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30 恐怖のプロパガンダ。
しおりを挟む私は請われるままに、廃村暮らしについてギルドマスターに話した。
ゴルガノドンを葬ったことに驚かれ、森の仲間たちと仲良くやっていることに驚かれ、ついでに近隣へとバラ撒いた物資について驚かれ、計二十五人の賊を退治したことにも驚かれ、たまにハーピィ母子が遊びに来ることに驚かれ、フェンリルやらファイアーバードやらサイカと行動を共にしていることに驚かれ、しかもそれらが従魔契約ではなくて、ただのお友達として過ごしていると教えたら、また土下座された。
ただし、今度のは謝罪の意味ではなくて敬服の意味にて。
ギルドマスターによると神獣や災厄の使徒らを友と呼び、契約にて縛ることを良しとしない、その御心こそが大層慈悲深くて尊くて、貴女こそまさしく聖女であらせられるとのこと。迷惑な拡大解釈をしたようである。
駄目だ……、めちゃくちゃ迷惑だわ、この人。なんだか人を介するほどに、話がどんどんと拗れているような気がする。
そこでこちらとしては、廃村暮らしをどうかそっとしておいてもらいたい旨を伝える。その代わりといってはなんだがギルドに正式な依頼という形にして、こちらに人を差し向けないように手配してもらうことにした。そのための費用は村にストックされてある、あんな品やこんな品をあてる。ドラゴンの牙みたいな品がごろごろ報酬として提供されると聞いて、ギルドマスターの平伏がより一層深くなった。
なんだかもはや完全服従の域に達しているような気がする。
偉丈夫に傅かれているこの状況、まるで自分が悪の女幹部にでもなったかのような錯覚を覚える。
話し合いにてギルド側から網規の引き締めを図ってもらい、たまに見学にくる程度ならばいいが、迂闊に立ち入らないように注意してどうにか会合を終えた。
会議室より恭しく送り出されて受付のフロアまで戻ってきたところで、見知らぬハゲ頭に絡まれた。
どうやら酔っ払っているみたいだ。
まさかここにきて冒険者ギルドでのお約束イベント勃発かと思ったのだが、ハゲ頭は即座にぶん殴られて吹っ飛ばされていた。
犯人はギルドマスターだ。憤怒の形相にて鬼がそこにいたよ。そしてやってくれやがった。
「こちらをどなたと心得る! 恐れ多くも神域の森の聖女さまなるぞ! 死んでお詫びしろ、この痴れ者めがっ!」
本日一番の大音声がここで飛び出しましたよっと。
そして一身に集まる注目の視線。
更に間の悪いことにこの騒ぎを聞きつけて、のっそりとフェンリルが姿を現したからドツボに嵌まって、さあ大変。
「恵みの聖女だ」「森の聖女だ」「慈愛の聖女だ」と、そこかしこで聖女コールが静かに、だが着実に起こり始めた。
悪辣なプロパガンダはこうして個人の意思を無視して、無自覚の数の暴力を世に解き放つのか。
興奮が伝播してなにやらヤバイ雰囲気になったので、私は即座にフェンリルの背に飛び乗り、そのままギルドを脱出。
ぴょんと街を囲む壁をも飛び越えてもらい、そのまま廃村へと逃げ帰った。
「なんかエライ目に合ったな。やっぱり人里になんぞ出るもんじゃないね。もう私は一生あの廃村から出ない」
「カカカ、よほど愉快な目にあったとみえる。にしても『聖女さまなるぞ』はよかったな」
「ヤメてよね。なんでどいつもこいつもコッチに絡んでくるのかな。私はただ静かに暮らしたいだけなのに」
帰りの道中、ぶーぶーと文句を垂れる私を揶揄いつつも宥める銀狼。
おかげでだいぶストレスを発散できたのだが、この後に冒険者ギルドにてマスター権限が発動され、『辺境の廃村デイビィスにいかなる者も許可なく勝手な立ち入りを禁ずる』という令が発布されたことを知ったのは、随分と後になってからのこと。
そしてこれが新たな火種となり、更なる騒動を招き寄せることになったということも。
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