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042 教育的指導
しおりを挟む湾岸沿いの貸倉庫が連なる区画の奥まったところ。都会の喧騒の片隅。
ボロっちくて、埃っぽくて、閑散としており、長いこと放置されて日中でも陰々。いかにも薄汚い悪党どもが身を潜めるのに好みそうな赤レンガの建物。
そこが卑劣な誘拐犯どもが宿屋の女性従業員さんに「剣の母をつれてこい」と指定した場所。
倉庫正面にて仁王立ちし、わたしはギロリとひとにらみ。
かたわらに浮かぶ白銀の大剣姿のミヤビが、気配察知能力を発動。
「チヨコ母さま、建物内部には十六の気配がありますわ。うち地下に潜っているのが二つ。ひとつ反応が小さいものがあります。たぶんこれが例のさらわれた子どもかと」
報告を受けわたしはうなづく。
どうやら女性従業員さんの妹は、監視つきで地下に閉じ込められているらしい。とりあえずは無事なようで、ホッとする。救出対象にもしものことがあったならば、わたしは激高するあまり、きっと地域一帯を犯人ごと焼け野原にしていたことであろう。
わたしを挟んでミヤビとは反対側に浮かんでいた漆黒の大鎌姿のアンが、ふしぎそうに鎌首をもたげる。
「……にしても適当がすぎる。計画と呼ぶのもおこがましい。今回のたくらみが成功すると本気で考えていたのならば、連中の頭の中はお花畑どころか、ウジがうじうじわいている」
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「だよねぇ。いくら宿の内部に詳しい人物を巻き込んだところで、従業員さんはしょせん素人だもの。せめて潜入の手引きをさせるぐらいにとどめて、自ら乗り込んでくるぐらいの気概はみせてほしかったよ」わたしはやれやれと肩をすくめる。「まぁ、こんなしようもない誘拐計画を実行している時点で、たぶん『自分の手を汚さずに、目的を達成するなんて。オレさま超頭いい』とか、かんちがいしているんだろうなぁ」
どうも犯人一味は相当な阿呆であるらしい。
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まずわたしがツツミにて壁をぶち抜き連中の注意をひく。それと同時に天井からミヤビが、裏からはアンが突入。
ミヤビはそのまま人質の確保。アンは適当にボコって暴れていいから。
でもあんまり派手なのはダメ。ただでさえ心細い思いをしていた女の子が怖がっちゃうからね。それに連中にはいろいろと訊きたいこともあるから、うっかり首を刎ねないように」
かくして人質救出作戦は始まった。
のではあるが、なんら盛り上がることもなく、特筆して語ることもなく速やかに終了。
いや、ほら、だって地力に差がありすぎるからね。
これはしようがない。
◇
監禁されていた女の子は無事に助け出され、姉である女性従業員さんと感動の再会を果たす。
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ひしと抱き合う姉妹。心温まる美しい光景。
これを尻目に、わたしはお縄となり床に乱雑に転がされている一味に対して、尋問を開始する。
本来ならばすぐにでも商連合オーメイ側に引き渡すのが筋なれど、どうしても訊いておかなければいけないことがあるのだ。
「さてと、わたしはあなたたちがどこの誰で、どんな主義主張思想信条にて、こんなだいそれたマネを仕出かしたのか、なんてことにはみじんも興味がない。
ただ、これだけは教えてちょうだい。
今回、宿屋の女性従業員さんの妹をさらって、無理やりにいうことをきかせようという、悪辣な計画を思いついたのは、どなたなのかしらん?」
にっこり笑顔で拳をバキバキ鳴らしながら問えば、十四名の視線が一斉にある人物の方へと向いた。
まぁ、半端な悪党どもの結束なんぞはこんなものであろう。
早々に倒すべき敵が判明したところで、わたしはソイツの襟首をむんずとつかみ、「おい、ちょっとツラ貸せや」と物陰に引きずっていく。
目的はもちろんキツーイお灸をすえるため。
妹を誘拐するなんぞというおぞましき悪業に手を染めた者には、きっちり罰を与える必要がある。
法の裁きなんぞ生ぬるい! もう二度と、そんな愚かな考えがちらりとでも脳の中をよぎらないように徹底的に教育しないと、ね。
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