだ?
アドリも照れてないでさっさと治してやれ、そしてしっかり社会的に殺してやれ!

「あー、えーっとね。キスしなくても治せるよ?」
「……? 治せ……る?」
「うん……全然大丈夫……」
そう言うと、アドリは精霊を出して綺麗に治した。

「へっ? それじゃ少佐は?」
「うん、いつもどおり効率的な事しか言ってない。多分エリカはランツェルがアドリを好きなの気付いてすらないとおもうよ?」

「はは……少佐はそう言う人でしたね」

ランツェルは顔を赤くすると
「アドリちゃーん! 好きだー!」
おい、隠さなくなったな!

アドリはニッコリと笑って
「アドリもランツェルさん好きだよ?」

アドリ……いつからそんな小悪魔に?

ランツェルは顔を交換したくらい元気になると、
「青鎌部隊隊長、ランツェル・ファン・フュルスト、エリカ・ヴァレンシュタイン少佐を援護致します!」

だが、
「ランツェル、邪魔をするな……」

そう言った瞬間、エリカはフェレスに斬りかかるとフェレスのタキシードが裂ける。その直ぐ後に頭を蹴り飛ばした。

「まだだ……魔族とやらはこんなものではないだろう?」

「クッ……赤翼の名が轟くだけの事はありますね。今まで手加減していたという訳ですか……」

「なぁ、ランツェル。エリカってお前とそんなに差があるのか?」
「いえ……自分の知っている少佐はここまでは強く無かったです」

「それじゃ、強くなったのか……」
「まぁ、先輩の話だと少佐は養成所に入るまではどちらかというとか弱い女の子だったみたいですから強くなっているのには違和感無いですけどね……」

フェレスはエリカにどんどん押され、刃で刻まれて居る。

最後の刃を突き立てると、アドリくらいの黒髪の女の子が黒しゃもじの様な武器で剣を止めた。

「フェレスちゃんにこれ以上攻撃したらしんじゃいます!」
アニメ声の女の子はやはり魔族なのだろう。
頬にはハートのマークがある。

「戦いとはそういうものだ」
エリカは冷静にそう言った。

「ツンツンしてたら美人が台無しだゾッ!」
彼女はそういうとエリカの鼻にタッチした。

エリカより速い……??

するとその他の魔族もギブスを付けたメイドを入れた4人が姿を現した。

ちょっと……フェレスだけでもギリギリなのに、あと5人も居るのかよ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

最強ドラゴンを生贄に召喚された俺。死霊使いで無双する!?

夢・風魔
ファンタジー
生贄となった生物の一部を吸収し、それを能力とする勇者召喚魔法。霊媒体質の御霊霊路(ミタマレイジ)は生贄となった最強のドラゴンの【残り物】を吸収し、鑑定により【死霊使い】となる。 しかし異世界で死霊使いは不吉とされ――厄介者だ――その一言でレイジは追放される。その背後には生贄となったドラゴンが憑りついていた。 ドラゴンを成仏させるべく、途中で出会った女冒険者ソディアと二人旅に出る。 次々と出会う死霊を仲間に加え(させられ)、どんどん増えていくアンデッド軍団。 アンデッド無双。そして規格外の魔力を持ち、魔法禁止令まで発動されるレイジ。 彼らの珍道中はどうなるのやら……。 *小説家になろうでも投稿しております。 *タイトルの「古代竜」というのをわかりやすく「最強ドラゴン」に変更しました。

元最強魔剣士に転生しちゃった。~仇を追って旅に出る~

飛燕 つばさ
ファンタジー
 かつて大陸最強の魔剣士隊長と呼ばれたジンディオールは、裏切り者のフレイによって能力を奪われ、命を落とした。  しかし、彼の肉体は女神エルルの手によって蘇生された。そして、日本のサラリーマンだった風吹迅がその肉体に宿ったのである。  迅は、ジンディオールの名と意志を継ぎ、フレイへの復讐を誓う。  女神の加護で、彼は次々と驚異的な能力を手に入れる。剣術、異能、そして…。  彼は、大陸を揺るがす冒険に身を投じる。  果たして、ジンはフレイに辿り着けるのか?そして、彼の前に現れる数々の敵や仲間との出会いは、彼の運命をどう変えていくのか?魔剣士の復讐譚、ここに開幕!

HEAD.HUNTER

佐々木鴻
ファンタジー
 科学と魔導と超常能力が混在する世界。巨大な結界に覆われた都市〝ドラゴンズ・ヘッド〟――通称〝結界都市〟。  其処で生きる〝ハンター〟の物語。  残酷な描写やグロいと思われる表現が多々ある様です(私はそうは思わないけど)。 ※英文は訳さなくても問題ありません。むしろ訳さないで下さい。  大したことは言っていません。然も間違っている可能性大です。。。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...