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異世界転移編

アドリの気持ち

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翌朝、目を覚ますとエリカは机の上にパンとコーヒーとミルクを用意している。宿のサービスで貰える"モーニング"みたいなものらしい。

「エリカ、すまない」
「なんだ? 朝食の事か?」
「ああ、取ってきてくれたんだろう?」

「構わない……」

エリカは普段どおり、淡々と準備をする。
しばらくして、アドリも目を覚ました。

「あー、おはよーごぜーます。二人ともはやいですねー」

アドリはまだ少し寝ぼけながら言う。
やっぱり根はぐうたらしているタイプの様だ。

「アドリの分もエリカが持ってきてくれているぞ?」

アドリは眠そうな目を擦り、机に座ると溶けるように眠り、そのままパンを食べだした。

エリカはそれをみて、
「アドリは疲れているのだろう」
と言う。

いやいや、10歳そこらの少女に俺が気にし過ぎなのか?
どう見てもぐうたらしているだけなのだが?

溶けたアドリは放っておき、俺たちは準備をする。溶けたアドリを起こし本来の目的スマホの復活を期待してアルカナイのおばさんの店に向かった。

「ねぇねぇ、アドリ寝巻きなんですけど」
「まぁ、Tシャツだし大丈夫だろ」

ゆったりとした大きめのTシャツはそう言う服にも見えなくはない。

「下パンツなんですけど……」
「ワンピースって事でいいだろ!」
「むう……」

そのやりとりをエリカは微笑むだけで特に触れはしなかった。

アルカナイさんの店に着くと、おばさんは待っていたかの様に店のカウンターに座っている。

「遅かったじゃないか!」
俺たちに気付くとそう言って、エリカに声をかける。

「申し訳ない、トラブルに巻き込まれてしまっていた」

「そっちの兄ちゃんから聞いてるよ。昨日の魔道具の件だけどね……」

アルカナイさんは少し困った顔をする。
「無理……だったんですか?」
「そうだねぇ……そのまま繋げると言うのは私の技術では難しいねぇ……」

少し期待していただけに、残念だ。

「だけど、このパーツの替わりになる物が出来ればある程度使える様にはなる」

アルカナイさんが見せたのはSIMカードだった。

「それで、昨日作ってみたんだけど……」

そう言って取り出したのは同じ形の薄い石。何やら魔法陣の様な物が細かく刻まれている。

「これを使えば、特定の人となら繋がる」
「アルカナイ、これは通信魔法だな」

「そう、端末に繋がる様にアレンジしてある。一度使ってみておくれ?」

俺はアルカナイさんの作ったカードをスマホに挿すと、電波のマークがつく。

「これ、復活してませんか?」

そう言った途端にチャットアプリの通知が表示される。

"エリカ"
テスト

「エリカからチャットがきた!」
「どうやら繋がる様だ、そのスマホを通信先として感じる」

「そのカードで元々出ていた通信魔法をこっちの魔法で繋がる様にしてある」
「修平、これなら簡単に送れるぞ!」

チャット専用となっているが、エリカが繋げられるのは今回の件を考えると助かる。

だが、本来の目的は元の世界に帰る事。その道は閉ざされたままだった。

「スマホは使える様になったけど……」
「そうだな……」

エリカもその事には気づいていた。

「なになに? 修平兄ぃと通信出来る様になったのにエリカさんもどうしたの?」

「ああ……修平、アドリには言ってもいいのか?」
「まぁ、そもそも秘密にはして無いからな」
「そうか……」

そう言うと、エリカはアドリに俺の経緯をはなす。アドリはさほど驚いてはいない様子で言う。

「ねぇ、帰れるようになったらアドリも連れて行ってくれる?」
「連れて行くって俺の世界にか?」
「うん……」

「それは問題無いとは思うけど……」

元々エリカも連れて行く予定だったのだから問題はない。

「それなら……」

アドリは口籠る様に呟いた。

「アドリ、何かあるのか?」
「アドリのババ様に相談してみる気はない? ババ様なら知識も魔力の使い方も色々知っていると思う」

エリカは、少し考えると
「もしかして、アドリのババ様とは、精霊の森のドライア様の事か?」
「うん……ババ様は森の精霊、ドライアドの末裔だよ」

精霊の森、今更不思議がる事では無い。アドリがドライアドのクオーターならおばあさんがドライアドなのは当たり前だと納得する。

「確かに、ドライア様と話せるなら何かきっかけは頂けるのかも知れないな」

そう言ったエリカは少し悩んで居る様に見える。
俺はその雰囲気を察し尋ねた。

「エリカ、何か気になるのか?」

彼女は少し頷くと
「精霊の森に行くにはゲートが使えないのだ。となると魔物との戦闘は避けて通れない」
「その魔物は強いのか?」

「隊を率いて戦う場面は何度か経験はしている。修平はともかくアドリを守りながらと考えるとな……」

そう言う事か。
あくまでエリカは俺たちが戦闘に慣れていないのを心配している様だ。

そんな時、アルカナイのおばさんが声をかける。
「女騎士さん、それならこれを買って行かないかい?」

そう言ってペンダントの魔道具を見せた。

「なんですか? これ?」
「これかい? ちょっと嬢ちゃん……」

そう言ってペンダントをアドリにつける。

「兄ちゃんはかなり防御に特化しているらしいじゃないかい? ちょっと嬢ちゃんに抱きついてみてくれないかい?」

えっと……アドリに……抱きつく?
少し考え、アドリを見ると手を広げながら待っている。

「失礼しまーす……」

俺はアドリと抱き合う形で抱擁する。

「アドリ、ちょっと恥ずかしいかな……」
「ごめん。俺もなんとなく照れる」

「何イチャイチャしてるんだい? 後ろからで構わないよ?」

その瞬間、ハッとした様にアドリを離し、後ろから抱きついた。

「うん、女騎士さん軽く叩いてみてくれないかい?」

児童虐待にすら見える絵面でエリカはアドリを叩く。

「あれ? 痛くない!」
「だろう? 守りの効果を付与してある、それも安定性の高い兄ちゃんが近ければ更に力を発揮する代物だよ!」

「アルカナイ、商売が上手いな。幾らだ?」
「金貨3枚でどうだい?」
「まぁ、いいだろう。頂くことにする」

確かにアドリを守る方法が出来ると言うのは大きい。だけど抱きつかないといけないのは欠陥品じゃないか?と思ったがエリカが納得しているので、あえて言わなかった。

「ねぇ、修平兄ぃ」
「アドリ、どうしたんだ?」
「アドリを彼女にする気は無いかな?」

少し照れくさそうに言った。

「彼女?」
生まれてこの方彼女はいない。だけど美少女とはいえ10歳位のアドリは少し気が引ける。

「今でもかわいいし、あと5年もしたらお姉ちゃんみたいになると思うよ?」

アリアさんみたいにか……俺の心は少し揺れる。
だが、直ぐに遮られた。

「ダメだ」
「えー? なんでエリカさんが? もしかして……」アドリが何か言おうとすると。

「修平はまず帰る事で手一杯だから余計な事を考えさせるのはやめないか?」

「余計な事ってひどーい」

何かいつもの完璧感のあるエリカにしては違和感を感じるが俺の事を考えてくれての事だろう。

「とりあえず、精霊の森までの足を探そう」

そう言ってエリカは店を出て行ってしまった。
俺たちはアルカナイさんに礼をいいエリカの後を追った。
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