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3話 甘やかな時間
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その夜、ささやかな晩餐会が開かれると、またしてもレキウスは二人の兄に翻弄されることとなった。
テーブルには、兄王子たちの歓迎の意味も込めていつもより豪華な料理が並んでいた。
「美味そうだな」
ニヤリと笑ってログナーがテーブルへと視線を馳せる。
芳醇な香りのワイン、香辛料たっぷりの肉料理、ふっくらと柔らかなパン、甘く瑞々しい果実……などなど。兄王子たちが王宮で口にしているものと比べると質が落ちるかもしれないが、レキウスにしたら素晴らしい料理に思えるものがずらりと並んでいる。
ログナーはレキウスの肩をぐい、と引き寄せると自身の隣の席に座らせた。
「あ、の……」
世間知らずのレキウスでも、さすがに上座に自分が座ることは躊躇われた。
オルバン司教ならこんな時、レキウスを酷く打ち据えたものだ。鞭やベルトや、その他のものを使って、レキウスが啜り泣いて許しを請うまで暴行を加えた。行儀の悪い子に対する仕置きだと彼はよく言っていた。
「気にするな、レキ。この席にお前が座ると、顔がよく見える」
ニコニコと親しげな笑みを浮かべてログナーはテーブルに肘をつく。
「ログナー、マナーが悪いよ」
レキウスの向かいに座るユグルドがワイングラスを片手にログナーの肘をつついて注意する。
「マナー? 王宮にいるわけでもないのに、そんなもん意味がないだろう。だいたいお前は堅苦しすぎるんだよ、ユグルド」
はん、とログナーは鼻で笑った。
「スレンが料理を用意して、俺達はそれを美味いと言って平らげる。それでいいじゃないか」
なあ? とログナーに真顔で迫られ、レキウスは困ってしまう。
食事の作法はスレンから一通りは教えられているから困ることはない。
だが、本当はログナーのように好き勝手してみたくもある。
「……スレンの料理は世界一美味しいんだよ」
オルバン司教には田舎料理と散々貶された料理だが、レキウスにとってはこれが世界一のご馳走だった。
少し怒ったようなレキウスの言い方は幼い子どものようにも見えて、双子の兄たちはさらにニコニコとするばかりだ。
「そうだね。スレンの料理は本当に美味しそうだ。王宮で出される料理に匹敵するほどのごちそうだ」
ユグルドはそう言ってさっと祈りの言葉を口早に唱えると、羊の肉を口に入れる。ラム肉には、ワインソースがよく合っていた。ハーブとニンニクの香りがきいていて、癖のない肉はとても柔らかい。
「まあ、そうだな。それには俺も異論はない」
ログナーは、マスタードソースのかかった骨付きの鶏肉を手に取り、豪快に齧りついている。ログナーにかかれば食前の祈りなど子どものたわごとでしかなかった。きっと、オルバン司教が見たら卒倒してしまうことだろう。
「ほら、お前も食えよ」
そう言って時々、レキウスの皿に食べ物を取り分けてやることも忘れない。
オルバン司教がいた頃はピリピリとした緊張した空気が漂っていた。ひとつでも失敗をすると折檻が待っていたから、レキウスは食事の時間が嫌でたまらなかった。
「このスープも美味しいよ」
その場の空気に緊張が解けたのか、レキウスが自分の皿をログナーのほうへと押しやる。
「これは?」
「一口玉ねぎと芽キャベツは中庭で作ってる。ベーコンも入ってるんだけど、このベーコンもスレンが作ったんだよ」
まるで我が事のように自慢げにレキウスが言うのに、双子の兄たちは辛抱強く耳を傾けてくれる。
「では、明日にでも中庭を案内してくれるか?」
一緒に城内を見て回りたいとログナーが告げる。
レキウスの表情がぱあっ、と明るくなる。
「もちろん!」
双子の兄たちは、そんなレキウスを見てやはりニコニコと笑っている。
穏やかな空気の中、食事を終えた。
スレン以外の人とこんなに落ち着いて食事を口にすることが出来たのは初めてのことだ。レキウスは嬉しそうに二人の兄を見つめる。
次にどんな話が飛び出してくるのか、楽しみでたまらない。
「デザートはいかがですか」
スレンがそっと声をかけてくる。
レキウスがキラキラと目を輝かせてスレンの手元へ視線を向ける。
「どうやら、とっておきのデザートみたいだね」
ユグルドがレキウスのほうを見て微笑む。
「うん、とっておきなんだ。ヤギの乳で作ったアイスクリーム……だよね、スレン?」
スレンはそっと頷いて、デザート皿を三人の前に並べた。木苺のソースがかけられたアイスクリームに、レキウスの頬は緩みっぱなしだ。
「可愛いね、レキは。そうやってニコニコしていると、場が華やぐよ」
ユグルドの言葉にログナーも「そうだな」と頷く。
和やかな雰囲気の晩餐にレキウスの心もあたたかくなってくる。
こんなふうに食事を楽しむことができるだなんて、レキウスは思ってもいなかった。
二人の兄たちは、オルバン司教とは違うのだ。この二人と兄弟でよかったと、レキウスは心の底から嬉しく思った。
食事の後、ユグルドはスレンと共に帳簿の確認をするからと書斎へ行ってしまった。
残されたレキウスは、ログナーに抱き上げられてバルコニーへと連れて行かれた。
夜空には数多の星が広がり、ぼんやりと輝いている。ほっそりとした三日月が弧を描き、石造りの手摺に薄ぼんやりと反射して冷ややかな光を放っている。
「寒くないか?」
バルコニーの手摺にレキウスを座らせたログナーは、落ちないように発育の良くない弟の腰に手を回して尋ねる。
「だ…大丈夫、です」
手摺に座るだなんて行儀の悪いことだと思っていたし、そんなことをしてみたいとも思ったことすらなかった。ログナーのすることは、レキウスを驚かせることばかりだが、そう悪い気はしないから不思議だ。スレンに見つかったら行儀が悪いとお説教をされるようなことだが、楽しいのだ、ログナーと一緒なら。
「怖いのか?」
悪戯っぽく口元に笑みを浮かべ、ログナーはレキウスの顔を覗き込む。
「だって、手摺に座るなんて……」
危ないし、こんなことをするものではないと、きっと注意をされるだろう。もしかしたら、ユグルドだってそう言ってくるかもしれない。
ぐい、とレキウスの腰を引き寄せると、ログナーは耳元に囁きかけてくる。
「俺がついてるから大丈夫だ」
耳たぶにログナーの吐息がかかり、レキウスの顔がカッ、と熱くなる。
「兄さま……」
レキウスがログナーの肩に両手でしがみつくと、耳の下にチュッ、とキスをされた。
「……あっ」
不意打ちの出来事に思わずレキウスは声をあげ、ログナーから身を離そうとする。
「甘いにおいがする」
蜂蜜のにおいみたいだと呟きながらログナーは、さらにぐい、とレキウスの腰を引き寄せる。
「母上のにおいともまた違うな、お前は」
ログナーの武骨そうなが、するりとレキウスの胸のあたりに触れてくる。
「ログナー兄さま……?」
ふにゃりとささやかな胸の膨らみを鷲掴みにされたかと思うと、固い掌が乳首を撫でまわしてくる。
「ひゃっ、あっ」
逃げられない、とレキウスは思う。
オルバン司教の威圧的な態度とは違う、ログナーの優しくも追い詰めるような態度に、レキウスは絆されかけている。
困ったことに、ユグルドにしろログナーにしろ、レキウスに接する時の態度が優しいから抵抗することができないのだ。それに……やはり、血を分けた兄弟だからだろうか、彼らに触れられるのが嫌ではないということにレキウス自身も気付き始めている。
「兄さ、ま……」
レキウスがログナーの体にぎゅっとしがみつくと、片方の太腿を掴まれた。ログナーは片手でレキウスの太腿を自身の腰にひっかけさせると、さらに執拗に胸を弄りだす。
「だ、め……兄さま、それ、だめ……」
過去にオルバン司教から厳しく叱責された嬌声が洩れそうになるのを堪えながら、レキウスは自身の足をログナーの腰にきつく絡めつかせた。
ログナーの手に弄られた乳首はジンジンとして、奥のほうからいやらしくも気持ちのいい快楽の波が押し寄せてくる。
もう片方の乳首も触ってほしいと思うのは、いけないことだろうか。
レキウスは自ら兄の首筋にしがみつくと、胸を突き出すような格好をする。
「なんだ、こっちも触ってほしいのか?」
ククッ、と喉を鳴らすような意地の悪い声を上げてログナーは笑った。
「レキ……お前は、貞淑なのか淫乱なのか、どっちだ?」
言いながらログナーの唇は反対側の乳首を探り当ると、じゅるっ、と音を立てて布地ごと吸い上げる。
「ひぅっ、ん……」
レキウスの腹の底がキュンキュンと切なくなって、ふるりと体が大きく震える。
このまま気持ちよくしてほしいと思うと同時に、オルバン司教にされた折檻を思い出し、レキウスは自分から兄の体にしがみついたまま動くことができない。
ログナーは、そんなレキウスの様子に気付かない。
じゅるじゅると音を立てながら何度もレキウスの乳首を吸い上げ、舌を這わせている。
「ほら、勃ってきた」
嬉しそうに告げるとログナーは両方の乳首を同時に攻めた。
指で乳首を摘まんでくりくりと刺激を与え、もう一方は吸いあげては歯をやんわりと押し当て甘噛みをする。布越しなのがもどかしく思われ、レキウスはログナーにさらに強くしがみついていく。
「んっ、ん……ぁ……」
バルコニーの手摺が石造りでレキウス程度の体格ならば十分に座ることもできるだろうが、その小さな体がぐらりと体が背後に傾いだ瞬間は、さすがにログナーも慌てて弟をしっかりと抱きしめずにはいられなかった。
「おっと……また怖がらせたか?」
レキウスの顔を覗き込むとログナーは、優しく問いかける。
「ううん、大丈夫。ちょっと驚いただけ」
レキウスはかぶりを振ると、小さく微笑んだ。
出会ってからまだ少ししか時間は経っていないが、もう既にレキウスは二人の兄を好ましく思っている。
怖いのは兄たちではなく、オルバン司教から受けた数々の折檻を思い出すことだ。
「疲れたか?」
レキウスの表情が硬いことに気付いたログナーは、弟を抱き上げると居室へと足を向けた。
ログナーの部屋は、ユグルドの部屋と続き部屋になっていた。内側を一枚のドアで仕切っただけで内装もほぼ同じだが、こちらの部屋はユグルドの部屋よりも少し大きい造りになっている。
