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43 夢見るキラキラ団。

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 近在への資材のばら撒き作業も完了し、ようやく平穏を取り戻したある日の午後。
 ちょっと暇だったのでチクワ戦士たちと組体操をして遊んでいたら、そこに見慣れぬ一団が現れた。
 主人とお供の騎士たちの一行なのだが、全員が全員、やたらとキラキラしていた。
 いや、実際に光っているとかではなくて雰囲気に華がある。なんていうか乙女ゲームとかいうやつに登場する王子様とか騎士とかを、そのまま現実世界に抜き出したかのようなイケメンパラダイスなんだよ。
 キラキラの集団から、ひと際まぶしい一人が私に声をかけてきた。
 
「そこの君、すまないがこの辺に聖女様がおられると聞いたのだが、お住まいを知らないかね?」

 金髪サラサラの青い目をしたイケメン王子。
 実際に某国の王子なんだと。
 ……どうやらこいつらも幻想に踊らされた連中の仲間のようだ。
 関わると面倒そうなので「聖女は東へ旅立った」と適当を言ったら、それを真に受けて追って行ってしまった。
 まあ、べつにいいだろう。せいぜい気が済むまでいもしない幻を追い続けるがいい、夢狩人たちよ。
 それにしてもちょいちょい冒険者ギルドの監視の目を掻い潜って村に来る奴が増えているな。あいつら人払いの仕事そっちのけで、布教活動とかに勤しんでいたらチクワの供給を打ち切るからな。
 
 五日ぐらいでキラキラ団が戻ってきた。
 どうやら街に立ち寄った際に、当人非公認の他称聖女が森に居座り続けていることを聞き及んだようだ。
 ちっ、余計な真似を。

「君、酷いじゃないか。あんな嘘を言うだなんて。いくら聖女さまの従者として主を見知らぬ相手から守るためとはいえ、せめてお伺いを立てるぐらいはしてくれてもいいだろうに」

 金髪王子は私を幻想の聖女のお手伝いかなんかと勘違いしているようだ。
 きっと一人歩きする聖女伝説に惑わされて、聖女とは清らかで美しい乙女に違いないと思い込んでいるのだろう。悪かったな、見た目、ただの村娘風の異世界人で。
 だが勘違いしてくれているのならば、それはそれで利用しない手はない。
 だから私は従者のフリをして色々と彼から情報を聞き出すことにする。

「それで聖女さまにお会いして、どうするおつもりなのですか?」
「もちろん求婚するつもりだ。そして我が国の王妃として迎え入れたいと考えている」

 この王子さま、顔はイケてる。背も高いし体格もいい。ここまで旅を続けている以上は腕も悪くないのだろう。部下たちのイケメン騎士らが静々と従っていることからも、人望もあり優秀だとも思う。
 ……でも阿呆だ。
 王妃なんて国の大事をホイホイと一個人が勝手に決めていいもんじゃないし、そもそもなんの妃教育も受けていないポッと出の女を後宮に招き入れるなんて、正気の沙汰とは思えない。
 超名門の一族に、貧乏な家なき子が嫁いで「わーい、わたし超玉の輿」なんて無邪気に喜べるわけがないだろう。待っているのは地獄のような新婚生活。動物園生まれの動物園育ちの獣を、いきなり弱肉強食の野生の王国に放り出すようなもんだ。周囲からのありとあらゆる圧力に身も心も魂すらをもすり潰されて、じきに精神を病んで飛び降りるか首を括るか。
 バッドエンドが大口を開けて待っている未来がすぐそこに。
 哀しいことに努力と根性と愛だけでは越えられない壁もあるんだよ。

「そのためにわざわざこのような僻地にまで? お国に戻ればお妃候補には事欠かないでしょうに」

 ちょびっと嫌味を混ぜた言葉を口にしてやると、王子様は「国元の女どもは互いに張り合ってばかりだし、地位に目が眩んでいてちょっと」などと仰った。
 確かに女同士の争いは醜いかもしれないし、ギスギスとした空気は殿方にとっては息苦しいことであろう。だがそれだけ彼女たちも必死なんだよ。意中の男性を射止めようと躍起になっているんだよ。全部が全部、あんたのためなんだよ。そんな切ない女心がなんでわかんないかなあ……。
 ある意味、その国元の女の人たちってば、まだ正直な方だと思う。
 もっと底意地の悪い奴とかだったら、エグイぐらいに猫を被っているから。同性の前だからって油断して仮面を外したりしないほどに徹底しているし。外から粗が見えている時点で、私に言わせれば可愛いもんなんだよ。チャームポイントと言ってもいいぐらいさ。むしろ楚々として完璧超人を気取って澄ましている奴の方が、内側に色々と溜め込んでいるから怖いんだよ。
 ……などと考えてはいるが、もちろん億尾にも出さない。
 そのまま彼らを村の来客用の建物へと案内して、しばし待たせておいた。

 たっぷり一時間ほど焦らしてから私はシルバーとレッド、シロ、それにチクワ戦士らを引き連れて先ほどと同じ格好のままで、御客人のところに顔を出す。
 そしてなにを隠そう自分こそが噂の聖女だったのですと、水戸黄門のごとく正体を明かしてやったときの王子さまの顔ったらなかった。

 やっちまった時の表情というのは、顔の美醜を問わずに間抜け面になるらしい。


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