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40 商業無情の乙女あり。
しおりを挟むリビングにて改良された、どくだみっぽいお茶を飲んでいたら来客を告げられた。
以前のは苦過ぎてみなに不評だったが、アレにチクワをぶっ込んで煮たら、なんか昆布茶みたいな風味に仕上がってからは、シルバーたちも好んで飲むようになっている。
私は来客用に設けてある村の一軒へと呼びにきたチクワ戦士をともない向かう。
シルバーも大型犬のサイズになってついてきた。
近頃では村外の客の相手はそちらで行っている。
いや、よく知らない相手を自宅に招き入れるのとか嫌だし、一応は女の一人暮らしっていう呈だし、その都度いちいち慌てて片づけるのとかも面倒だし、こっちも一応は乙女なんで多少の恥じらいもあるし。
来客用の建物周りには腕利きっぽい男たちが屯していた。本日のお客の雇った護衛のようだ。私の姿を見てもなんら反応を示さないということは、この辺の人間ではないのだろう。そんな彼らも周囲を取り囲むようにして配置されているチクワ戦士には、もの凄く警戒していたがな。
これって森の仲間たちから彼らを守るための配慮なんだが、たぶん誤解されているんだろうなあ。
建物内にはいると笑顔を浮かべた愛想のいい太ったお爺さんがいた。
「初めまして。貴女が聖女ハナコさまですね。お噂はかねがね。私は東の国にて商人をしているアシュトンと申します。以後お見知りおきを」
丁寧な物言い、こちらを小娘と侮った態度もないし、礼儀作法もきちんとしている。
一見すると好々爺だ。
だがそれだけだな。この手の奴はあっちの世界でもごまんといた。
私の家庭が異常なのは、ちょっと注意深く見ていたらすぐにわかる。それを心配して役所なんかに連絡を入れてくれる親切な人も少なからずいたんだ。そしてやってきた連中とこの爺さんは同じ目をしている。
こいつにとっては、私という存在は百あるうちの一つみたいなもの。
淡々と処理する案件の一つということさ。そしてそんな奴が自主的にこんな辺境まで、わざわざ危険を冒してまで足を運ぶ。
理由は自分にとって得になることがあるからに他ならない。
この手の人間は相手のためという体裁を装って、その実、自分にとって一番望ましい札を相手に引かせようと誘導してくる。
だから表面上は穏やかさを装いつつ、こちらも相手の出方を大人しく伺っていたら案の定であった。
「ぜひとも私どもと専属契約をしていただきたいのです。当方に品物をお預けいただけたならば、相応の価格にて捌いた後に、充分な報酬を納めさせていただきます」
ふむふむと頷きつつ、提示された書類にざっと目を通す。
びっちりと細かな文字が書き込まれた書面。
わりと真っ当なことが羅列されているが……、隅の方や他の情報に埋もれるような形にて、「任意」だの「随意」だなんていうキナ臭い文字がちらちら配置されている。しかもその前後にはすべて相手方に優位に働くような文言が、ちゃっかり記載されてあるし。
任意とは、思うままにということ。
随意とは、こちらもまた思うままにということ。
ようは全てにおいて相手方にとって有利に働くようにという意図が、この書類の中には巧妙に隠されてあるということ。
ちらりと隣に座っているシルバーに見せたら、ふんっと鼻で笑われたよ。
だからその場で書類を上から書き書き、相手にとって有利になる箇所をすべてこっちにとって有利になるように、いちいち訂正してやったら。好々爺の表情がみるみると青ざめていった。
舐めんなよ! こちとら自分大好きっ子な両親に囲まれて育ったんだぞ。
あいつら気まぐれで高額な商品を購入したりするから、後のクーリングオフの手続きが大変なんだよ。なかには性質の悪い業者とかもいたし……、というか真っ当な業者の方が少なかったからな。おかげで契約書内の不備を見つける粗探しなんてお手のものなんだよ。
だって意地でも解約しないと、私の来月分の給食費とか修学旅行の積み立て金とかが危うくなるんだから。
で、これは敵わんと思った爺さんは、なんのかんのと適当な言い訳を口にして早々に退散しようとした。だがこちらに詐欺まがいの商談を持ち掛けてきた阿呆を、ただで返してやるほど私は寛大な人間ではない。だから森の仲間たちに帰り道にて丁重にオモテナシをして差し上げろと言っておいた。
総指揮はシロにお願いしておく。「ちーちー」と彼はヤル気まんまん。
大丈夫、たぶん死にやしないよ。
せいぜい身ぐるみ剥がれて、森の外に真っ裸で放りだされるぐらいで済むだろう。
それよりもほうほうの呈で逃げる際に、最寄りの村や街に立ち寄った時の方がヤバイと思う。いまやあそこは聖女教の狂信者どもの巣窟と化しているらしいからな。
迂闊に私にちょっかいをかけたことを漏らしたが最後、どうなることやら。
あのギルドマスターならば暗室に閉じ込めて長時間説法とかで洗脳しそうで、ちょっと怖い。
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