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27 伝説の獣と呼ばれしモノ。

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 伝説の神獣フェンリル。
 神世より生きる古の獣にして、人語を理解し話すだけでなく、金の双眸には万物の知が宿ると言われ、風を自在に操り、四肢を駆って大地を疾走する銀の狼。
 強者蠢く神域の森内においても間違いなく最強の部類に属する生物……。
 
 それがいま我が家のリビングの暖炉の前で、チクワクッションに顎を預けて、でろんとうたた寝をしている。
 シルバーとの出会いなくして私の異世界物語が始まることはなかっただろうし、いまもこうして快適に廃村で暮らしていられるのも彼によるところが大きい。
 万物を知ると称えられる知識の量は膨大で、歩く百科事典のような彼のおかげで森は私の食糧庫状態にある。とても長生きしているお爺ちゃんらしくて大陸の歴史にも精通しているし、モンスターや獣、神域の事柄のみに留まらず、魔族や人間たちの生態についても詳しい。
 人里のことなんてどうやって知っているのか不思議に思って訊ねてみたら「風が教えてくれる」とシルバーは言った。
 彼によると風の精霊たちは、とっても好奇心が旺盛であちこちフラフラしては絶えず情報収集に余念がないんだとか。そうして集積された数多の情報が放っておいても彼の耳に届くと。でもわりとどうでもいい話も多いので、取拾選択が大変とも言って苦笑いしていた。

 シルバーが走っている姿は格好いい。
 見ているだけで爽快な気分になれる。
 軽やかに四肢を動かしては、まるで飛んでいるかのように駆けていく。
 その姿に一陣の風という言葉が思い浮かぶ。
 本気を出すと彼を中心にして風が巻き起こり嵐となり、さながら台風の様相を呈するという。そうなると暴風は神域の御戸ちかくにあった、ジャックと豆の木っぽい巨大な木すらも根こそぎ引き抜き、バッキバキにへし折り、粉々にしてしまうほどの威力だそう。
 例えが微妙でよくわかんないけれども、たぶん台風時に中継にでていたテレビ局の女子アナが大変なことになるのは間違いないのであろう。
 
 シルバーは力も強い。
 自分の何倍もある森の仲間らを軽くあしらっては、しばき倒す。
 ひらりと相手の攻撃をかわし、すかさずカウンターで打ち込む前足の鋭さ。爪を立てずの肉球パンチながらも、喰らった奴はクルクルときりもみをして吹き飛んで、やがて地面にべちゃっと落ちて動かなくなる。
 ちなみに爪を出した状態だと惨殺死体が一丁上がり。
 こうなると内臓もなんもかもがグチャグチャになっちゃうので、胃腸の強度も神域の森においては最弱レベルの私では、もう食べられなくなる。
 
 シルバーの毛並みはとても綺麗だ。
 細い銀糸のような毛がいつもサラサラ。
 風を受けてたなびく姿なんて、どこのシャンプーのコマーシャルだよ! と思わずツッコミたくなるほどにイケている。とくに手入れをしているわけでもないのに毛先が荒れることもなく、艶が損なわれることもない。くせ毛もなくて指通りが尋常ではないほどに毛質も滑らか。しかも雨粒やらちょっとした泥汚れぐらいならば弾く撥水加工つき。
 あんまりにも毛質がいいので、私は抜け毛で何か造ろうかと画策していたのだが、それは適わなかった。だって一本たりとも抜けないんだもの。どうやらフェンリルには抜け毛や季節ごとの毛の生えかわりといった性質はないようだ。おかげで掃除は楽なのだが、ちょっと残念。
 そのかわりだとばかりに牙と爪が、かなりの頻度でポロポロと生えかわる。
 どちらも希少な素材らしくて出すところに出すと、トンデモない金額がつくというが、すでに我が家の倉庫には箱一杯にゴロゴロしているので、あまりありがたみを感じない。
 シルバーによると爪を煎じて飲むと何やら滋養強壮にいいらしいのだが、さすがに友人の爪の垢をリアルで煎じて飲みたいとは思わないので、試したことはない。
 でもちょっと興味があるので、そのうち村人にでも飲まして様子をみてみようと思う。


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