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23 取拾選択の自由。

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 レッドと仲良く村の広場の上空を飛び回っているハーピィの子供のリリイちゃん。
 あいかわらずの幼児体型のすっぽんぽん。空飛ぶ裸族ぶりは健在だ。
 チクワの匂いに釣られてここに来てから、ちょくちょく空中要塞なお母さんと一緒になって来訪するようになった。そのたびに結構なお土産を頂戴するので、お返しにレベル6にて大きめなチクワのビルを建てると、モリモリと食べる食べるお母さん。
 体が大きいので十階建てぐらいならば一人でペロリだ。
 縮尺的には私が普通サイズのチクワをかじっているのと同じ風にしか見えない。
 普段なにを食べているのか気になって訊ねてみたら「大気の気」という謎の答えが返ってきた。どうやら大人のハーピィは霞みだけでも生きていける、とってもエコな生き物のようだ。そんな大空の覇者なお母さんが、いくつかの世情を伝えてくれた。
 
 なんでも神域の森の向こうにある魔族の砦が、森から姿を現す巨大生物相手にワタワタしているらしい。かつて私が直通道路を一歩手前まで開通させた場所に位置するらしいのだが……、まあ頑張れと心の中でだけ応援しておく。
 あとこの頃、地表のそこかしこが荒れ気味との情報をよこしてくれた。
 やはり飢饉がジワジワと広がっているようだ。
 どうかこっちにまで悪い影響が及びませんように。
 
 村の外れの原っぱでお母さんがチクワをかじっている間、こっちでリリイちゃんを預かるのが、この頃の一連の流れとなっている。
 元気よく飛び回るリリイちゃん。
 ちょっと成長したのか下半身の大事な部分に、ちょろっと毛が生えてきた。おかげですっぽんぽんからちょっとだけ離脱、でもますます背徳感が増したような気がするのは、私の魂が穢れているせいであろうか。

「おーい、そろそろオヤツにするよー」

 私が空に向かって声をかけると、シュタっとレッドとリリイちゃんが降りてきた。
 基本的に両方とも猛禽系だから動きが鋭すぎて、油断しているとこっちが驚かされてしまうんだよなあ。
 シルバーやシロも一緒になって私の新作チクワ料理をモグモグと頬張る。
 パンもどきに揚げたチクワを挟んで果物のソースをつけたモノだが、わりかし好評だった。本当はコッペパンみたいなふわふわのパンで仕上げたかったのだが、私にそんな技量はない。せいぜいがペタっとしたナンみたいな奴しか作れなかった。
 あまり人とは関わりたくないが今度、村の様子を見に行ったときにでも誰か捕まえてパンの作り方ぐらいは習っておいてもいいのかもしれない。
 
 半日ほど滞在してリリイちゃん母娘は笑顔で帰っていった。
 その背中を見送ってからは、お土産にいただいた品の整理を始める私たち。
 リリイちゃんのお母さんがゴロゴロと珍しい品を持ってきてくれる心遣いは嬉しいのだが、はっきり言って使い道がない。なんか出すところに出せば、もの凄い金額で取引される骨とか石とか素材らしいのだが……。
 体のサイズがサイズなので、「いつも娘がお世話になっております。つまらないものですが」と差し出された箱までデカくて中身の量が多い。
 とりあえず廃屋の中を改造して倉庫にしたのだが、すでに三つ目が埋まりそうな勢いである。

「シルバー、これはなに?」
「えーと、そいつはドラゴンの牙じゃの。武器職人垂涎の素材じゃぞ」
「ふーん、じゃあコレは?」
「そいつは星岩じゃな。希少な鉱物を含んでおり、これまた鍛冶職人垂涎のもんじゃな」
「へー」と言いつつ、とりあえず岩っぽい品が詰まっている箱の中に放り投げる私。
 いや、これらがものすごく貴重な品だということは、いくら俗世に疎い私でも朧気ながらも理解しているさ。でもさっきも言ったけど使い道がないんだよ。
 パンすら満足に焼けない小娘に伝説級の素材を渡されてもどうしようもない。
 かといってお客様のご厚意を無碍にするわけにもいかない。というか怖くて「もういらない」なんて口が裂けても言えやしないよ。機嫌をそこねてボディプレス一発でこちとらペチャンコだ。リリイちゃんのお母さん大き過ぎ……。
 そんなわけでせっせと整理整頓をしていたらピコンと私は思いついた。
 
「そうだ! これを村人らに押し付けて、代わりに色々と教わろう、そうしよう」と。



 前回、村を訪問してからちょうど一ヶ月後に、再びこそっと様子を見に行ったら雰囲気がずいぶんと変わっていた。尾羽打ち枯らしたような有様だったのに、いまでは一端の住み良さそうな村といった具合に復活している。
 私は村ハズレに身を隠しつつ、シロに手紙を託し、じっと待つ。
 村に行かないのかって? 行かねえよ。接触は極力控えるという方針は変わらない。
 私が欲しいのはパン作りの情報だけで、人間関係じゃない。だからこの前に助けたガキどもに渡りをつけるように算段した。手紙には子供だけで情報を持って来いと書いておいた。
 しばらくするとシロが戻って来て「ちー」と鳴き、首尾よく連絡が取れたことを報告してくれた。
 そして待つこと更にしばし、五人の男の子たちが元気よくこちらに駆けてきた。
 以前に見かけたときより随分と顔の血色もよくなり、肉もぷっくりついている。
 ただし「聖女さまー!」という呼ぶことには首を傾げざるおえない。
 周囲に誰かいるのかとキョロキョロするもあいにくと私一人だ。もしかして自分のことかと訊ねたら「そうです」と笑顔で答えられた。だからとりあえず軽く頭をポカリと小突いて「二度と私を聖女と呼ぶな」ときつく申し渡しておく。
 
 みなでチクワをかじりつつ、子供らが母親たちから聞き出したパンの製造方法の情報にフンフンと耳を傾け、ついでに村の様子も訊ねてみたら、おおむね良好とのこと。
 よかったよかった、といきたいところだが、ここがあんな調子だったということは、近隣はどこも似たり寄ったりという状況になるわけで、放っておくとまたぞろ自棄になった村人らが神域の森に挑戦し無残な最期を遂げると……。
 日課のチクワ撒きのときに、森の仲間たちの口元に人体的な何かがこびり付いていたら、爽やかな朝の気分が台無しじゃないか。
 そこで先と同じように救援物資を夜のうちに運び込むので、後はみんなで仲良く分けるようにと伝えて私たちは廃村へと戻った。
 で、その日の夜更けに、じゃんじゃんと荷を持ち込んだおかげでウチの倉庫には随分と余裕ができた。これであと三回ぐらいはなんとかしのげるだろう。


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