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023 天罰覿面(てんばつてきめん)
しおりを挟む襲撃者たちが姿を消してから、半日ほど遅れてわたしたちも地上を目指す。
念のために階を進めるごとに、大地のつるぎツツミの空間把握能力を使用し、安全を確認。
もしかしたら待ち伏せとかあるかもと警戒したが、いまのところその気配はなし。
「とはいえ、このまま地上に戻るのは愚策だな。あの引き際の良さからして、襲ってきた連中は目的を達したと考えているのだろう。
だったら、それに乗っかるべきだ。わざわざ無事な姿を人前に晒して、ふたたび狙われる危険をおかすこともあるまい」
女用心棒として表と裏を渡り歩いてきたゲツガの意見に、一同うなづく。
そこでアスラには変装をしてもらうことにする。
ちょうどいいところに迷宮内に転がっていた挑戦者の死体から、装備類一式を拝借して、ボロボロになった甲冑を着替えるアスラ。
鎧をかえるだけでもけっこう印象が変わるものだと感心しつつも、問題は首から上。なまじ容姿が整っているのが困りもの。
それで戻りがてら他の死体を物色した結果、「おっ!」と見つけたのが黄金の仮面。
とはいっても金メッキ製の安物。顔の上半分だけを隠す仮面にて、お祭りのときとかに身につけるやつ。正体を隠して大人の社交を楽しむいけない小道具。
「これなら飲食の邪魔にならないし、戦いのときも息苦しくないよ。視界もたいしてさえぎらないから、ちょうどいいんじゃないの」
「いや、しかし、ちょっと派手じゃねえか? かえって目立つような」
わたしが勧めるも、躊躇するアスラ。
するとゲツガとケイテンも「中途半端に隠そうとするからかえって気になるもの」「そうそう。いっそただの目立ちたがり屋さんっていう設定で通せばいいのよ」と賛同。
で、アスラはしぶしぶ黄金仮面をかぶる。
かくしてナゾの仮面の剣士が誕生した。
そしてわたしは自分で勧めておいて、腹を抱えて大爆笑。
◇
天罰。
天に吐いたツバが己にかかるように、悪いことをしたら自分に跳ね返ること。
試練の迷宮も二十階層あたりまで戻ってくると、挑戦者たちの姿がそこかしこに目立つようになる。
けれども一番目立っていたのは、まちがいなく仮面の剣士アスラであった。
当人はなんだかんだで「フフン」と鼻歌まじりで上機嫌。どうやら気に入っているっぽいのだが、すれちがう人たちの視線が生温かいやら、痛々しいやら。
いっしょに歩いているわたしたちには同情まじりの視線が向けられる。
おそらくは「あらあら、はしゃいでいる坊やのお守りはたいへんでちゅねえ」とでもいったところか。
アスラを笑い者にしていたら、いつの間にやらひとまとめにされて、自分たちも周囲から笑い者にされていた。
天罰覿面(てんばつてきめん)である。
こんなささいな罰をほじくり返す暇があるんだったら、襲撃してきた不心得者どもの方をなんとかしろよ、神さま! もしくは立場をわきまえずにひとりでふらふらしている馬鹿王子に!
なんぞと、わたしは心の中で毒づき、天に向かってペペペとツバを吐いた。
◇
第四階層まで戻ってきたときのことである。
わたしたち一行の前に立ちはだかった影ひとつ。
立派なあごひげを持つ大柄な老体が、通路の中央にて仁王立ち。
手には大きな片刃がついた長い柄の斧。
発せられる熱が明らかに怒気をはらんでおり、わたしたちはギョッ。
でも誰より驚いていたのは仮面姿のアスラ。
「げっ、じじい。どうしてここに……」
「ほぅ、どうしてと? それをわしの口から言えと王子はおっしゃるのか。
御身がふざけた格好にて、女人をぞろぞろ連れて迷宮を楽しんでおられるあいだ、我らがどれほど血相を変えて方々を探しまわったことか」
山のような老人が顔を真っ赤にして怒っている。
いまにも大噴火しそうな雰囲気。
危険を察したわたしたち女性陣は二歩ほどサッと下がった。
この段になってわたしはようやく悟る。
いかにアスラが阿呆王子でも、さすがに遠い異国への単独渡航は許されなかったみたい。ちゃんとお目付け役やお供たちがいたんだ。それをアスラはまいて勝手をしたと。
そりゃあ怒られてもしようがないよね。大勢の人間に迷惑をかけたんだもの。
老人が鼻の穴を膨らませて、胸をそらし大きく息を吸い込む。
わたしはすぐさま自身の両耳を手で押さえた。
だってあれってば、ポポの里の神父さまが怒鳴るときとまったく同じ動作なんだもの。
案の定、すぐさま「ばっかもーん」というカミナリが迷宮内に落ち、アスラにも天罰が下った。
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