異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝

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34 調査兵団来たる!

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 近頃、やたらと恭順の意を示す冒険者ギルドから伝令が来た。
 内容は「王都より聖女捜索のために調査兵団が派遣される」というものであった。
 なんて迷惑な! と憤りつつ、伝令役の方にはチクワと倉庫から適当な素材を見繕って持たせて帰らせた。
 わざわざ報せに来てくれたのには感謝するが、来るたびに「森の聖女さま」呼ばわりはヤメてほしい。でもいくら言って聞く耳を持ってくれない。彼らの頭の両脇についてあるアレは飾りなのであろうか。
 
 冒険者ギルド支部のある街にはあれ以来訪れてはいない。
 街ぐるみにて、きっととんでもないことになっている予感がする。下手に顔を見せたが最後、御神輿として担がれて街中を一晩中ねり歩くとかやられそうで怖い。だから意地でもあそこには近寄らないことにしている。

「それにしても今度は王都か……、なんだかどんどんと大ごとになっていく」
「じゃの。やはり聖女の噂が一人歩きしておるんじゃろうが、他にも森の活性化やら市場に出回っている品なんぞも関係しておるんじゃろう」とシルバー。

 ちなみに市場に出回っている品ってのは、さっきの伝令の人に持たせた素材とかのこと。冒険者ギルドには廃村への人払いの報酬として、それなりの品をそれなりの量だけ渡してある。私は詳しく知らないが、その中には伝説級のモノなんぞも紛れていたらしくって、当然のごとく市場を多いに賑わした。
 そして人は他人の景気のいい姿には敏感に反応するので、「なんであそこだけあんなに景気がいいんだ?」と注目を集めているようだ。
 村々への施しにしたって、喰い散らかされた子供の死体なんぞ森で見かけたくないという、手前勝手な理由と我が家の倉庫整理の一環でやっただけなのに……。
 物や金をバラ撒くだけで聖女だなんてこと、私は断じて認めんぞ!
 ああいのは、もっとこう他人のために親身になって、コツコツ頑張って労力を惜しまない人が称されるもんだろうが。少なくとも右から左へポンっと、モノを投げるような奴が名乗っていいもんじゃないと思う。

「で、どうするつもりじゃ、王都に行くのか?」
「行くわけないでしょ! 聖女、誰それ? ってとぼけるに決まってるじゃない。実際のところ、これっぽっちもその気がないんだし、今さらノコノコ顔を出しておいて保護するとか言われても信じられないわよ。だから最後まで知らぬ存ぜぬを貫く」
「まあ、ハナコがそれでいいんならワシらに異存はない」

 シルバーがそう言うと、側にいたレッドが「ケーン」と鳴き、シロが「ちー」と賛同の意を示してくれた。
 嬉しくなった私は「愛い奴らよのお」と三匹を存分にいじり倒した。

 こんなやり取りがあったことすらも、かなり忘却の彼方へと追いやったぐらいに日数が経たある朝のこと。
 いつもの日課であるチクワのバラ撒きのために向かった村の広場にて、無様に寝転がっている人間たちを見つけた。
 
 ……多いな、五十人ぐらいいるぞ。
 
 のびている連中の格好が統一されており、わりと立派なので、たぶん正式な兵士とかなのだろう。それらに混じって違う格好をしたのもチラホラ。
 なんだか勇者パーティーのコスプレ集団みたいな男の子たち。
 どうしてそれが分ったのかというと、装備が微妙に馴染んでいないからだ。
 社会人一年目の人と、三十年目の人とでは同じスーツ姿でもまったく別物に見えるだろう? アレと同じだよ。スーツに体が馴染んでいないのと同じことが彼らにも起こっている。着ているだけで着こなせていないのだ。こればっかりは時間と手間と経験をかけるしかないので一挙手一投足とはいかない。
 すると彼らが私と同時期にこちらに送られたとかいう人たちか……、なんとなく見覚えがあるので、もしかしたら同じ学校の生徒たちなのかもしれない。そして案の定、送られた先でこき使われていると。やっぱりロクでもないね。
 周囲で「ホメて、ホメて」と尻尾を振る畜生どもに褒美のチクワを与えつつ、とりあえず手近な魔法使いみたいな格好をした男子を蹴飛ばす。
 すると目を覚ました彼はもの凄く怯えて、「ごめんなさい、ごめんなさい、だからどうか殺さないで下さい」と連呼してまるで話にならなかった。


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