11 / 50
011 ごねる男
しおりを挟むゲツガと契約を結び、明朝に迷宮の門前で待ち合わせと決めたところで、本日は解散。各々、準備を整えて十分にカラダを休めて探索に臨む。
なおゲツガにはわたしが天剣(アマノツルギ)を持つ剣の母であることは伏せてある。
もしもうっかりバラしたら、天剣欲しさに群がってくる連中のせいで、迷宮街が大騒ぎになりかねないからね。
対外的には「お金持ちのお嬢さまの道楽による、迷宮探索」ということにしておいた。
で、わたしとケイテンが斡旋所を出ようとしたら、さきほどお世話になった受付のお姉さんのところで、ごねている若い男の姿を目撃する。
「なんで一人で入っちゃいけないんだ! オレさまは強いから問題ねえって、何度も言ってるだろうが」
「ダメです。規則ですので」
えらく興奮している男、勢いのままにドンと受付の台を叩く。あまり褒められた態度ではない。
しかしお姉さんもさるもの。一歩も引くことなく、頑として譲らない。
そういう決まりだからというだけでなく、それが挑戦者たちの命を守るために最低限必要なことだから。
試練の迷宮、全百層。
これをかつて踏破した人物が一人だけ存在する。
トナカの街でのお芝居にもなっていた、蒼い狼と呼ばれた伝説の戦士。
しかしそのせいで、ちょっと困ったことが起きてしまう。
超戦士の武勇に憧れるあまり、自分もと単独にて挑戦するもの数多。しかしその大半が帰ってこなかった。
人的被害甚大にて、これは見過ごせないと判断した当時の国の首脳部が、現行制度を整えたのである。
どうやらかなりの遠方から来た青年は、そのことを知らなかったらしい。
意気揚々ときてみれば「ぼっちお断り」と言われて、すっかりお冠の様子。
「迷宮に挑戦したいのであれば、最低、二人はお仲間をご用意してください。もしもいないというのであれば、斡旋所にて紹介することも可能ですから」
「そんな悠長なこと、ちんたらやってられるか! オレさまはすぐにでも潜りたいんだよ」
どこまでも淡々と規則にのっとった応対をする受付のお姉さん。
毅然と職務に邁進する姿が、とっても大人でステキだ。わたしは大きくなったら、あんな風になりたい。
どこまでも感情的に突っ走るオレさま野郎。
わたしは自分で自分のことを「オレさま」と呼ぶ人間をはじめて見たよ。
なんていうか、すっごくダサくて痛々しい。なまじ容姿が整っているから、中身のがっかり感が半端ない。わたしは密かに心の内にて、こいつをがっかり王子と命名する。
◇
何ら前触れもなく、それは起きた。
口論というか、いちゃもんのさなか。
唐突に腰の剣に手をかけて、こちらを振り向くがっかり王子。
とても滑らかで素早い動き。実力に関してはあながちウソではないと思わせるほどのもの。
けれども、そのあとが意味不明。
なぜだか厳しい視線を向けた相手は、わたしことチヨコ。
これには受付のお姉さんも怪訝な顔をし、隣にいたケイテンも戸惑いを隠せない。
で、がっかり王子はずかずかとこちらに近づいてくるなり、「おい、そこのおまえ。いったい何者だ」と声を荒げた。
がっかり王子、まさかの当たり屋?
いきなりお鉢が回ってきたわたしは「えー」
からまれてわたしが困惑しているのを無視して、がっかり王子はこちらの周囲をうろうろしては、全身を舐めまわすように見つめてくる。
青年の奇異な行動を前にしてケイテンが「新手の痴漢? いや、この場合は視姦というのが正しいのかしら」なんぞと独りごちている。ちっとは仕事しろ! 警護役。
そうしている間にも、がっかり王子はわたしに熱視線を送り続け、ぶつぶつ。
「なんだ? 確かにすごい威圧を感じたんだが。どこからどうみても、ただのちんちくりんだ。さすがにこれで『じつは武芸の達人でした』はないだろう。
しかしさっきのは絶対に気のせいなんかじゃない。
いったいこのチビの何が、このオレさまをビビらせたというんだ……」
青年の発言に、わたしは内心でびくびく。
やっべー、こいつ。おそろしく勘がいいぞ。
きっと帯革にいるミヤビたちに反応したんだ。うちの子たち(剣と鎌と槌)は、みな馬鹿な男が大嫌い。それでついイラっとしたのを感知した?
こんなことは初めて。
この男、ただの痛い野郎なのかと思っていたけれども、それだけじゃあないみたい。
でもこれ以上騒がれて、うっかりモロモロが露見したら、きっと大騒ぎになる。どうしよう……。
あせるわたし。
するとがっかり当たり屋王子は、ここでさらに斜め上をいく行動にでる。
あろうことか、こんなことを言い出した。
「ふーん、まぁ、いいか。それよりも、よし、決めた! おまえたち、オレさまの仲間にしてやる。おい、受付の姉ちゃん。これで人数はそろったから問題ないよな」
勝手に話を進めるがっかり王子。
もちろん、わたしは「じょうだんじゃない!」と猛抗議。
ケイテンとてそれに倣う。
が、ここで思わぬ裏切りが起こる。
「金ならあるぞ」
がっかり王子が提示した金額を前にして、すかさずケイテンが膝を屈した。
「出張先にて少なくない臨時収入。しかも非課税。チヨコちゃん、お姉さんは引退後は悠々自適な生活がしたいの。あくせく働くのなんて、もうイヤなの」
正面よりわたしの両肩をがっちり掴んで、大真面目な顔をしてケイテンはそんな本音をぶちまけた。
四十まで勤めあげれば、貴族籍が与えられ、領地をもらえて、ウハウハな第二の人生がまっているという影のお仕事。
どうやらケイテンは引退後の生活において、さらなる快適化を画策している模様。
それゆえにこの好機をぜひともモノにしたいと熱弁。
欲に濁った三十路女の瞳を前にして、わたしはダメだこりゃ。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。
いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑!
誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、
ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。
で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。
愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。
騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。
辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、
ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第二部、ここに開幕!
故国を飛び出し、舞台は北の国へと。
新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。
国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。
ますます広がりをみせる世界。
その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか?
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から
お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
ベンとテラの大冒険
田尾風香
児童書・童話
むかしむかしあるところに、ベンという兄と、テラという妹がいました。ある日二人は、過去に失われた魔法の力を求めて、森の中に入ってしまいます。しかし、森の中で迷子になってしまい、テラが怪我をしてしまいました。そんな二人の前に現れたのは、緑色の体をした、不思議な女性。リンと名乗る精霊でした。全九話です。
おなら、おもっきり出したいよね
魚口ホワホワ
児童書・童話
ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。
でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。
そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。
やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる