47 / 62
047 バレちゃった!?
しおりを挟む鍋島さん家(ち)のサッちゃんこと幸恵さんは独り暮らし。
たしか数年前に夫を病気で亡くしており、子どもたちはすでに独立して実家を出ているはず……
ネコの姿になった和香は、隣家との境にあるブロック塀へあがると、一階の屋根へ飛び移り、そこから屋根伝いに二階のベランダへと向かう。
あっという間にベランダに到着した。
手すりの柵の隙間からするりと身を滑り込ませる。
柔軟かつ身体能力に優れたネコならではの芸当だ。
で、いよいよ開いていた窓から室内へと踏み込んだところで「にゃっ!」
和香は尻尾をピンと立ててはたいそう驚く。
いきなり人が倒れていたからだ。
サッちゃんだ! 意識を失っている。にゃあにゃあ呼びかけたり、ふみふみ揺すったりしてみたけれども反応がない。
ぐったりしており、顔が赤く火照っている。汗もやたらとかいていた。
これは……
「にゃにゃにゃん!? (もしかして熱中症!?)」
それもかなり重症っぽい。
こうしちゃいられないと、和香はすぐに人間の姿に戻って階下へと。
探したのは家の固定電話だ。いまどきだからサッちゃんもスマートフォンを所持しているかもしれないけど、ロックがかかっていたら使えない。
ここは他人様のお宅。
電話のある場所がわからないので、片っ端から確認していく。
するとある部屋のドアを開けたところで、いきなり「ニャーっ」
アメリカンショートヘアが飛び出してきた。必死に叫んで外に助けを求めていたあの子だ。
サッちゃんの飼いネコは、和香には目もくれずに飼い主のもとへと駆けていく。
それを横目に、ようやく電話を発見した和香はすぐに119番をした。
幸い電話はすぐに繋がった。
だがしかし――
「えっ、到着が少し遅れるって、そんな……」
女性の通信員からそう告げられ、和香は絶句する。
ここのところ救急車の出動件数が急増しているせいだ。
平時ならば十分もあれば駆けつけられるのに、いまは運悪く救急車がすべて出払っているから時間がかかるという。
和香は一瞬頭の中が真っ白になった。パニックを起こしそうになる。
だが、そこで受話器の向こうから聞こえてきたのが「あわてないで、しっかりしなさい」との励ましの言葉であった。
けっして語気を荒げることなく、それでいてとても心強い。
声に勇気を与えてくれる不思議な響きがある。
うつむきかけていた和香はキッと顔をあげた。
◇
通信員の指示に従い応急処置を行い、祈りながら待つことしばし。
じょじょに近づいてくる救急車のサイレンの音に、和香はへたり込みそうになるも、「まだ気を抜いちゃダメ、しっかりしなくちゃ」と己の頬をパチパチ叩く。
玄関に向かいドアを開け、救急隊員らを迎え入れる準備をする。
サッちゃんはいざという時のために、お薬手帳やら保険証などをまとめてポーチに入れて、固定電話の脇に保管してあったので、これもいっしょに隊員に託す。
身内への連絡まではさすがに手が回らない。
あとは大人たちに任せるしかないだろう。
さすがはスペシャリストである。
現場に到着した救急車が、患者を積み込み出発するまでにかかった時間は、ほんの五分ほど。
和香があれこれお手伝いをしてくれたおかげだと、隊員のお兄さんから褒められたけど、それを抜きにしても速かった。
とにかく動きに無駄がない。隊員同士の連携も見事で、とてもテキパキしており、安心感が半端ない。和香は目をぱちくりさせながら、ほとほと感心するばかりであった。
サッちゃんが救急車で搬送されていく。
それを和香は門前で見送った。
この頃になると家の前に野次馬の人垣が出来ていた。なかには「どうかしたの?」と訊ねてくる近所の人もいたので、和香はかくかくしかじか。さしさわりのない範囲で説明しておく。
とりあえずやれることはやったと思う。
あとはサッちゃんの無事を願うばかり……ではない。
なにせいまの和香の腕の中には「ナァ~ナァ~ナァ~」と鳴いては、ご主人さまの身を案じているアメリカンショートヘアがいたもので。
この子はカリンちゃん。
サッちゃんが名前をつけてくれたそうだけど、飼い主があんなことになったもので、このまま無人宅に置いておくわけにもいかないだろう。
「とりあえず、うち来る?」
和香が声をかけるとカリンちゃんは「にゃうん」とうなづく。
と、その時のことであった。
突き刺さるような視線を感じて、和香はハッ。
ぼちぼち散開し始めていた野次馬たち。
その奥にいたのは高槻悠太。
目が合ったものの、不自然に顔をそらされたばかりか、悠太はまるで逃げるようにしてその場から立ち去ってしまった。
そんな彼の態度に、和香は言い知れぬ不安を覚えた。
1
あなたにおすすめの小説
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる