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021 アスラの正体
しおりを挟む奇跡の霊薬による内と外からの治療が功を奏したのか、アスラの容体が安定。顔に血色が戻ってきて、全身に広がっていた赤紫の不気味な模様もじょじょに消えていきつつある。呼吸も落ちついてきた。
この分ならば、もうだいじょうぶ。
わたしはやれやれと胸を撫でおろす。
残った霊薬をゲツガにも飲ませて早々に回復させてから、周囲の状況をあらためて調べる。
石膏像みたいなのが転がっていた。
コォンのなれの果て。
手には折れた白い槍の柄が握られたまま。穂先の部分はどこにも見当たらない。
死してなお武器を手放さない。
たとえ意識やカラダをのっとられようとも、武人の矜持までは奪われなかったのか。
近づこうとしたらピキリパキリと音がして、全身に亀裂が走りコォンの身が砕けた。
槍の柄も落ちたひょうしに割れて粉々になってしまう。
武才に恵まれ、将来を嘱望された若者。
コォンの無残な最期を前にして、わたしはおもわず「あぁ」と嘆息せずにはいられない。
無性に切なくなって、わたしはうなだれる。
その肩を背後からやさしく叩いたのはケイテン。
「チヨコちゃんが気にすることはないよ。こういう生き方を選んだのは彼自身なんだから」
たしかにそのとおりだ。
そのとおりなのだが、それでも心に拭いきれないモヤが垂れこめる。時間は巻き戻せない。だからいくら悔やんだとてせんなきこと。頭ではわかっている。それでも他にもっとやりようがあったのではと、わたしは考えずにはいられなかった。
◇
大地のつるぎツツミの空間把握能力で襲撃者たちの所在を探る。
連中はすでに四十一階層へと移動していた。一目散に逃げていく。
わたしだけならば勇者のつるぎミヤビに乗って、ビューンと追いつくことも可能だけれども、それはやめておく。
いかに天剣(アマノツルギ)を有するとはいえ、試練の迷宮内では混戦は必至。あれほど見事な襲撃をこなす手練れの集団と殺り合うには、あまりにも場所が悪すぎる。
どうしてアスラが狙われたのか。
それについては目覚めたら当人の口から聞くとしよう。
「……にしても、やっぱりあの不気味な白い槍が禍獣の氾濫の原因だったのかなぁ。いったい何だったんだろう」
わたしが首をひねっていると、ゲツガが「心当たりある」と言った。
「おそらくだが、あれは魔槍だと思う。この地に封印されているというウワサは聞いたことがあったが、よもや実在していたとは」
「まそう?」
聞きなれない単語についてはケイテンが説明を引き継いだ。
「疑装天剣のことよ」
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣は使命を終えると、いつの間にか地上より姿を消す。
だから後世に伝わるのは、なした奇跡や示したチカラの鮮烈な記憶だけ。それとても長い年月を経るうちに、いつしか風化し忘れ去られてゆく。
だが名残りを惜しむ者たちがいた。
すっかり天剣に魅了され、失せた宝物を欲するがごとく追い求め、ついには人為的に天剣を創り出そうとする。
その結実が疑装天剣と呼ばれる武具のこと。
しかし人の妄執の果てに生まれた疑装天剣の出来は酷いものであった。
性能は本物には遠くおよばず、世に害をおよぼすばかりの存在。持ち主が悲惨な末路を辿るのは、ついさっき目撃したばかり。
だから破棄もしくは封印されて現在へと至る。
疑装天剣の話を聞いて、わたしは我が子たち(剣と鎌と槌)が白い槍を前にしてイラ立っていた理由を察した。
そりゃあ怒るわ。
見知らぬ相手が親戚面をしてふるまっていたら、「おまえ誰だよ!」ってなるもの。
◇
ようやくアスラが目を覚ました。
「くそっ、このオレさまともあろうものが、あんなヘマをやらかすとは」
床に手をつきむくりと上半身を起こしたアスラ、さっそくオレさま節を炸裂しつつ自分のカラダをぺたぺた触るも「あれ? 斬られた傷がない。それに至近距離から小弓で射られたはずなんだが」とふしぎがる。
アスラにケイテンが居丈高に告げた。
「ちょっとあんた、チヨコちゃんに感謝しなさいよ。彼女がとっておきの秘薬を提供してくれたおかげで助かったんだから。しかもぶちゅーっと熱い口づ、げふっ」
余計なことを口走る直前に、わたしはケイテンの横腹に拳をめり込ませて黙らせる。
アバラの内側にめり込むように放たれた幻の左を喰らってケイテン悶絶。それを尻目に、わたしはここまでの経過をかいつまんでアスラに説明し、そして問うた。
「あんた、いったい何者なの?」
わたしだけではなく、ゲツガやケイテンからもまっすぐに見つめられて、アスラもついに観念する。
「わかった、わかったから。そんなににらまないでくれ。とんだ迷惑をかけちまったみたいだし白状するよ。オレさまは海の向こうにあるレイナン帝国の王子だ。
とはいっても、二十三番目の末席だがな」
がっかり王子が、じつは本物の王子さまだった!
しかもしかも、よりにもよってかの悪名高きレイナン帝国のっ!
そしてレイナン帝国の王族といえば、次期帝位をめぐって血で血を洗う抗争を続けているという物騒な連中。
っていうか、仮にも王族の一員なのに、お供も連れずに遠い異国の地を単独でふらふらとかありえない。
いかに腕に自信があるからってムチャがすぎる。
わたしはあいた口がふさがらない。
ゲツガも心底あきれ顔。
けれどもケイテンは無言のままにて、アスラを見つめるばかりであった。
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