異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝

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35 大チクワ祭。

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 森の仲間らとチクワをかじりつつ、彼が落ち着くのを待つ。
 だが五本目を平らげても一向に落ち着かなかったので、頭を叩いて強制的に落ち着かせた。

「で、わざわざこんなところまでゾロゾロと出向いてきた理由は?」
「それは……王様の命令で、聖女を見つけて確保しろって言われたから」
「ふーん、それで肝心の聖女さまってのはどこにいるの? 少なくとも私は知らない」
「いや、僕も詳しいことは知らないんだ。なんかソレっぽい人が森にいるらしいって噂で動いたんだけど。冒険者ギルドに問い合わせても知らないの一点ばりだったらしくって」

 ようやく大人しくなった彼に私が問いかけたら、こんな回答が寄せられた。
 どうやらギルドマスターが頑なに国側の関与を拒んだことによって、かえって彼らの疑惑を深めてしまったようだ。ギルドマスターとしては私を守っているつもりなのだろうが、完全に逆効果となっている。
「そんなモノはいない!」と彼がムキになって突っぱねるほどに、相手は「あれ? なんか怪しい」と思い込んでしまったようだな。
 ギルドマスターにはお手紙にて今度から「あー、あれ? なんかの間違いですよ。勝手にみなが騒いでいるだけで聖女でもなんでもないっす」とか答えるように指示しておかなければ。
 それでこいつらは数を頼みに森へと押し入ったものの、調子にのって夜の廃村に足を踏み入れたのが運のつき。夜になると森の子たちはわりと神経質になるので凶暴さも増すのだ。
 一人、また一人と姿を消していく兵たち。
 気が付いたら全員が暗がりに連れ込まれて、モンスターらに取り囲まれてボコボコ袋叩き、そして現状へと至ると。
 前回、前々回とまったく同じパターンだな。
 どいつもこいつも……、どうして夜更けに女性宅へと押しかけている時点で、思考が悪党寄りだと気がつかない? 問答無用で殺されても文句が言えない状況だろうに。

「とりあえずここに聖女なんて高尚なもんはいないから。みんなを森の外まで運んでおくんで、あとは適当に帰ってよね」

 私は森の仲間たちにお願いして手伝ってもらい、のびてる連中を森の外へと捨てに行ってもらう。なお私と受け答えをしていた彼は、シルバーに襟首をくわえられた時点で再び気を失ったので、そのまま一緒に捨ててきた。



 そんなことがあった晩、頑張ってくれたみんなを慰労するために大チクワ祭を催した。
 廃村近くの原っぱにてチクワを山のように出して、夜通しひたすら食す天下の奇祭。
 参加は自由だ。どうせ規制したところで匂いに釣られて、ウジャウジャ勝手にやって来るからな。
 
 盛大に篝火を焚いて、みなでチクワをかじる。
 生でも美味いが焼いても美味い。
 月光の下、いろんな連中がこぞってチクワを頬張りながら、踊り狂って大はしゃぎ。
 雰囲気だけですっかり酔っ払った私は、それはもう盛大に調子に乗ったね。
 三階建てぐらいの巨大チクワの天辺に立ち、下界に蠢く畜生どもへと向かって景気よく撒いてやったさ。
 
 「そっちにドーン。こっちにもドドーン。あちらにもドドンがドーン」
 
 さながら花咲か爺さんの如く撒きに撒いた。
 もう途中から撒くのが面倒になってチクワの雨を降らせたら、会場は興奮した来場客らによって、さながら熱気を帯びた野外ライブの様相を呈する。
「お前ら元気に喰ってるかー!」と叫べば、畜生どもが「ワオー」とワイルドに答える。
 ああ、ステージに立つアイドルとかの気持ちがいまならばわかる。
 なんだか気持ちいいな。背中をゾクゾクする快感が突き抜ける。
 これはたしかに癖になるかもしれない。
 こんな感じで夜通し続いたお祭り、いつの間にか疲れて眠ってしまっていた私が起きたのはすっかり日が昇った頃、すでに貰うモノを貰ったら用はないとばかりに参加者らの姿は消えていたのだが、代わりにヘンなのが会場となった原っぱをうろちょろしていた。
 
 骨骨ロックなスケルトンっているだろう? 歩く骨格標本みたいな奴。あれの骨の部分を竹筒にして、その周囲が焼チクワで肉付けされたようなのが、ゾロゾロと会場の後片づけをしていた。

「なんだアレ?」

 私が寝起きの間抜け面を晒していたら「ハナコが出したチクワ戦士じゃ」とシルバーが教えてくれた。
「あんなの出した覚えないんだけど」と反論したら「調子に乗った挙句にレベルが上がって9になったらアレが出現した。ちなみに見た目はあんなのだが、かなり強いぞ」なんて言い返された。
 とりあえず近くにいた一体に声をかけてみると、颯爽と駆け足にてすぐにやって来た。
 どうやら造物主たる私には絶対服従のよう。
 それにしても見れば見るほどにチクワなボディ、神獣と呼ばれるフェンリルが強いっていうぐらいだから、相当なものなのだろうが……。
 さて、ここまでの私の能力の発展具合だが、途中からおかしな方向へと向かっていたことは重々承知している。そしてそこに妙なこだわりがあることも。
 そこで私はチクワ戦士に問うてみた。

「もしかして君の体は食べられちゃったりするのかい?」

 質問を受けてコクンと頷くチクワ戦士。
 彼はおもむろに自分の腕の一部をぶちりと千切って、こちらに差し出してくる。
 受け取り口に放り込んでモグモグごっくん。
 うん、レベル2の高級チクワの味だね。
 
 そうか強くて食べられる戦士か……、子供に絶大な人気を誇る某ヒーローは顔だけしか食べれなかったというのに、こっちは全身が食用可能。戦闘力は比べようがないが、あちらは空が飛べる。でもこっちは食べれる量が段違いに多く、しかも体がちょっとかけたからってチカラが抜けたりもしない。
 むむむむ、この勝負、ドロー! と、言いたいところだが人気で圧倒的に負けている。
 ありとあらゆるグッズ展開が可能なあちら、その爆発的な経済効果まで加味したら、比べるのもおこがましかったな。

 こうして私は商業化が極めて困難なチクワ戦士なる味方を手に入れた。


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