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44 水禍とチクワ。
しおりを挟むなんだかんだでお客がちょくちょく顔を見せるようになったウチの廃村。
それだけ外部の情報も耳に入って来るわけだが、あまり芳しいものではないようだ。
王国では冒険者ギルドのマスターが言っていた通りに、辺境への人と物の流出が止まらず、ついに国が規制に乗り出したらしい。だからとて全てを防げるわけもなく、結果として王国の中央部に空白地帯が生まれつつあるようだ。
人が少なくなれば治安が乱れ、景気が傾き経済が滞り、雰囲気が荒ぶ。
それがまた呼び水となって以降、負のスパイラルに突入すると。
初期段階で英断を下していれば防げたのに、すでに手遅れっぽいな。こっちに無駄な軍勢を差し向けるぐらいならば、王様は全員に屯田開墾でもさせるべきであったのだ。
リリイちゃんのお母さんや愛妻家育メンのドラゴンさんによれば、上空から見えるだけでも人間の領域を中心にして不毛な大地が急速に増えているというし、なんとなく空の気もよろしくないとのこと。神域の森や魔族の方はそうでもないらいしのだが……。
関係ないやと見過ごすことは簡単なのだが、世相が落ち着いてくれないと結局のところ、巡り巡ってこっちにまで御鉢が回って来るんだから堪らない。
どれだけ世俗と縁を切ったつもりになっても、神域の森と同じく生きている以上は、どこかで何かと繋がっている。いよいよとなれば神域の御戸にて引き篭るのもやぶさかではないが、それは最終手段であろう。
シルバーの言葉じゃないが、私もなんとなく世界全体がゆっくりと悪い方へと傾いているような気がする。
世界間のバランス調整という謎の名目のために、わざわざ異世界から多くの人たちがこちらに送られているというのに、これはいささか奇妙だ。
何事も起こらねばいいのだけれども。
ここのところ長雨が続いている。久しく青空を見ていない。
こちらの世界に来てから初めての経験だ。
ちょっと嫌な感じの長雨だなあと思っていたら、冒険者ギルドからの急を報せる使者が来訪した。なんでも王国を横断する河川の水嵩がヤバイらしい。そしてその河よりも王都側は高い地形なので問題はないのだが、こちら側は低いそうで、もしもの時には濁流が押し寄せるという。
うちの辺りは平気なのだが街やら近在の村とかの半分ぐらいは、ちょっと沈んじゃうかもという話であった。
これは正直、面白くない。
だってわりとあちこちに尽力したし、土壌開発やら農作物の育生に協力したというのに、全部が水に流されることになる。寝る間も惜しんでせっせと撒いたチクワ肥料が無駄になるなんて、ちょっと許せないね。
レッドやシロの仲間の黒サイカたちに協力してもらって、広範囲に渡って河川の状況を調べてもらい、危なそうなところがあればシルバーの背に乗って私が駆けつける。
轟々と濁流がうねりガリガリと護岸の土を削る。
流木やら巨岩が川上より水流に押されてきては、途中で折り重なって堰となって水位を上昇させていたので、急いでチクワ戦士たちを投入しては水の流れを遮る障害物を排除し、レベル6の能力で出した巨大チクワを土管代わりにして補助経路を作成し水量を調節しつつ、建材や土嚢代わりのカチカチ硬化チクワで護岸をしっかりと補強する。
それが済んだらまた別の現場へと向かう。
簡単な補強で済むところにはチクワ戦士らと資材代わりの巨大チクワを出しておき彼らに任せて、より深刻な現場へと急行する。
これを土砂降りの雨の中、延々と繰り返すこと三日三晩、みんなの協力もあってどうにか河川の氾濫は防げた。
いやはや、水のチカラって凄いな。
突発的な土石流とかに巻き込まれそうになったときは、マジで死ぬかと思った。咄嗟に特大チクワをででんと出して防がなかったら危なかった。チクワに乗っての急流下りとか二度とごめんだよ。家よりも大きなあんな岩がごろんごろん転がっていくのも初めて見たな。あまりの迫力でちょっとチビったわ。
そんなのをどっこいしょと動かすチクワ戦士らも大概だがな。
シルバーも前足一本で叩いてどけていたし、シロは得意の超音波攻撃で破砕してくれたし、レッドもなんか火の鳥みたいになって突撃して粉砕していた。
やっぱり凄いわ、うちの子たちって。
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