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21 価値はそれぞれ。

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 シルバーたちと森を恵みを求めて徘徊していたら、上空を旋回していたレッドが「ケーン」と鳴く。これは警戒音だ。どうやら先方にてトラブルが発生している模様。
 とりあえずこそっと近づいてみれば、森の仲間たちに囲まれて真っ青な顔をしている若人たちの姿があった。
 その五人組は全員が中学生くらいの男の子、みな手に剣やら槍やらを持ってこそはいるが、明らかに素人っぽいへっぴり腰。

「あのままじゃと喰われるのぉ」とシルバー。

 なにせここは外縁部とはいえ、神域の森の一部には違いない。
 可愛い系のモコモコ動物ですらも雑食が基本だ。好き嫌いを言っていたら生きていけない。だから彼らはたとえ骨と皮ばっかりの痩せっぽちのマズそうなガキども相手にも容赦しない。食える時に喰らうがここの掟。その辺に生えている雑草すらも、その生き方に準拠しているぐらいだ。

「とはいえ見捨てるってのも気分が悪いし、とりあえず助けるか……、シルバーは体のサイズを縮めておいて。そのままだとたぶんビビッてちびるから」

 私がそう言うと、しゅるしゅると体のサイズを変えて大型犬ぐらいになった銀狼。
 こうなると野良のハスキー犬みたいになるので、多少は一般向けの見た目になっているはず。
 茂みからのそりと姿を現した私は、森の仲間たちに「しっしっ」と手を振り子供たちから引き離す。
 すでに餌付けが完了しているので、この辺りにいる連中とは今ではすっかり顔馴染。
「なんだチクワ娘かよ。お前の連れか? しゃーねーな。だったら勘弁してやるよ」とでも言いそうな顔を見せる連中にチクワを与えて、機嫌よく帰ってもらった。
 囲みが解け森の仲間たちの姿が消えて安心したのか、その場にへたり込む男の子たち。
 すると盛大にぎゅるぎゅると彼らの腹の虫がなった。
 明らかに痩せている外見からして、どうやらろくに食事を摂っていないようだ。詳しい事情は後にしてとりあえずチクワを与えて、落ち着かせることにする。
 
 よほど飢えていたのか、山のように出したチクワを猛然とかき込む男の子たち。
 すっかり腹がくちて五人が落ち着いたところで、どうしてこんな場所に子供だけで来ているのかと訊ねたら、「お前も子供じゃん」とリーダー格の子が生意気を言ったので、シルバーの体のサイズを元に戻して黙らせた。
 で、キチンと上下関係が明確になったところで改めて質問してみる。
 ぽつぽつと語りだす男の子たち。
 だがその話はあまり愉快なものではなかった。

「ふむふむ。つまり魔族との戦争で浪費した国庫を補うために税金がっぽり、男手も徴用されて、ただでさえ大変なところに不作続きで満足に食事も摂れない有様。だというのに阿呆の領主からは『もっとよこせ』と無茶を言われて、にっちもさっちもいかない。だから少しでも足しになればと無謀にも森に挑戦したと」

 気持ちはわからなくもないが、やはり無茶が過ぎるだろう。
 べつこの辺をウロチョロされて野垂れ死にするのは構わない、それは自己責任だ。だが、うっかり散歩中にはらわたをブチ撒けた子供の死体を見つけたりしたら、私が一生もんのトラウマを背負うことになりかねない。
 それはさすがに遠慮したいので「わかった。お姉ちゃんに任せときな」と安請け合いして、村の場所だけ聞き出して、ひとまず子供たちは帰らせた。念のために上空からレッドに見守らせておいたので、森を出るまでは大丈夫だろう。

「それで、どうするつもりなんじゃ?」とシルバー。
「チクワ肥料と食用チクワ、あとそれから村にあった廃品を適当に箱詰めして届けよう。それで当座はしのげるでしょう」

 村にあった廃品とは、床下やら地下室、暖炉の奥などの隠し保管庫の中で見つけた金品類。はっきり言って私は宝石とかに興味はないし、世俗から隔離された廃村暮らしなのでお金も不要。いい機会なので整理がてら数を減らすことにした。

 廃村へと戻った私たちは木箱に適当に詰めた金銀財宝と、いくつかの空箱を持って夜更けに男の子たちの村へと向かう。日中に顔を合わせたら面倒だしね。
 しんと寝静まった村の中央部分あたりにある井戸の側に、シルバーの背で運んできた荷物を降ろし、空箱の中にチクワをドバドバと出しておく。他にもトーテムポールぐらいの特大チクワを三本ほど立てておいた。

「肥料の使い方を書いたメモも入れたし、これだけアレばしばらくはイケるだろう」

 ひと仕事やり終えて、ふーっと汗を拭っていたら、その辺を見に行っていたシルバーが戻ってきた。彼が言うには「思ったより土地が痩せて土が乾いておる。もしどこも同じようならば飢饉となるやもしれんなあ」とのこと。

「飢饉か……、だったら戦争なんてやってる場合じゃないでしょうに」

 私が呆れると「上のもんは足の下なんていちいち見て歩かんからなあ」という何となく賢しい言葉が返ってきた。


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