ベッドの上にレキウスはそっと下ろされた。まるで壊れ物を扱うように優しく接してくれる兄が、レキウスには嬉しかった。
「ログナー兄さまは、疲れてない?」
強靭な体を持つログナーが疲れることなどあるのだろうか。スレンよりも筋肉質で背の高いログナーは、レキウスにまだ見ぬ父を思わせた。
「疲れてないと言ったら噓になるが、お前の顔を見たら疲れなんぞ吹き飛んだぞ」
こんなに愛らしい弟が目の前にいるのに、とログナーは笑った。
愛らしい弟と言われて、レキウスはむず痒いような、どこか気恥ずかしいような気持ちになる。こんなふうに褒められ、可愛がられるのは初めてのことで、どう返せばいいのかわからない。
ログナーはおもむろに上衣を脱ぎ捨てるとベッドに腰を下ろした。
「さて、旅の疲れを癒すとするか」
筋肉質なログナーの体からは、ほんのりと汗のにおいがする。レキウスはその体に触れてみたいと思った。
オルバン司教の脂ぎった白くてブヨブヨした体とは異なり、 ログナーの健康的な体は若さや力強さといったものに満ち溢れていた。その一方で男である兄たちと異なり、レキウスの体は貧弱だ。やはりシーメールだから、こんなにも貧弱なのだろうか。
「一緒に寝るか?」
ログナーが悪戯っぽく笑いかけるのにレキウスは、躊躇いがちに頷いた。
もう少しだけ兄と一緒に過ごしたいと思ったのだ。
ベッドに入ったログナーは、レキウスの体を腕の中に抱き込んだ。
「本当にお前は小さくて可愛いな、レキ」
それに、甘いにおいがする、ともログナーは言った。
自分ではよくわからないが、レキウスの体からは蜂蜜のような甘いにおいがするのだそうだ。
対するログナーは、松脂を思わせるようなスパイシーなにおいがするとレキウスは思っている。兄のにおいを嗅いでいると、身体の奥底がムズムズするような感じになってくることにレキウスは気付いていた。
それに、下腹部も熱くなって、疼いてくるのだ。
あの忌まわしい……スレンですら気付いていない、オルバン司教の秘術によって彫り込まれた淫紋が、レキウスの下腹部でジンジンと熱を孕みだす。どんなふうにその淫紋が発動するのかよくわかっていなかったが、オルバン司教いわく、レキウスが性的に興奮するとその淫紋が腹部に浮かび上がってくるはずだった。
はずだった、というのは、オルバン司教の手でどんなにいやらしい折檻を受けようとも、レキウスの下腹に淫紋は浮かび上がってこず、またスレンに慰めてもらうようになってからもそのようなことは一度としてなかったから、レキウスは淫紋の話自体がオルバン司教の嘘か妄想だったのではないかと思っている。
だが、下腹部に何かを施されたことがあるのもまた本当のことだ。
折檻のひとつで、焼き鏝を押し当てられたことがあった。聖なる秘術を帯びた鏝は、レキウスの肌に傷ひとつつけることなく淫紋を彫り込んだ。あの瞬間、皮膚が焼けるように熱くなったことをレキウスははっきりと覚えている。火傷の痕のように赤くなって、見る見るうちに消えていくのをレキウスは恐怖に震えながらじっと見つめていた。
それを見ていたオルバン司教は悪態をついていたし、あの淫紋が再びレキウスの肌に浮かび上がることは二度となかったから、きっと秘術とやらは失敗したのだろうと思われる。
とにかく、オルバン司教に凌辱の限りを尽くされたレキウスは、そういった数々のことを兄たちに知られるのが怖かった。たとえ兄たちが既にそのことを知っていたとしても、だ。
「ログナー兄さま、あの……」
おずおずと兄の二の腕に触れるとレキウスは、ピクリと蠢いた筋肉に唇を押し当てる。
「僕もいつか、ログナー兄さまのように強くなりたい」
肉体的にも、精神的にも、強くなりたい。
ログナーやユグルドのように成長して、父王と対面する日をレキウスは思い描いた。
決して会うことはできないと思っていた父王の顔を見ることが出来るかもしれないと、そんな淡い期待がここしばらくのうちにレキウスの中に育っている。だが、それにはまず、レキウス自身が父王に認めてもらえるような人間にならなくてはいけないだろう、とも。
しかしログナーは思わぬ言葉を返してきた。
「どちらかと言うとお前は、母上のように美しく育つかもしれないな」
「は…は、上……?」
「そうだ。お前のこのきめ細やかで白い肌は、母上そっくりだ。顔立ちだってそうだ。笑った時の表情も、横顔も、よく似ている。もう少し成長したならきっと母上のように貞淑な美人になるだろう」
レキウスはきょとんとして兄を見つめ返した。
「僕は、男です」
厳密に言うと男ではない。先天性のシーメールだ。
今はまだ男に見えても、いつかどこかでオルバン司教に詰られたように淫乱な牝に堕ちてしまう日がくるかもしれない。
「僕は……」
レキウスがムキになって言い返そうとすると、キスで唇を塞がれた。
ログナーの力強い腕に掴まれ、あっという間に逞しい太腿の上に馬乗りにさせられる。
「ユグルドにはどこまで触らせたんだ」
やんわりと咎めるように尋ねられ、レキウスは口ごもる。
「晩餐の前にユグルドと二人きりだったな。さっきから甘い精のにおいがプンプンしてるのを、この俺が気付かないはずがないだろう」
皮が厚くなったログナーの手がレキウスの頬を撫で、親指の腹で下唇をなぞられる。
「キスだけじゃないだろう?」
言いながらログナーの手は、ゆっくりとレキウスの胸のラインをなぞり下りる。
「ここは?」
さっき、ログナーに虐められた乳首が、快楽を期待してきゅんっ、と固くなっていく。
レキウスは首を横に振る。
ユグルドが触れたのは、唇だけだ。他は……勝手にレキウスが射精してしまった以外は、ユグルドは何もしていない。
「じゃあ、俺だけか?」
こくりと頷くレキウスの唇にかぶりつくと、ログナーは強引に舌を押し込んできた。
クチュッ、と湿った音を立てながら、唾液を啜るディープなキスをする。つたない舌使いでレキウスが応えると、ログナーの手はさらにレキウスの腰を撫で、尻へと下りていく。
「兄さ、ま……」
衣服の下に手を滑り込ませるとログナーは、腰骨に沿って肌をなぞった。ゆっくりとした動きで臀部に手が伸びてきて、後孔に指先が引っかかる。
「……あっ」
クニュッと指先が後孔の窄まったところに押し込まれた。
昼間、ログナーの指に弄られた時のことを思い出し、レキウスの後孔がきゅっ、と締まる。
「何を思い出した?」
耳元で尋ねられ、レキウスは頬を赤らめた。
兄の指使いは、気持ちよかった。オルバン司教に触られた時は嫌悪に震えていたレキウスだったが、ログナーの指使いはもっと触れて欲しいと思うほどに気持ちよかった。
「昼間……ログナー兄さまが触ってたの、嫌じゃなかった……」
小さな声でそう告げるとレキウスは、逞しい兄の胸に顔を埋める。こんなことを口にする自分が恥ずかしくて、オルバン司教に詰られた淫乱そのものになってしまったような気がして、顔を上げることができない。
「ああ、そんなことか」
ログナーは愛しい弟を優しく抱きしめた。
「もっと触って欲しいのか? 気持ちよくて、意識がトンでしまいそうなヤツを教えてやるぞ」
そっと体をゆすられ、キスをされ、あやされるように可愛がられている間にログナーの指が窄まりの中へと押し入ってくる。
「んぁ……」
硬い指が中を擦り上げると、少しだけ痛みを伴った。
「どうだ? 苦しいか?」
ログナーが尋ねるのにレキウスは、首を横に振る。
健気ながらも強情な弟の様子にログナーは小さく苦笑して、後孔から指を引き抜いた。
「舐めろ。濡らしてから入れれば少しはマシだろう」
覗き込んでくるログナーの瞳は優しくて、レキウスは恥ずかしさを堪えながらも言われた通りに指を口に含む。ログナーの指は太くて、タコのできた手は固い。オルバン司教の柔らかくてブヨブヨとした指とは違う。
クチュ、チュバッ、と音を立てて指を舐めていると、レキウスの口から零れた唾液がログナーの手を伝い落ちていく。なんともいやらしい光景だ。
「上手にできたな」
頭を撫でられ、褒められたと思うと指が口から引き抜かれた。
素早く後孔に押し当てられたログナーの指は、レキウス自身の唾液で湿っていた。そのままぐい、と窄まりに指が突き立てられ、押し込まれる。
「気持ちいいところがあったら言え。いっぱい擦ってやる」
言いながらもログナーは、レキウスの中を優しく指の腹でなぞってくる。時々、爪を立ててやんわりと内壁を引っ搔かれると、レキウスは腰が跳ねるのを堪えなけばならなかった。腰が跳ねると、後孔が締まる。窄まったところがログナーの指を飲み込もうとさらに小刻みに震え、うねうねと蠢くのが自分でも感じられて恥ずかしくてならない。
「っ、う……」
唇を噛みしめたレキウスは、眉間に皺を寄せて息を押し殺している。
まるで拷問に耐えているような弟の様子に気付いたログナーは、レキウスの髪にキスを落とす。
「声を出せ。我慢なんぞしなくてもいいから」
ログナーのもう片方の手が上衣の裾からするりと中に潜り込むと、レキウスの肌に直に触れてきた。
優しい手つきで乳首をきゅっ、と摘まれ、レキウスはビクビクと体を震わせた。
ログナーの指が気持ちがよくて、困ってしまう。レキウスは口元を両手で押さえるとぐっと奥歯を噛みしめる。
「兄さ、ま……」
声を出してはいけないと命じたのは、オルバン司教だ。ログナーではない。だが、レキウスには声を出すことが悪いことのように思われてならないのだ。
「だ、め……声、出しちゃ、だめ……なの、にっ ……」
ごめんなさい、とレキウスはうわごとのように繰り返した。
「ごめっ……兄さま、ごめんなさ、ぃ」
啜り泣きながらもレキウスは、ログナーの指に合わせて腰を揺らしている。
押し殺した色めいた声が幼いレキウスの口から洩れるのを見るのは背徳的な感じがして、ログナーは口の中にこみ上げてきた唾液をごくりと嚥下する。
「レキ……もっと、声を出せ」
そう言ってレキウスの髪に、頬にログナーはキスを落とす。
啜り泣きながらもレキウスは最後には自分でも驚くほど大きな声を上げて達した。
「んぁ、ぁぁ……!」
爪先でシーツを蹴って、後孔をきつく締め付けたレキウスの体はほんのりと色付き、甘ったるい香りを放っている。
下着の中では痛いほど張り詰めた前がピクピクと震えて、触れられてもいないのに白濁を噴き上げた。
「あ、あぁ……」
恥ずかしそうに顔を伏せたレキウスは、ログナーの胸に額をそっと押し付けた。
もう、口元を両手で覆ってはいなかった。
テーブルには、兄王子たちの歓迎の意味も込めていつもより豪華な料理が並んでいた。
「美味そうだな」
ニヤリと笑ってログナーがテーブルへと視線を馳せる。
芳醇な香りのワイン、香辛料たっぷりの肉料理、ふっくらと柔らかなパン、甘く瑞々しい果実……などなど。兄王子たちが王宮で口にしているものと比べると質が落ちるかもしれないが、レキウスにしたら素晴らしい料理に思えるものがずらりと並んでいる。
ログナーはレキウスの肩をぐい、と引き寄せると自身の隣の席に座らせた。
「あ、の……」
世間知らずのレキウスでも、さすがに上座に自分が座ることは躊躇われた。
オルバン司教ならこんな時、レキウスを酷く打ち据えたものだ。鞭やベルトや、その他のものを使って、レキウスが啜り泣いて許しを請うまで暴行を加えた。行儀の悪い子に対する仕置きだと彼はよく言っていた。
「気にするな、レキ。この席にお前が座ると、顔がよく見える」
ニコニコと親しげな笑みを浮かべてログナーはテーブルに肘をつく。
「ログナー、マナーが悪いよ」
レキウスの向かいに座るユグルドがワイングラスを片手にログナーの肘をつついて注意する。
「マナー? 王宮にいるわけでもないのに、そんなもん意味がないだろう。だいたいお前は堅苦しすぎるんだよ、ユグルド」
はん、とログナーは鼻で笑った。
「スレンが料理を用意して、俺達はそれを美味いと言って平らげる。それでいいじゃないか」
なあ? とログナーに真顔で迫られ、レキウスは困ってしまう。
食事の作法はスレンから一通りは教えられているから困ることはない。
だが、本当はログナーのように好き勝手してみたくもある。
「……スレンの料理は世界一美味しいんだよ」
オルバン司教には田舎料理と散々貶された料理だが、レキウスにとってはこれが世界一のご馳走だった。
少し怒ったようなレキウスの言い方は幼い子どものようにも見えて、双子の兄たちはさらにニコニコとするばかりだ。
「そうだね。スレンの料理は本当に美味しそうだ。王宮で出される料理に匹敵するほどのごちそうだ」
ユグルドはそう言ってさっと祈りの言葉を口早に唱えると、羊の肉を口に入れる。ラム肉には、ワインソースがよく合っていた。ハーブとニンニクの香りがきいていて、癖のない肉はとても柔らかい。
「まあ、そうだな。それには俺も異論はない」
ログナーは、マスタードソースのかかった骨付きの鶏肉を手に取り、豪快に齧りついている。ログナーにかかれば食前の祈りなど子どものたわごとでしかなかった。きっと、オルバン司教が見たら卒倒してしまうことだろう。
「ほら、お前も食えよ」
そう言って時々、レキウスの皿に食べ物を取り分けてやることも忘れない。
オルバン司教がいた頃はピリピリとした緊張した空気が漂っていた。ひとつでも失敗をすると折檻が待っていたから、レキウスは食事の時間が嫌でたまらなかった。
「このスープも美味しいよ」
その場の空気に緊張が解けたのか、レキウスが自分の皿をログナーのほうへと押しやる。
「これは?」
「一口玉ねぎと芽キャベツは中庭で作ってる。ベーコンも入ってるんだけど、このベーコンもスレンが作ったんだよ」
まるで我が事のように自慢げにレキウスが言うのに、双子の兄たちは辛抱強く耳を傾けてくれる。
「では、明日にでも中庭を案内してくれるか?」
一緒に城内を見て回りたいとログナーが告げる。
レキウスの表情がぱあっ、と明るくなる。
「もちろん!」
双子の兄たちは、そんなレキウスを見てやはりニコニコと笑っている。
穏やかな空気の中、食事を終えた。
スレン以外の人とこんなに落ち着いて食事を口にすることが出来たのは初めてのことだ。レキウスは嬉しそうに二人の兄を見つめる。
次にどんな話が飛び出してくるのか、楽しみでたまらない。
「デザートはいかがですか」
スレンがそっと声をかけてくる。
レキウスがキラキラと目を輝かせてスレンの手元へ視線を向ける。
「どうやら、とっておきのデザートみたいだね」
ユグルドがレキウスのほうを見て微笑む。
「うん、とっておきなんだ。ヤギの乳で作ったアイスクリーム……だよね、スレン?」
スレンはそっと頷いて、デザート皿を三人の前に並べた。木苺のソースがかけられたアイスクリームに、レキウスの頬は緩みっぱなしだ。
「可愛いね、レキは。そうやってニコニコしていると、場が華やぐよ」
ユグルドの言葉にログナーも「そうだな」と頷く。
和やかな雰囲気の晩餐にレキウスの心もあたたかくなってくる。
こんなふうに食事を楽しむことができるだなんて、レキウスは思ってもいなかった。
二人の兄たちは、オルバン司教とは違うのだ。この二人と兄弟でよかったと、レキウスは心の底から嬉しく思った。
食事の後、ユグルドはスレンと共に帳簿の確認をするからと書斎へ行ってしまった。
残されたレキウスは、ログナーに抱き上げられてバルコニーへと連れて行かれた。
夜空には数多の星が広がり、ぼんやりと輝いている。ほっそりとした三日月が弧を描き、石造りの手摺に薄ぼんやりと反射して冷ややかな光を放っている。
