39 / 54
38 勃発! チクワ戦線。
しおりを挟む冒険者ギルドからギルドマスターが直々に私のところにまで出向いてきた。そして王国が私を討伐するために軍を動かしたという、嬉しくない情報をもたらしてくれた。
あまりのことに私も開いた口が塞がらない。
何をどうしたらそんな展開になるんだ? こっちとしては人死にが出ないように、わりと気をつかって対応していたつもりだったのに。
「どうしてっ!?」
「あの愚王はおそらく貴女さまのチカラを恐れたのでしょう。勇者らを退け、数多の狂暴なモンスターを従え、神域の森をも統べる聖なる女王のチカラを」
あんまりな仕打ちに思わず疑問の声を叫んだ私に、ギルドマスターが恍惚とした表情にて、とんでもない言葉を口走る。
「えっ! もしかして世間では私ってそんな風に見られているの?」
「中央より見捨てられ搾取されるばかりであった辺境の民に、大いなる恵みと希望をもたらし無償の愛を振りまき、豊穣へと導いた貴女さまを唯一無二の聖女と崇めております。ちなみに今度うちの街にはハナコさまを讃える神殿が建設されることが決まっております。完成披露式典には是非ともご出席をしていただきたく……」
他にもなんか色々としゃべっていたようだが、諸々の衝撃が凄すぎて私の耳にはまるで入って来なかった。
神輿を担ぐどころの話じゃねえ! 聖女さまどころか神さま扱いじゃないか! どうしてこんなことに……、っとそれよりも目下の問題は軍勢だよな。これをどうにかしないと。
さすがにここが主戦場になるのは避けたい。せっかくいい感じで仕上がってきたのに、再びボロボロの廃村に逆戻りするのは嫌だ。
かといってわざわざ出向きたくもない。なんだか話だけ聞いていると王様って短気みたいだし、きっとろくに話も聞いてもらえずに縛り上げられて、問答無用で首ちょんぱされるような気がする。
そこで私はうちにてチクワソファーに寝転がりながら、連中を撃退することに決めた。
現在の人類の最前線となっている辺境の街へとあと一日の距離にまで迫った荒地にて、二つの軍勢が対峙していた。
片方は王国より派遣されてきた軍勢、その数五千。
もう片方はなにやら得たいの知れない姿をした異形の軍勢、その数五百ほど。
兵力差はおよそ十倍。王国側は数を頼みに、たとえ珍妙な相手とはいえ恐れるに足らずと敵を侮った。そしてこれから始まる偽聖女狩りの前哨戦として、連中を盛大に血祭りに揚げようと、無策にも突っ込んでいく。
しかしそんな軍勢の中にあってごく少数の者らは、進軍方向とは逆に向かって一目散に逃げ出していた。かつて神域の森へと赴いた勇者たちと、彼らからその際の話を聞いていた異世界人たちの集団である。
平原の向こうに並び立つチクワ戦士たちの姿を見た瞬間に、彼らは慌てふためいて戦線を離脱し始める。そもそも彼らは今回の行軍に参加したくなんてなかった。だが先の任務の失敗もあり、また戦意高揚の旗頭としての役割もあったので無理矢理に軍勢へと組み込まれたに過ぎない。
逃げる彼らに怪訝な顔を向けるも構わず突撃をかける兵士たち。
魔法隊が一斉に先制攻撃を放つ。弓矢が雨のように敵陣へと降り注ぐ。その後に槍や剣を手にした兵士らが勢いのままに殺到した。この時までは彼らも一方的な殺戮劇に終始すると本気で信じていた。だがそれがすぐに自分たちの勘違いであったことを、痛感させられることとなる。
蹴散らすという表現があるが、それを文字通りに体現していくチクワ戦士たち。
無造作に腕を振るうだけで屈強なはずの兵士らが薙ぎ倒され、吹き飛ばされていく。捨て身の攻撃すらもが華麗なフットワークにてひらりと躱され、かすりもしない。
殴る、殴る、とにかくポコポコと殴り、たまに蹴る。
そんな子供の喧嘩のような稚拙な仕草に翻弄される軍勢。
数の優位性なんて端からなかった。そもそもの話、よくよく考えてみればわかりそうなものなのである。なにせ相手は王国最強の勇者六人をけちょんけちょんにした相手、それが数百も揃っている時点で、王国軍に勝ち目なんて微塵もなかったのだから。
序盤から戦の雲行きがなにやら怪しいと遅まきながら気づいた大将は、情勢が不利と見るやすぐに撤退の合図を出した。おかげでなんとか総崩れを免れた軍勢。
そして逃げ出した勇者らを問い詰めて発覚する、あの敵の正体と脅威具合。
何も聞かされていなかった大将はここにきて頭を抱えた。
「オレにいったいどうしろというんだ……」
主だった連中が額を突き合わせたところで良案が浮かぶわけもなく、本営にて首脳陣が苦悩する間、軍勢は足止めを余儀なくされた。
こうして戦はしばしの膠着状態へと陥る。
そんな状態が三日も続いた。
「魔族なんぞよりよっぽど強いじゃないか……、もう何もかも放りだしてウチに帰りたい」
戦場をぼんやりと眺めながら、黄昏れていた王国軍の大将。
不意に空の上から「ケーン」という鳥の鳴き声が聞こえてきて、ビクリとなる。
そんな彼の目の前にポスンと何かが降ってきた。
恐る恐る、それを拾ってみると一本のチクワ、その穴の部分に書状が丸めて詰められてあった。中身を抜き出しチクワをかじりながら、その内容に目を通していた大将は喜色満面にて即座に撤退、帰還する旨を全軍に告げた。
『すぐに引き返せ。そして二度と私に関わるな、これ以上ちょっかいをかけてきたら王都にサイカの群れをけしかけるぞ。森に住む善良な乙女より』
書状にはこう書かれてあった。
ありとあらゆるものを食い尽くすという災厄の使徒サイカ。
その群れの恐ろしさは神話となり語り継がれるほど。
三歳児ですらも知っているこの世界の常識中の常識。
そんなものが差し向けられるとあらば、もう、すぐにでも仰せに従って引き下がるしかあるまい。そう、これは逃げ帰るのではない、英断だ。
あ・く・ま、で国を想っての行動。厚い愛国心ゆえの泣く泣くの撤退なのだ。
そんな言い訳を敵から施された大将は、敵陣へと一礼した後に、さっさと帰還の途へとついた。こうして王国と森の偽聖女? らしき存在との闘いは表向きは引き分けに終わったのである。
2
お気に入りに追加
2,848
あなたにおすすめの小説
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
ピンクの髪のオバサン異世界に行く
拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。
このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。
わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。
月芝
ファンタジー
「てめぇらに、最低のファンタジーをお見舞いしてやるから、覚悟しな」
異世界ノットガルドを魔王の脅威から救うためにと送り込まれた若者たち。
その数八十名。
のはずが、フタを開けてみれば三千人ってどういうこと?
女神からの恩恵であるギフトと、世界の壁を越えた際に発現するスキル。
二つの異能を武器に全員が勇者として戦うことに。
しかし実際に行ってみたら、なにやら雲行きが……。
混迷する異世界の地に、諸事情につき一番最後に降り立った天野凛音。
残り物のギフトとしょぼいスキルが合わさる時、最凶ヒロインが爆誕する!
うっかりヤバい女を迎え入れてしまったノットガルドに、明日はあるのか。
「とりあえず殺る。そして漁る。だってモノに罪はないもの」
それが天野凛音のポリシー。
ないない尽くしの渇いた大地。
わりとヘビーな戦いの荒野をザクザク突き進む。
ハチャメチャ、むちゃくちゃ、ヒロイックファンタジー。
ここに開幕。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。
水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました!
死んだら私も異世界転生できるかな。
転生してもやっぱり腐女子でいたい。
それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい……
天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生!
最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。
父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!?
※BL要素ありますが、全年齢対象です。
神造小娘ヨーコがゆく!
月芝
ファンタジー
ぽっくり逝った親不孝娘に、神さまは告げた。
地獄に落ちて鬼の金棒でグリグリされるのと
実験に協力してハッピーライフを送るのと
どっちにする?
そんなの、もちろん協力するに決まってる。
さっそく書面にてきっちり契約を交わしたよ。
思った以上の好条件にてホクホクしていたら、いきなり始まる怪しい手術!
さぁ、楽しい時間の始まりだ。
ぎらりと光るメス、唸るドリル、ガンガン金槌。
乙女の絶叫が手術室に木霊する。
ヒロインの魂の叫びから始まる異世界ファンタジー。
迫る巨大モンスター、蠢く怪人、暗躍する組織。
人間を辞めて神造小娘となったヒロインが、大暴れする痛快活劇、ここに開幕。
幼女無敵! 居候万歳! 変身もするよ。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる