上 下
23 / 54

22 紅い玉の伝説。

しおりを挟む
 
 村に諸々を届けた帰り道、私は前から少しばかり気になっていたことをシルバーに訊ねてみる。

「ねえ、そもそもなんで魔族と人間は争ってんの?」

 銀狼は即座に「馬鹿じゃから」という身も蓋もない解答を寄せる。
 そこで「どの辺が馬鹿で、どのくらいに馬鹿なのか、詳しく」とせがむと面倒臭そうにシルバーが話してくれたところによれば、どうやら魔族と人間ってのは元は同じ種族だったんだって。それがとある事情により、違う進化の道を歩いて現在に至ると。

「で、その事情ちゅうのが長くなるんじゃが……」

 ……かつて世界は一つだった。
 そこにある日、なんの前触れもなく空を切り裂いて異界より紅い災いが落ちてくる。
 世界は混乱した。
 みな何とかしようとするもまるで歯が立たない。
 このままでは世界が終わる。
 それを哀れに思ったのか、神々が手を差し伸べてくれた。
 災いと同じく空を切り裂いて現れた異界の勇者たちが紅い災いに立ち向かい、多くの犠牲を払いながらもなんとかこれを封じることに成功する。
 
 災いは紅い玉となり封印の地の底深くにて厳重に管理されることとなった。
 そして生き残った者たちは二手に分かれることとなる。
 一方は封印の地を守り監視するために。
 一方は荒廃した世界を再び繁茂させるために。
 そして気の遠くなるほどの長い歳月が流れた。
 封印の地を守る者たちは、地の底に眠る紅玉の影響を少しずつ受けて、その容姿を次第に変えていき、ついには元の姿とはかけ離れた存在となる
 世界の再生を誓った者たちもまた、環境の影響を受けてか、少しずつ変化し現在へと至る。
 こうして世界には魔族と人間という二種類の種族が産まれた。
 この頃になると、すでに古の伝承は途絶えて久しく、魔族らはただ盲目的に紅玉を至宝として守るばかりで、そこに込められた真意も忘れてしまった。また人間たちもかつての同胞らの変異した姿に本能的に同族嫌悪を抱き、次第に忌避感を募らせていくこととなる。
 かくして道を違えた両者が本格的に衝突するまでに、それほどの時間はかからなかった。

「な? 馬鹿じゃろう」とシルバー。
「うん。馬鹿だな」と私も頷いた。

 そもそもそんなに相手が気に入らないのならば、互いに近寄らなければいいのに、戦費と命を垂れ流すぐらいならば、総力を結集して国境に壁でも建設しろよ。
 どうしてわざわざ額を突き合わせて、同じ土俵に上がるのか理解に苦しむ。
 辺境すら満足に開拓できないくせに他に注力している場合じゃないよね、両方とも。挙句に民を飢えさせているなんて呆れてモノも言えない。
 そしてこの国の上の連中が阿呆だということが、残念ながら発覚してしまった。
 これはますます関わらないように注意しないといけないな。

「それで両者の負の感情が積もり積もって紅い災いさんが大復活! とかになったら笑えるね」

 そんな冗談を私が口にすると、「ありうるのお」とわりかし真面目なトーンの銀狼のお返事。
 まあ、そうなったらなったで現行の勇者諸君に頑張ってもらうしかないのだが、もしもの時は神域の御戸にでも逃げ込んで嵐が去るのを、ひっそりと待つとしよう。



 翌朝、辺境の村は朝も早くから大騒ぎであった。
 村の共同井戸の周りに、沢山の宝物やら食べ物が山積みされていたからである。
 先日、森に勝手に立ち入った子供たちが森でデカい銀色の狼を連れた若い女に会って、なんとかしてくれるらしいとか言っていたが、大人たちはまるで信じていなかった。だが実際に、その言葉通りのことが起こり、これを信じざるおえなくなる。
 箱詰めされた食糧はこれまで見たこともないような品であったが、食べてみるとすこぶる美味しい。煮てよし焼いてよし生でよし、しかも日持ちするのかまるで腐らない。
 肥料だというモノを畑に撒けば、ほんの数日にて作物が息を吹き返し、これまでの不作がまるで嘘であったかのような隆盛を見せる。
 金貨や宝石のおかげで借金のカタに取られそうになっていた村の娘たちも救われた。
 村人たちは森の女に深く感謝した。そして彼女がもたらした福々たる食べ物から「聖女チクワ」と呼び、崇め敬うようになっていく。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝
ファンタジー
「てめぇらに、最低のファンタジーをお見舞いしてやるから、覚悟しな」 異世界ノットガルドを魔王の脅威から救うためにと送り込まれた若者たち。 その数八十名。 のはずが、フタを開けてみれば三千人ってどういうこと? 女神からの恩恵であるギフトと、世界の壁を越えた際に発現するスキル。 二つの異能を武器に全員が勇者として戦うことに。 しかし実際に行ってみたら、なにやら雲行きが……。 混迷する異世界の地に、諸事情につき一番最後に降り立った天野凛音。 残り物のギフトとしょぼいスキルが合わさる時、最凶ヒロインが爆誕する! うっかりヤバい女を迎え入れてしまったノットガルドに、明日はあるのか。 「とりあえず殺る。そして漁る。だってモノに罪はないもの」 それが天野凛音のポリシー。 ないない尽くしの渇いた大地。 わりとヘビーな戦いの荒野をザクザク突き進む。 ハチャメチャ、むちゃくちゃ、ヒロイックファンタジー。 ここに開幕。

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

処理中です...