「寒くないか?」
バルコニーの手摺にレキウスを座らせたログナーは、落ちないように発育の良くない弟の腰に手を回して尋ねる。
「だ…大丈夫、です」
手摺に座るだなんて行儀の悪いことだと思っていたし、そんなことをしてみたいとも思ったことすらなかった。ログナーのすることは、レキウスを驚かせることばかりだが、そう悪い気はしないから不思議だ。スレンに見つかったら行儀が悪いとお説教をされるようなことだが、楽しいのだ、ログナーと一緒なら。
「怖いのか?」
悪戯っぽく口元に笑みを浮かべ、ログナーはレキウスの顔を覗き込む。
「だって、手摺に座るなんて……」
危ないし、こんなことをするものではないと、きっと注意をされるだろう。もしかしたら、ユグルドだってそう言ってくるかもしれない。
ぐい、とレキウスの腰を引き寄せると、ログナーは耳元に囁きかけてくる。
「俺がついてるから大丈夫だ」
耳たぶにログナーの吐息がかかり、レキウスの顔がカッ、と熱くなる。
「兄さま……」
レキウスがログナーの肩に両手でしがみつくと、耳の下にチュッ、とキスをされた。
「……あっ」
不意打ちの出来事に思わずレキウスは声をあげ、ログナーから身を離そうとする。
「甘いにおいがする」
蜂蜜のにおいみたいだと呟きながらログナーは、さらにぐい、とレキウスの腰を引き寄せる。
「母上のにおいともまた違うな、お前は」
ログナーの武骨そうなが、するりとレキウスの胸のあたりに触れてくる。
「ログナー兄さま……?」
ふにゃりとささやかな胸の膨らみを鷲掴みにされたかと思うと、固い掌が乳首を撫でまわしてくる。
「ひゃっ、あっ」
逃げられない、とレキウスは思う。
オルバン司教の威圧的な態度とは違う、ログナーの優しくも追い詰めるような態度に、レキウスは絆されかけている。
困ったことに、ユグルドにしろログナーにしろ、レキウスに接する時の態度が優しいから抵抗することができないのだ。それに……やはり、血を分けた兄弟だからだろうか、彼らに触れられるのが嫌ではないということにレキウス自身も気付き始めている。
「兄さ、ま……」
レキウスがログナーの体にぎゅっとしがみつくと、片方の太腿を掴まれた。ログナーは片手でレキウスの太腿を自身の腰にひっかけさせると、さらに執拗に胸を弄りだす。
「だ、め……兄さま、それ、だめ……」
過去にオルバン司教から厳しく叱責された嬌声が洩れそうになるのを堪えながら、レキウスは自身の足をログナーの腰にきつく絡めつかせた。
ログナーの手に弄られた乳首はジンジンとして、奥のほうからいやらしくも気持ちのいい快楽の波が押し寄せてくる。
もう片方の乳首も触ってほしいと思うのは、いけないことだろうか。
レキウスは自ら兄の首筋にしがみつくと、胸を突き出すような格好をする。
「なんだ、こっちも触ってほしいのか?」
ククッ、と喉を鳴らすような意地の悪い声を上げてログナーは笑った。
「レキ……お前は、貞淑なのか淫乱なのか、どっちだ?」
言いながらログナーの唇は反対側の乳首を探り当ると、じゅるっ、と音を立てて布地ごと吸い上げる。
「ひぅっ、ん……」
レキウスの腹の底がキュンキュンと切なくなって、ふるりと体が大きく震える。
このまま気持ちよくしてほしいと思うと同時に、オルバン司教にされた折檻を思い出し、レキウスは自分から兄の体にしがみついたまま動くことができない。
ログナーは、そんなレキウスの様子に気付かない。
じゅるじゅると音を立てながら何度もレキウスの乳首を吸い上げ、舌を這わせている。
「ほら、勃ってきた」
嬉しそうに告げるとログナーは両方の乳首を同時に攻めた。
指で乳首を摘まんでくりくりと刺激を与え、もう一方は吸いあげては歯をやんわりと押し当て甘噛みをする。布越しなのがもどかしく思われ、レキウスはログナーにさらに強くしがみついていく。
「んっ、ん……ぁ……」
バルコニーの手摺が石造りでレキウス程度の体格ならば十分に座ることもできるだろうが、その小さな体がぐらりと体が背後に傾いだ瞬間は、さすがにログナーも慌てて弟をしっかりと抱きしめずにはいられなかった。
「おっと……また怖がらせたか?」
レキウスの顔を覗き込むとログナーは、優しく問いかける。
「ううん、大丈夫。ちょっと驚いただけ」
レキウスはかぶりを振ると、小さく微笑んだ。
出会ってからまだ少ししか時間は経っていないが、もう既にレキウスは二人の兄を好ましく思っている。
怖いのは兄たちではなく、オルバン司教から受けた数々の折檻を思い出すことだ。
「疲れたか?」
レキウスの表情が硬いことに気付いたログナーは、弟を抱き上げると居室へと足を向けた。
ログナーの部屋は、ユグルドの部屋と続き部屋になっていた。内側を一枚のドアで仕切っただけで内装もほぼ同じだが、こちらの部屋はユグルドの部屋よりも少し大きい造りになっている。
ベッドの上にレキウスはそっと下ろされた。まるで壊れ物を扱うように優しく接してくれる兄が、レキウスには嬉しかった。
「ログナー兄さまは、疲れてない?」
強靭な体を持つログナーが疲れることなどあるのだろうか。スレンよりも筋肉質で背の高いログナーは、レキウスにまだ見ぬ父を思わせた。
