剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝

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044 魔道長連車

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 夕方前の中途半端な時間のせいか、魔道長連車内の人影はまばら。

「おや、すいてるねえ」

 乗り込む際にわたしがつぶやけば、背後に控えていた付き添い兼警護役の男女二人組のうちの女性の方が、「利用した停留所が都のはずれの方ということもありますが、それでもここまで少ないのは珍しいですよ」と教えてくれた。
 いつもはもっと混雑しており、朝夕の通勤時間帯ともなればぎゅうぎゅう、立ち乗りも珍しくはないんだとか。
 だというのに悠々と窓際の席に座れた。
 これはツイていると、わたしはホクホク顔。

「せっかくなので魔道長連車で宿に帰る」

 わたしが言い出したとき、ワラシ氏が「でしたらすぐに臨時の特別車両を手配しましょう」と申し出てくれたけれども、それは丁重にお断りした。ついでにゾロゾロついてこようとする警護も断ったのだけれども、それは許されない。これでもわたしは賓客の身分なので。かといってみんなを連れて行けば、ほぼ貸し切り状態になってしまう。そうなれば他の利用客たちに迷惑がかかる。
 そこで折衷案として二人だけ身辺警護を連れて行くこととなった。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 魔道長連車は進む。
 速度は少し急いでいる馬車ぐらいだろうか。
 にぎやかな首都の街並みが車窓を流れてゆく。
 専用道路の路面に設置された溝に沿って車両は走る。小回りこそは利かないけれども、渋滞とは無縁。周辺の喧騒を置き去りにし我が物顔にてズンズン進む。その姿は、なかなか頼もしくもあり、ちょっとえらそうでもあり。
 思ったよりも揺れが少なく、乗り心地は悪くない。
 が、わたしはすぐに飽きた。
 普段から第一の天剣・勇者のつるぎミヤビを乗り回して空を飛んでいるせいか、箱物がいまいち窮屈で息苦しい。退屈な移動速度にもおもわずアクビがでちゃう。

「やっぱりミヤビが一番だね」

 わたしが褒めると帯革内にて白銀のスコップがぷるぷるふるえて「いやん、ですわ」と照れた。

「……母、つまんない。あと、なんかクサイ」

 帯革内にて漆黒の草刈り鎌姿のアンが「もう降りたい」とぶつぶつ。
 大勢の人間が日夜利用する車内には、独特の雰囲気というかニオイが染みついている。いくら換気をしようと、清掃をこまめにしようとも、完全に除去することはムズカシイ。これはそういうものなのだ。
 だというのにアンが、これをズバリ指摘。わたしだって乗車直後からひそかに気にはなっていたけれども、あえて口をつぐんでいたというのに。
 いきなり他人様のお宅にお邪魔をして「あれ、なんだかあなたの家ってクサくない?」と言っているようなもの。とても失礼なことなので、わたしはアンに「しーっ」と黙っているようにクギを刺す。

「ふむふむ、なかなかのおてまえ。が、まだ未熟。未完の大器といったところでござるなぁ」

 上から目線にて魔道長連車を検分しそう評したのは、帯革内の金づち姿のツツミ。
 安全な街中ならばともかく、数多の危険や禍獣が蠢く大自然の中を横断するには少々心許ないとのこと。しかし有益性は認めるので、今後の発展に期待する。
 ツツミの高説を拝聴しているうちに、次の停留所が見えてきた。
 段階的に減速していき、静かに停車。
 降りる人も乗る人もまばらにて、客の総数はたいして変化なし。
 先頭の機関車両がプシュウと白い息を吐き、ふたたび魔道長連車は走り出す。
 これを三度くり返す頃にもなると、微細な震動を続けるからくりのゆりかごが眠気を誘い、わたしはついウトウト。
 そんな夢うつつのさなか。
 車内の空気が急にざわり。「ヘンだな」という男性のつぶやき声も聞こえてきた。
 それは後ろの座席に控えていた警護役の男性の発したもの。
 眠い目をこすって「どうかしたの?」とわたしがたずねたら、彼は「いえ、いましがた本車両が停留所を素通りしたもので」と首をかしげていた。
 魔道長連車は基本的にすべての停留所にとまることになっている。
 ただし例外もある。それは停留所が無人で明らかに利用客がいない場合。けれども乗客をそこそこ抱えており、下車したい人がいるかもしれない現状では、これに当てはまらない。
 ゆえに「ヘン」なのである。「どういうことだ?」と他の乗客たちも戸惑っている。

「たまたま、うっかり通り過ぎちゃったとか」

 運転手とて人間だもの。たまには失敗することもあるだろう。
 わたしの言葉に「それは、まぁ」と男性警護の人。「ですが念のために先頭車両に行って、ちょっと確認してきます」と席を立とうとする。
 しかし彼が腰を浮かしかけたところでガクンと車両が大きく揺れた。はずみで座席にもどされることになる。
 倒れ込んできた相方のせいで、窓際に押しつけられたのは隣に座っていた女性警護の人。「ちょっと!」と文句を言いかけるも彼女は途中で口をつぐみ、その顔は車両の外へと向けられたままで固まっている。
 それもそのはずだ。
 だって、たったいましがたのこと。制服姿の運転手と助手らしき人たちが、そろって窓の外を転がっていったんだもの。
 たまたまわたしもその場面をばっちり目撃。あまりにも斬新な下車方法にたいそうおどろく。
 でもって、ふたたびガタンと大きな揺れが車内を襲う。
 さらにグンと加速した魔道長連車。
 どこぞより悲鳴が聞こえてきた。おそらくは別の車両の乗客の発したものであろう。
 明らかなる異常事態に、車内が騒然となる。
 ちょっとした旅の思い出にと、珍しい乗り物を試してみただけなのに。
 よもやの騒動第二弾が勃発っ!


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