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026 ひょうたん丘
しおりを挟む上からみれば巨大なひょうたんの形をしている丘。
丘を中心とした一帯をぐるりと堅牢な外壁がとり囲んでいる。
大小のふたこぶのうち、大きい丘の上にデデンと威容を誇っている建造物。
これが大練武祭の会場となる大闘技場。
比べて小さい丘の上にぽつんと立つ城のなんと質素なことか。
煌びやかさは皆無。迷宮街にあった斡旋所に似た愛想のない造りが、いかにも事務所っぽい。
この二つの建物が、武芸に傾倒しているクンルン国のあり方を象徴しているかのよう。
ふたつの丘の緩やかな斜面は段々畑のように整地されており、たくさんの家屋が軒を連ねている。
規制があるのか、建物の壁は黄土色にて統一されており、屋根の高さもほぼそろっている。
見事な棚田を彷彿とさせる美しさ。
夕陽を受けたらきっと都全体が黄金色にかがやき、さぞや街並みが映えることであろう。
クンルン国の首都アルマハル。
ここが今回の旅の目的地。
◇
首都へと入場する門のところで出迎えを受けた。
王族の入り婿だという中年男性から「ようこそ」と挨拶を受けて、わたしは内心で首をひねる。
武芸が盛んで、そこいらに腕利きがごろごろしている土地柄。だからてっきり王族関係もムッキムキのむっちむちな超戦士みたいなのを想像していたのだけれども、おもいのほかに線が細い。肌も白いし、頬はこけ、顔の血色もいまいち。ずっと室内にて政務に精を出している、いかにも文官といった風情。
事実、交わした手にあったのは武芸の鍛錬でついたタコではなくて、ペンダコ。
で、その足で案内された小さなお城で謁見した王さま以下、みんな似たような感じ。
あれ? なんだか戦士の国にそぐわないような。
ひとりふたりならばともかく、そろいもそろってそんな人ばかり。
いつしか視線に遠慮がなくなっていたらしく、わたしの目に浮かぶ猜疑の色を感じとった入り婿の男性が「いやはや、我が国を訪れた方の多くが同じ疑問を抱くようでしてね。ですがこれには少々事情があるのですよ」と教えてくれたところによれば……。
武芸大好きのクンルン国の民。
頭を使うよりもカラダを動かす方が好きという国民性。
強さは尊く、尊敬に値する。
よって一番強い者が国を統治するのが正しい。
という単純な考えが、国の興った当初こそはあった。
だが、しばらくしてすぐにみんな気がついた。
「あっ、統治ってムズカシイ。馬鹿だとダメだ。あと王さまとか、おもったよりもたいへん。ちっとも楽しくない」
なにせ膨大な事務仕事に追われて、数字に追われて、あれやこれやと発生する諸問題の対応に追われて、朝から晩まで机にかじりついて、それこそカラダを動かす暇もないほど。
武器を手に切磋琢磨をし、おおいに汗を流し、大草原をウマや騎竜で駆けるのが大好きな人たちにとっては、それは苦痛以外の何物でもない。
よって王族の中から窮屈な生活を嫌って、逃げ出す者が続出。
他所の国ならば身内で殺し合いを演じてまで欲する玉座。
それを「おまえがやれ」「いいや、おまえがやれ」「わたしはぜったいにイヤ」と押しつけあうヘンテコな状況になる。
で、現在の王家は歴代にて武運つたなく、貧乏くじを引いてきた者たちの累積のような血脈。
結果として、およそ戦士の国とは縁遠い弱よわしい容姿になった。
そしてこんな弱そうな王家ゆえに、長い歴史の中ではときおり武に驕った狼藉者が「オレさまが王になる!」と名乗りをあげ、反旗をひるがえすこともちょいちょいあった。
ふつうならば内乱に突入して、たいへんな騒ぎになる。
しかしクンルンの王族はちがう。
「どうぞどうぞ。やったー! これで苦役から解放されるぜ。ひゃっほう」
諸手をあげて新しい王さまを歓迎。
一切合切を丸投げして、さっさと身ひとつとなって首都を去るほど。「自由だーっ」
そして新たな王の治政がはじまるのだが、上手くいく道理がない。なにせ国を治めるのには、とってもきめ細やかな配慮が必要なのだから。
じきに政が滞り、腕っぷし自慢の強面がぞろぞろいる下々から「おい、しっかりやれよ」と激しくせっつかれ、四方八方から小突きまわされて、ついに耐えかねた新しい王さま「もう辞める」と逃げ出す。
こうなると国が完全に機能を停止する。
それはみんなが困る。
困ったみんなは元の王族に泣きつく。
泣きつかれた王族たち。泣き落し半分おどし半分にて、しぶしぶ城に戻って、ふたたび苦役をしいられる。
こんなことを何度かくり返して現在の体制が確立した。
ゆえにいまではクンルン国の民たちは、こう考えている。
『炎風の神ユラを敬い、武芸と草原をこよなく愛し、王族の勤労には深い感謝を』
思想信条や信仰とはまたちがった形での国の成り立ち。
しいていえば「利便性による緩慢なる支配」というか、結びつき?
信仰と身分を軸にすえて国を治める神聖ユモ国。
我も人、彼も人といった考えが根底にある技術大国パオプ。
人、モノ、カネ、土地、考え、風習……。
ところかわれば国もかわる。それはこれまでの旅でわたしも実地に学んできたけれども、クンルン国はこれまたひと際異彩を放っている。
「趣味に没頭したいから、めんどうごとは上に押しつけるとか。クンルンの人たちってば、たくましすぎる」
わたしがあきれていると、入り婿の男性は「だからこそチカラによる支配は、この地にはそぐわないのでしょうね」とひかえめに笑った。
フム。男性の足元にのびた薄影に漂う哀愁が渋い。
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