「疲れてないと言ったら噓になるが、お前の顔を見たら疲れなんぞ吹き飛んだぞ」
こんなに愛らしい弟が目の前にいるのに、とログナーは笑った。
愛らしい弟と言われて、レキウスはむず痒いような、どこか気恥ずかしいような気持ちになる。こんなふうに褒められ、可愛がられるのは初めてのことで、どう返せばいいのかわからない。
ログナーはおもむろに上衣を脱ぎ捨てるとベッドに腰を下ろした。
「さて、旅の疲れを癒すとするか」
筋肉質なログナーの体からは、ほんのりと汗のにおいがする。レキウスはその体に触れてみたいと思った。
オルバン司教の脂ぎった白くてブヨブヨした体とは異なり、 ログナーの健康的な体は若さや力強さといったものに満ち溢れていた。その一方で男である兄たちと異なり、レキウスの体は貧弱だ。やはりシーメールだから、こんなにも貧弱なのだろうか。
「一緒に寝るか?」
ログナーが悪戯っぽく笑いかけるのにレキウスは、躊躇いがちに頷いた。
もう少しだけ兄と一緒に過ごしたいと思ったのだ。
ベッドに入ったログナーは、レキウスの体を腕の中に抱き込んだ。
「本当にお前は小さくて可愛いな、レキ」
それに、甘いにおいがする、ともログナーは言った。
自分ではよくわからないが、レキウスの体からは蜂蜜のような甘いにおいがするのだそうだ。
対するログナーは、松脂を思わせるようなスパイシーなにおいがするとレキウスは思っている。兄のにおいを嗅いでいると、身体の奥底がムズムズするような感じになってくることにレキウスは気付いていた。
それに、下腹部も熱くなって、疼いてくるのだ。
あの忌まわしい……スレンですら気付いていない、オルバン司教の秘術によって彫り込まれた淫紋が、レキウスの下腹部でジンジンと熱を孕みだす。どんなふうにその淫紋が発動するのかよくわかっていなかったが、オルバン司教いわく、レキウスが性的に興奮するとその淫紋が腹部に浮かび上がってくるはずだった。
はずだった、というのは、オルバン司教の手でどんなにいやらしい折檻を受けようとも、レキウスの下腹に淫紋は浮かび上がってこず、またスレンに慰めてもらうようになってからもそのようなことは一度としてなかったから、レキウスは淫紋の話自体がオルバン司教の嘘か妄想だったのではないかと思っている。
だが、下腹部に何かを施されたことがあるのもまた本当のことだ。
折檻のひとつで、焼き鏝を押し当てられたことがあった。聖なる秘術を帯びた鏝は、レキウスの肌に傷ひとつつけることなく淫紋を彫り込んだ。あの瞬間、皮膚が焼けるように熱くなったことをレキウスははっきりと覚えている。火傷の痕のように赤くなって、見る見るうちに消えていくのをレキウスは恐怖に震えながらじっと見つめていた。
それを見ていたオルバン司教は悪態をついていたし、あの淫紋が再びレキウスの肌に浮かび上がることは二度となかったから、きっと秘術とやらは失敗したのだろうと思われる。
とにかく、オルバン司教に凌辱の限りを尽くされたレキウスは、そういった数々のことを兄たちに知られるのが怖かった。たとえ兄たちが既にそのことを知っていたとしても、だ。
「ログナー兄さま、あの……」
おずおずと兄の二の腕に触れるとレキウスは、ピクリと蠢いた筋肉に唇を押し当てる。
「僕もいつか、ログナー兄さまのように強くなりたい」
肉体的にも、精神的にも、強くなりたい。
ログナーやユグルドのように成長して、父王と対面する日をレキウスは思い描いた。
決して会うことはできないと思っていた父王の顔を見ることが出来るかもしれないと、そんな淡い期待がここしばらくのうちにレキウスの中に育っている。だが、それにはまず、レキウス自身が父王に認めてもらえるような人間にならなくてはいけないだろう、とも。
しかしログナーは思わぬ言葉を返してきた。
「どちらかと言うとお前は、母上のように美しく育つかもしれないな」
「は…は、上……?」
「そうだ。お前のこのきめ細やかで白い肌は、母上そっくりだ。顔立ちだってそうだ。笑った時の表情も、横顔も、よく似ている。もう少し成長したならきっと母上のように貞淑な美人になるだろう」
レキウスはきょとんとして兄を見つめ返した。
「僕は、男です」
厳密に言うと男ではない。先天性のシーメールだ。
今はまだ男に見えても、いつかどこかでオルバン司教に詰られたように淫乱な牝に堕ちてしまう日がくるかもしれない。
「僕は……」
レキウスがムキになって言い返そうとすると、キスで唇を塞がれた。
ログナーの力強い腕に掴まれ、あっという間に逞しい太腿の上に馬乗りにさせられる。
「ユグルドにはどこまで触らせたんだ」
やんわりと咎めるように尋ねられ、レキウスは口ごもる。
「晩餐の前にユグルドと二人きりだったな。さっきから甘い精のにおいがプンプンしてるのを、この俺が気付かないはずがないだろう」
皮が厚くなったログナーの手がレキウスの頬を撫で、親指の腹で下唇をなぞられる。
「キスだけじゃないだろう?」
言いながらログナーの手は、ゆっくりとレキウスの胸のラインをなぞり下りる。
「ここは?」
