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055 アニマルパニック
しおりを挟むジョーの話にはまだ続きがあった。
襲撃を受けた時、この家には少年しかいなかった。
少年はほうほうのていで自室から抜け出すと、ガレージに停めてあった自転車にまたがり逃げた。動物たちは散々に家の中を荒らし回ってから、これを追って行ったという。
どこに向かったのか、ジョーはある程度の目星をつけているというので、さっそく彼の案内で和香とコテツはみんなを追いかけることにした。
藍色と橙色のグラディエーション。
はや夜の帳(とばり)が降り始めている。
空を飛び先導してくれているカラスを追いかけ、夕闇迫る町の中を駆ける和香とコテツ。
東の空には、馬の尻尾のような形をした雲――しらす雲が浮かんでいた。
正式な名称は巻雲というそうで、この雲が出ると雨の日が近いと昔から云われている。
和香はそのことを祖母の斗和から教えられて知っていた。
ここのところずっと晴ればかりで季節外れの暑さが続いており、町は異様な熱気に包まれていた。
――そんな日々がようやく終わる。
だが和香はこれを素直に喜べない。
なぜなら町や学校の雰囲気がおかしくなり始めた時期と微妙に重なっていたから。
とはいえ天気のことだ。たまたまなのかもしれない。でも和香にはどうしても『狼爪の切り裂きジャック』事件と無関係とはおもえなかった。
五人の中学性たち、うち残るはひとり。
それで復讐は完遂する。
けど、本当にそうなのか? 死してなお暴走するほどに膨れ上がった強い憎悪、恨みの念はそれで消えるのか? そんなに単純な話なのか?
髭がビリビリしてしょうがない。どうにも厭な予感がする。
ひょっとしたらこれは終わりの始まりなのでは……
◇
プ~~パ~~プ~~♪
豆腐売りのラッパの音が聞こえる。
耳に残る音色は郷愁を誘う。
とはいえさすがに昔ながらのリアカーではなくて、今風のキッチンカーによる移動販売だ。週に二度、この辺りを回っている。
和香はまだ食べたことがないけれど、スズちゃんによれば「けっこうイケる」とのこと。
動物たちが暴れているというのに、町はいつも通り。
騒ぎになっていないのはありがたい。
けれども、平然とした町の様子が夕闇と相まって不気味だ。
光と影が交わる中、先導するジョーが西北に進路をとった。
道なりにしばらく進めば、この先にあるのは野実神社だ。
どうやらそこが目的地らしい。
と、その時のことであった。
不意に前方に飛び出す白い影があらわれたもので、和香とコテツは「うにゃっ!」「うおっ!」と驚き急ブレーキ。
誰かとおもえば白いシェパード――ホワイトナイトさまであった。
ジーッとにらみ合うことしばし。
フッと先に表情を緩めたのはホワイトナイト、続いてコテツも警戒を解く。
「わぉん。(その様子だとキミたちは大丈夫そうだな)」
「ナァーゴ。(そっちこそ)」
町の動物たちが急におかしくなった。
近所の飼いイヌたちも同様にて、心配してホワイトナイトはニオイを辿って駆けつけたという。
「ワンワン、わぁふ? (いったいこの町で何が起きている?)」
との問いかけに和香は首をふりつつ「にゃおん、にゃおん。(わからない。でもきっとあそこに行けば答えがあるはず)」と神社の方を見た。
すると目に入ったのは、神社の上空で旋回しているトリたちの姿だ。もの凄い数の鳥影が渦を巻いており、まるでひとつの巨大な生き物のよう。怖い。
やはりあそこがゴールのようだ。
ここまで来たらもう後戻りはできない。
和香、コテツ、ホワイトナイトら三頭はこくんとうなづき合うと、神社へ向けて歩き出した。
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