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異世界転移編

お化けより怖いのは?

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百戦百勝、無敵とまで言われる女騎士兼少佐"エリカヴァレンシュタイン"聡明な彼女は、数々の難解な戦地で戦略と実力を駆使し勝利を収めてきた。

だが、あくまでそれは戦地での話。

俺、木本修平は平凡な高校生活を過ごしてきたはずだった。ただ、普段連絡を取り合う様な友達がいなかっただけで……。

だがそれも俺の世界での話。





「エリカ……俺どうしたらいいかな?」
「すまない……」

「帰れなくなっちゃった……」
「本当に申し訳ない……」

エリカのせいでは無いのは分かってはいるのだけど、自分の置かれた状況を受け入れられずにいた。

「と、とりあえずだな客人として一旦私の家に来るといい。そうだな、そうしよう。それからどうすれば帰れるか一緒に考えようじゃないか」

エリカはこの予想外の出来事に酷く動揺しているのが分かった。とはいえ帰る場所がなくなった俺を、エリカが助けてくれるのは本当にありがたいと思う。

それから、特に何もする事が無い俺は、祝勝会にエリカと顔を出す事になった。

「少佐! この方があの……」
「そうだ、オークキングを素手で倒した英雄だ」

「おおぉぉぉ!」

エリカは俺が居やすくしようとしているのか、それとも部隊の士気を高める為なのかはわからないが英雄として紹介してくれる。

「私は、この部隊で中尉をさせて戴いているルドルフと申します」
「あ……はい……」
「先の戦闘での──」

するともちろん、次々とエリカの部下達に挨拶され、乾杯を交わすことになる。この辺りはどこの世界も同じなのかも知れないと思った。

思っていたより畏まった祝勝会は、帰還する為か意外とすぐに幕を閉じた。俺たちは馬車ではなく、竜車とでも言うべき乗り物に乗り帰路につく。

「というかこの竜車? ガルムじゃないのか?」
「ああ、戦闘時以外はこうやって数頭で竜車を引いている。その方が効率的だろう?」

「なるほどなぁ……」
再利用みたいな気もするが移動と戦闘を兼ねていると言うのは確かに効率的だとおもった。

それから2時間位して、竜舎と言う小屋に着く。
エリカは手際良くガルムを洗い藁を引きエサをならべる。戦闘する為の準備とは結構大掛かりなものなのだと感心していた。

時計の針が23時を過ぎようとしていた頃、エリカは纏めた鎧を片手に声を掛けてきた。

「待たせたな、ああしてガルムの世話をするのも騎士の仕事の一つでな……」
「いや、エリカの手際が良すぎて手伝えなかったよ」
「それは構わない、ではそろそろ帰るとしよう」

竜舎から家までは15分程度で着くらしい。
普段戦闘時はこの位から俺とメールをしていたのだと言うが、帰り道にメールをするとか親近感が湧いてくる。

大きな屋敷が見え、中に入るとメイドなんかは居ない様に見える。とはいえ流石は少佐。立派な屋敷に住んでいるのだなと感心していると、エリカは何も言わずに2階へ上がる。

扉の前に立つと手をかざし鍵を開けた。
この世界のオートロックというわけか……。

ドアを開けると20畳は無いくらいのこじんまりとした殺風景な部屋が広がる。少し大きなベッドと小さなデスク。鎧を立てる台が一つの部屋にまとまっている。

「ここが私の部屋だ、くつろいでくれ」

えっと……もしかして……。
日本の感覚で言えば広いワンルーム、風呂トイレキッチン別と言ったところだろうか?
だが……異世界の少佐の部屋とは思えないサイズ感だ。

「エリカ……一つ聞いていいか?」
「構わない。なんだ?」
「この建物はなんなんだ?」

そう言うと不思議そうにエリカは答えた。
「いわゆる部屋貸しの集合住宅というものだ。修平の世界にはこういった住居は存在しないものなのか?」

やはり、そうか……俺は何かを勘違いしていた様だ。エリカはこの世界での高級マンションに住んでいる様な物なのか?

「いや、存在するが屋敷の様な造りでは無いから少し驚いただけなんだ」
「世界が違えば文化も違う、いちいち驚いていても仕方ないぞ?」

それもそうなのだけど、エリカはこの状況をなんとも思っていないのだろうか? てっきり俺は屋敷の一部屋をあてがわれるものだと思っていたのだが……まさか同室だとは。

エリカは特に気にしてはいない様子。
それどころかルーティンなのだろう、鎧のメンテナンスを始めた。

俺はベッドに座り、エリカの作業を見ていると外では雨が降り始め落雷の音が響いた。

「雨が降って来たな」
布の様な物で鎧を拭きながらエリカは言った。
暗い明かりと屋敷に当たる雨と雷の音がまるでホラー映画の様な雰囲気を醸し出す。

「なんか幽霊でも出そうな雰囲気だな……」
「幽霊? それはどういう物なのだ?」

どうやらこの世界には幽霊という概念はないらしい。
「死んだ人の怨念みたいなものかなぁ……」
「なるほど、アンデットが出そうというのはわからないでもないな」

「アンデットはゾンビだろ? 魂の方だよ?」
「魂とは魔力みたいなものか……魔力が抜けて実態の無い恨みの化け物として出る……」
「そうそう! まぁだいたいそんな感じかな?」

エリカはなんとなく理解してもらえた様だ。
「それなら今日修平が倒したオークキングあたらりの怨念が襲って来たりしてな!」
「いやいや、怖い事言うなよ……」
「まぁ、もしアンデットになって来たとしても先に街の門が騒ぎ出すだろうから安心してくれ」

この街は大きな外壁と門を守る兵士がいる。だから復讐に来た場合の対応は門からという事なのだろう。

そんな事はお構い無しに、外の雨の音が強くなり落雷も大きく響く。

ドーンと言う雷の音に紛れ

"許さんぞ……"

と何処からか低い声が聞こえた気がした。
「エリカ、変な冗談はやめてくれよ」
「どうした? 怖くなったりでもしたか? 私はもう少し時間がかかりそうだ。先に汗でも流してきたらどうだ?」
「あ、ああ……」

空耳だったのだろうか?
疲れや今日の戦いのせいだろう。俺は気にしない様にしようと考え、エリカの好意に甘え風呂を済ませた。

風呂から上がると入れ替わる様にエリカも入る。
俺は部屋でどの様に寝るのが正解なのかを考えるが、床で寝るかベッドで寝るかの2択しか無い。

しかも布団は一つしか無いので床だと確実に寒くて死ぬかも知れないと思う。

エリカが風呂から上がるとカットソーとパンツだけで現れた。

「エリカ……その格好でねるのか?」
「ああ、私はいつもこうだぞ?」

はい、床確定。風邪引いたら看病してもらおうと、俺はゆかにスペースを作る。

「修平? 何している?」
「いや、寝る場所の確保を……」
「床が好きなのか? すまないが布団は一つだからベッドで寝てもらえると助かる」

「えっと……エリカは?」
「もちろん、同じ布団だ。寝相はいい方だから安心してくれ」

そう言うとエリカは自然とベッドで横になる。
俺も流れに任せて横になってみる事にした。

エリカの呼吸が聞こえ、かなり近いのが分かる。
風呂上りのいい匂いを微かに感じ、チラッと横目でエリカを見る。

「どうした? やはり気になるか?」

視線を送るだけで気付く。こういう時に騎士の敏感さを出すのはやめて欲しい。

「いや、普段横向きに寝ているから慣れなくてね……」
「それなら、こちらを向いて寝れば良い」

そう言って俺の体を寄せた。
顔が近い……というか、軽く抱きつく必要はあったのか? 

それにしてもかわいい顔をしている。柔らかい感触にも俺は心臓の音が大きくなるのがわかる。

エリカは俺の事どう思っているのだろうか?
もしかして、俺を待っている?

色々と考えを回らせていると、エリカは俺の額に手を当てて言った。

「慣れない環境で眠れないのだろう?」
すると、エリカの手が心地よくリラックスし、意識が遠くなるのを感じた。

魔法……?

そう思ったところで意識はなくなった。





ガンッ!

「痛っ!?」
俺は額に鈍い痛みを感じる。
朝……では無い様子だが、俺は寝ていたのか……エリカの奴寝相はいいって言ってたはずなのに……。

眠気で頭が回らない中俺はそっと目を開けると狂気に満ちたオークが鉈で頭を叩いたのだと悟った。

まさか、昼間の復讐か!?

「許さんぞ……」
オークは俺にダメージが無かった事も気にせず、もう一度振りかぶる。

その瞬間、俺は隣で寝ていた筈のエリカが居なくなっている事に気づく。

エリカは無事なのか?
俺はオークの鉈を腕で受け止める。この世界の武器なら少し痛いくらいで切れたりはしない様だ。

止めたと同時位に"ジャー"とトイレを流す様な音が響くと、すぐ後に扉が開き眠そうなエリカが姿を現した。

「エリカ! 夜襲だ!」

俺は咄嗟にエリカに叫ぶと、エリカは気を正す様に目を見開き、5つの炎の矢を展開する。

しかし、矢は放たれる事は無く出すのをやめた。そして、エリカの口からは予想外の言葉が飛び出した。
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