さっき、ログナーに虐められた乳首が、快楽を期待してきゅんっ、と固くなっていく。
レキウスは首を横に振る。
ユグルドが触れたのは、唇だけだ。他は……勝手にレキウスが射精してしまった以外は、ユグルドは何もしていない。
「じゃあ、俺だけか?」
こくりと頷くレキウスの唇にかぶりつくと、ログナーは強引に舌を押し込んできた。
クチュッ、と湿った音を立てながら、唾液を啜るディープなキスをする。つたない舌使いでレキウスが応えると、ログナーの手はさらにレキウスの腰を撫で、尻へと下りていく。
「兄さ、ま……」
衣服の下に手を滑り込ませるとログナーは、腰骨に沿って肌をなぞった。ゆっくりとした動きで臀部に手が伸びてきて、後孔に指先が引っかかる。
「……あっ」
クニュッと指先が後孔の窄まったところに押し込まれた。
昼間、ログナーの指に弄られた時のことを思い出し、レキウスの後孔がきゅっ、と締まる。
「何を思い出した?」
耳元で尋ねられ、レキウスは頬を赤らめた。
兄の指使いは、気持ちよかった。オルバン司教に触られた時は嫌悪に震えていたレキウスだったが、ログナーの指使いはもっと触れて欲しいと思うほどに気持ちよかった。
「昼間……ログナー兄さまが触ってたの、嫌じゃなかった……」
小さな声でそう告げるとレキウスは、逞しい兄の胸に顔を埋める。こんなことを口にする自分が恥ずかしくて、オルバン司教に詰られた淫乱そのものになってしまったような気がして、顔を上げることができない。
「ああ、そんなことか」
ログナーは愛しい弟を優しく抱きしめた。
「もっと触って欲しいのか? 気持ちよくて、意識がトンでしまいそうなヤツを教えてやるぞ」
そっと体をゆすられ、キスをされ、あやされるように可愛がられている間にログナーの指が窄まりの中へと押し入ってくる。
「んぁ……」
硬い指が中を擦り上げると、少しだけ痛みを伴った。
「どうだ? 苦しいか?」
ログナーが尋ねるのにレキウスは、首を横に振る。
健気ながらも強情な弟の様子にログナーは小さく苦笑して、後孔から指を引き抜いた。
「舐めろ。濡らしてから入れれば少しはマシだろう」
覗き込んでくるログナーの瞳は優しくて、レキウスは恥ずかしさを堪えながらも言われた通りに指を口に含む。ログナーの指は太くて、タコのできた手は固い。オルバン司教の柔らかくてブヨブヨとした指とは違う。
クチュ、チュバッ、と音を立てて指を舐めていると、レキウスの口から零れた唾液がログナーの手を伝い落ちていく。なんともいやらしい光景だ。
「上手にできたな」
頭を撫でられ、褒められたと思うと指が口から引き抜かれた。
素早く後孔に押し当てられたログナーの指は、レキウス自身の唾液で湿っていた。そのままぐい、と窄まりに指が突き立てられ、押し込まれる。
「気持ちいいところがあったら言え。いっぱい擦ってやる」
言いながらもログナーは、レキウスの中を優しく指の腹でなぞってくる。時々、爪を立ててやんわりと内壁を引っ搔かれると、レキウスは腰が跳ねるのを堪えなけばならなかった。腰が跳ねると、後孔が締まる。窄まったところがログナーの指を飲み込もうとさらに小刻みに震え、うねうねと蠢くのが自分でも感じられて恥ずかしくてならない。
「っ、う……」
唇を噛みしめたレキウスは、眉間に皺を寄せて息を押し殺している。
まるで拷問に耐えているような弟の様子に気付いたログナーは、レキウスの髪にキスを落とす。
「声を出せ。我慢なんぞしなくてもいいから」
ログナーのもう片方の手が上衣の裾からするりと中に潜り込むと、レキウスの肌に直に触れてきた。
優しい手つきで乳首をきゅっ、と摘まれ、レキウスはビクビクと体を震わせた。
ログナーの指が気持ちがよくて、困ってしまう。レキウスは口元を両手で押さえるとぐっと奥歯を噛みしめる。
「兄さ、ま……」
声を出してはいけないと命じたのは、オルバン司教だ。ログナーではない。だが、レキウスには声を出すことが悪いことのように思われてならないのだ。
「だ、め……声、出しちゃ、だめ……なの、にっ ……」
ごめんなさい、とレキウスはうわごとのように繰り返した。
「ごめっ……兄さま、ごめんなさ、ぃ」
啜り泣きながらもレキウスは、ログナーの指に合わせて腰を揺らしている。
押し殺した色めいた声が幼いレキウスの口から洩れるのを見るのは背徳的な感じがして、ログナーは口の中にこみ上げてきた唾液をごくりと嚥下する。
「レキ……もっと、声を出せ」
そう言ってレキウスの髪に、頬にログナーはキスを落とす。
啜り泣きながらもレキウスは最後には自分でも驚くほど大きな声を上げて達した。
「んぁ、ぁぁ……!」
爪先でシーツを蹴って、後孔をきつく締め付けたレキウスの体はほんのりと色付き、甘ったるい香りを放っている。
下着の中では痛いほど張り詰めた前がピクピクと震えて、触れられてもいないのに白濁を噴き上げた。
「あ、あぁ……」
恥ずかしそうに顔を伏せたレキウスは、ログナーの胸に額をそっと押し付けた。
もう、口元を両手で覆ってはいなかった。
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