上 下
40 / 54

39 余波

しおりを挟む
 
 私が家の外で待っているとお使いに出ていたレッドが戻ってきた。
 彼は今や不死鳥半歩手前ぐらいにまで健やかに育ち、平屋の住宅ぐらいには大きくなった。そんな彼が上空より私の姿を見つけて「ケーン、ケーン」と嬉しそうに声を上げながら、猛然とこちらに滑空してくる。そして近づくほどにしゅるしゅると体の大きさを縮めて、タカぐらいになったところで、私が差し出した腕にふわりと着地した。

「ちゃんと偉い人にお手紙渡してくれた?」

 そう訊ねるとスリスリと頭を頬にすりつけてくる。
 仕事はきちんとこなしてくれたようだ。ご褒美に激辛チクワを与えて頭をなでなで、すると「ケンケン」レッドが鳴いた。

 数日も経つとゾロゾロとチクワ戦士たちが森へと帰還。
 ようやく連中も引き上げたらしい。
 これにて一件落着、やれやれと私が思っていると、ひょっこりと上着の胸ポケットから顔を出したシロが「ちぃ」と不満気な声をあげた。どうやら彼としては連中が頑迷にゴネたところを、自分が颯爽と王都に出向いて懲らしめたかったらしい。
 ようは見せ場がなくてガッカリなのだ。そんなシロの頭を指先でちょんちょんと撫でながら「まあまあ」と宥める。
「もし次があったらその時にはお願いするから、頼むね」と言葉をかける。するとシロは「ちー」と元気よく答えてくれた。



 勇者を多数保有する王国軍がなす術もなく撤退した。
 その報は当事者らが考えている以上に大陸中を席巻し波紋を起こす。近隣諸国のみならず敵方である魔族らもまた、いち早くその情報を入手していた。こうなるとみなの興味は必然的に、これをなした相手へと向かうことになる。

 魔族領の首都にある城内の執務室にて、戦の結果報告を受け取った魔王が呟く。

「あの神域の森を統べる魔女……、果たして敵か味方か」
「一度、偵察部隊を送りましょうか?」

 そう提言したのは魔王の側近の男。だが魔王は首を横に振った。

「いや、やめておこう。下手に刺激をして王国と同じ轍を踏むのはマズい。それよりも正式な使者を遣わそう。どうやら王国の連中は初手から失敗したようだ。報告書に目を通したかぎりでは魔女は近在の者らからは、聖女と称えられているともある。だとすれば少なくとも好戦的ではないのだろう。ちゃんと手順を踏んで接触をはかれば、おそらくは大丈夫なはずだ」
「わかりました。それではすぐに人員を手配しましょう。準備が整いしだい飛竜部隊を派遣します」
「うむ。くれぐれも先方に失礼のないよう慎重に頼むぞ」
「はっ」

 側近の男は魔王の前を辞去し、早速、使者の一行を準備するために執務室を出て行った。



 人間の国のとある都にある商業ギルドの一室にて、王国軍敗退の報を受けた男が愉快そうな声をあげる。

「これはこれは……、近頃なにやら辺境の方がやたらと景気がいいと思っていたら、裏に得たいの知れない女が絡んでいましたか。どうやら彼女が無頓着に金品やら希少な素材を放出していたようですねえ。しかもまだ国の御手つきが入っていない……、これはちょっとそそられる案件です。報告によれば請われるままに周辺に援助しているみたいですし、適当に騙せば美味い汁が存分に吸えそうですな」

 肉付きのよい太鼓腹を震わせつつ、ぐふふと男が笑った。
 彼はその悪辣さから商業ギルド内でもずっと問題視されていた男。
 甘言を弄して相手を騙し、不当な契約を結んでは骨の髄までしゃぶる、そのくせ諸手続きは真っ当であるがゆえに誰も文句を言えない。裏では寄生虫と呼ばれ唾棄される商人。
 そんな彼が次の獲物にと狙いをつけたのは、森に隠れ住むという世間知らずの小娘であった。


しおりを挟む
感想 201

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...