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39 余波
しおりを挟む私が家の外で待っているとお使いに出ていたレッドが戻ってきた。
彼は今や不死鳥半歩手前ぐらいにまで健やかに育ち、平屋の住宅ぐらいには大きくなった。そんな彼が上空より私の姿を見つけて「ケーン、ケーン」と嬉しそうに声を上げながら、猛然とこちらに滑空してくる。そして近づくほどにしゅるしゅると体の大きさを縮めて、タカぐらいになったところで、私が差し出した腕にふわりと着地した。
「ちゃんと偉い人にお手紙渡してくれた?」
そう訊ねるとスリスリと頭を頬にすりつけてくる。
仕事はきちんとこなしてくれたようだ。ご褒美に激辛チクワを与えて頭をなでなで、すると「ケンケン」レッドが鳴いた。
数日も経つとゾロゾロとチクワ戦士たちが森へと帰還。
ようやく連中も引き上げたらしい。
これにて一件落着、やれやれと私が思っていると、ひょっこりと上着の胸ポケットから顔を出したシロが「ちぃ」と不満気な声をあげた。どうやら彼としては連中が頑迷にゴネたところを、自分が颯爽と王都に出向いて懲らしめたかったらしい。
ようは見せ場がなくてガッカリなのだ。そんなシロの頭を指先でちょんちょんと撫でながら「まあまあ」と宥める。
「もし次があったらその時にはお願いするから、頼むね」と言葉をかける。するとシロは「ちー」と元気よく答えてくれた。
勇者を多数保有する王国軍がなす術もなく撤退した。
その報は当事者らが考えている以上に大陸中を席巻し波紋を起こす。近隣諸国のみならず敵方である魔族らもまた、いち早くその情報を入手していた。こうなるとみなの興味は必然的に、これをなした相手へと向かうことになる。
魔族領の首都にある城内の執務室にて、戦の結果報告を受け取った魔王が呟く。
「あの神域の森を統べる魔女……、果たして敵か味方か」
「一度、偵察部隊を送りましょうか?」
そう提言したのは魔王の側近の男。だが魔王は首を横に振った。
「いや、やめておこう。下手に刺激をして王国と同じ轍を踏むのはマズい。それよりも正式な使者を遣わそう。どうやら王国の連中は初手から失敗したようだ。報告書に目を通したかぎりでは魔女は近在の者らからは、聖女と称えられているともある。だとすれば少なくとも好戦的ではないのだろう。ちゃんと手順を踏んで接触をはかれば、おそらくは大丈夫なはずだ」
「わかりました。それではすぐに人員を手配しましょう。準備が整いしだい飛竜部隊を派遣します」
「うむ。くれぐれも先方に失礼のないよう慎重に頼むぞ」
「はっ」
側近の男は魔王の前を辞去し、早速、使者の一行を準備するために執務室を出て行った。
人間の国のとある都にある商業ギルドの一室にて、王国軍敗退の報を受けた男が愉快そうな声をあげる。
「これはこれは……、近頃なにやら辺境の方がやたらと景気がいいと思っていたら、裏に得たいの知れない女が絡んでいましたか。どうやら彼女が無頓着に金品やら希少な素材を放出していたようですねえ。しかもまだ国の御手つきが入っていない……、これはちょっとそそられる案件です。報告によれば請われるままに周辺に援助しているみたいですし、適当に騙せば美味い汁が存分に吸えそうですな」
肉付きのよい太鼓腹を震わせつつ、ぐふふと男が笑った。
彼はその悪辣さから商業ギルド内でもずっと問題視されていた男。
甘言を弄して相手を騙し、不当な契約を結んでは骨の髄までしゃぶる、そのくせ諸手続きは真っ当であるがゆえに誰も文句を言えない。裏では寄生虫と呼ばれ唾棄される商人。
そんな彼が次の獲物にと狙いをつけたのは、森に隠れ住むという世間知らずの小娘であった。
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