22 / 54
21 価値はそれぞれ。
しおりを挟むシルバーたちと森を恵みを求めて徘徊していたら、上空を旋回していたレッドが「ケーン」と鳴く。これは警戒音だ。どうやら先方にてトラブルが発生している模様。
とりあえずこそっと近づいてみれば、森の仲間たちに囲まれて真っ青な顔をしている若人たちの姿があった。
その五人組は全員が中学生くらいの男の子、みな手に剣やら槍やらを持ってこそはいるが、明らかに素人っぽいへっぴり腰。
「あのままじゃと喰われるのぉ」とシルバー。
なにせここは外縁部とはいえ、神域の森の一部には違いない。
可愛い系のモコモコ動物ですらも雑食が基本だ。好き嫌いを言っていたら生きていけない。だから彼らはたとえ骨と皮ばっかりの痩せっぽちのマズそうなガキども相手にも容赦しない。食える時に喰らうがここの掟。その辺に生えている雑草すらも、その生き方に準拠しているぐらいだ。
「とはいえ見捨てるってのも気分が悪いし、とりあえず助けるか……、シルバーは体のサイズを縮めておいて。そのままだとたぶんビビッてちびるから」
私がそう言うと、しゅるしゅると体のサイズを変えて大型犬ぐらいになった銀狼。
こうなると野良のハスキー犬みたいになるので、多少は一般向けの見た目になっているはず。
茂みからのそりと姿を現した私は、森の仲間たちに「しっしっ」と手を振り子供たちから引き離す。
すでに餌付けが完了しているので、この辺りにいる連中とは今ではすっかり顔馴染。
「なんだチクワ娘かよ。お前の連れか? しゃーねーな。だったら勘弁してやるよ」とでも言いそうな顔を見せる連中にチクワを与えて、機嫌よく帰ってもらった。
囲みが解け森の仲間たちの姿が消えて安心したのか、その場にへたり込む男の子たち。
すると盛大にぎゅるぎゅると彼らの腹の虫がなった。
明らかに痩せている外見からして、どうやらろくに食事を摂っていないようだ。詳しい事情は後にしてとりあえずチクワを与えて、落ち着かせることにする。
よほど飢えていたのか、山のように出したチクワを猛然とかき込む男の子たち。
すっかり腹がくちて五人が落ち着いたところで、どうしてこんな場所に子供だけで来ているのかと訊ねたら、「お前も子供じゃん」とリーダー格の子が生意気を言ったので、シルバーの体のサイズを元に戻して黙らせた。
で、キチンと上下関係が明確になったところで改めて質問してみる。
ぽつぽつと語りだす男の子たち。
だがその話はあまり愉快なものではなかった。
「ふむふむ。つまり魔族との戦争で浪費した国庫を補うために税金がっぽり、男手も徴用されて、ただでさえ大変なところに不作続きで満足に食事も摂れない有様。だというのに阿呆の領主からは『もっとよこせ』と無茶を言われて、にっちもさっちもいかない。だから少しでも足しになればと無謀にも森に挑戦したと」
気持ちはわからなくもないが、やはり無茶が過ぎるだろう。
べつこの辺をウロチョロされて野垂れ死にするのは構わない、それは自己責任だ。だが、うっかり散歩中にはらわたをブチ撒けた子供の死体を見つけたりしたら、私が一生もんのトラウマを背負うことになりかねない。
それはさすがに遠慮したいので「わかった。お姉ちゃんに任せときな」と安請け合いして、村の場所だけ聞き出して、ひとまず子供たちは帰らせた。念のために上空からレッドに見守らせておいたので、森を出るまでは大丈夫だろう。
「それで、どうするつもりなんじゃ?」とシルバー。
「チクワ肥料と食用チクワ、あとそれから村にあった廃品を適当に箱詰めして届けよう。それで当座はしのげるでしょう」
村にあった廃品とは、床下やら地下室、暖炉の奥などの隠し保管庫の中で見つけた金品類。はっきり言って私は宝石とかに興味はないし、世俗から隔離された廃村暮らしなのでお金も不要。いい機会なので整理がてら数を減らすことにした。
廃村へと戻った私たちは木箱に適当に詰めた金銀財宝と、いくつかの空箱を持って夜更けに男の子たちの村へと向かう。日中に顔を合わせたら面倒だしね。
しんと寝静まった村の中央部分あたりにある井戸の側に、シルバーの背で運んできた荷物を降ろし、空箱の中にチクワをドバドバと出しておく。他にもトーテムポールぐらいの特大チクワを三本ほど立てておいた。
「肥料の使い方を書いたメモも入れたし、これだけアレばしばらくはイケるだろう」
ひと仕事やり終えて、ふーっと汗を拭っていたら、その辺を見に行っていたシルバーが戻ってきた。彼が言うには「思ったより土地が痩せて土が乾いておる。もしどこも同じようならば飢饉となるやもしれんなあ」とのこと。
「飢饉か……、だったら戦争なんてやってる場合じゃないでしょうに」
私が呆れると「上のもんは足の下なんていちいち見て歩かんからなあ」という何となく賢しい言葉が返ってきた。
18
お気に入りに追加
2,853
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる