16 / 54
15 無知が未知との遭遇。
しおりを挟むうんっと背伸びをして、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
そして日課となっているチクワ撒きへと出かける。
いつものように群がる畜生どもと戯れていたら、ふとその中に変なのが混じっているのに気がついた。
大きな鳥かとばっかり思っていたら、翼の付け根に五歳児ぐらいの体がついている。
はて? と小首を傾げていたらノシノシと欠伸混じりに近寄ってきたシルバーが教えてくれた。
「ほう、あれはハーピィの子供ではないか。いつも親子で行動するのが当たり前の連中なのに子供だけとは珍しい」
ここにきてまたファンタジー要素が登場したよ。
ハーピィってのは有翼の亜人さんのこと。この世界では魔族側として扱われるそうだが、当人らは鳥頭につき、あまり世界の趨勢には興味がないようで、毎日それなりに機嫌よく過ごしているらしい。
まあ、こちとら廃村生活だし、あまり外界の事情とか興味ないのだが、とりあえずシルバーの説明に「へー」と感心していたら、私の中でふともの凄く嫌な予感がビビビと生じる。
だって子供が迷子ならば親御さんらは今頃、必死になって探していると思うんだよね。そしてそこに怪しげな食い物で、子供の注意を惹くかのごとき行動をとる胡散臭い女がいたら、きっとこう考えると思うんだ。
「あっ! こいつ悪い奴だ! おのれウチの子に何さらすんじゃい!」ってな具合に。
とはいえ、仮にも人の形態が残る体にて、森の仲間たちに混じって必死になって、地面にバラ撒かれたチクワの欠片を拾って食べている姿は、見ていてあまり気持ちのいいもんじゃない。そこで声をかけたら普通に「おはよう」って元気よく応えられた。
チーズ入りのチクワを旨そうに頬張るハーピィの子。
イーグルのような大きな翼に、両手足には鋭いかぎ爪がある。
名前をリリイちゃんというそうで、体はロリですっぽんぽんの女の子だ。
昨今ではテレビで放映出来ないレベルでの丸出し具合。かなり犯罪チックな容姿の気もするが、これが彼らにとっては普通とのこと。ある程度、体が成長してくると体表にも羽毛が生えて色々と隠してくれるんだとか。
それを聞いてちょっと安心した。だってお母さんならばともかく、お父さんのすっぽんぽんの鳥人姿なんて絶対に見たくないから。
もしも目の前にそんなのが舞い降りてきたら、私はつい反射的にサイカガンを股間に向けてぶっ放してしまうことであろう。
彼女の話によると近くをお母さんと一緒に飛んでいたら、なんかいい匂いがしたからつい勝手に、こっちへとフラフラと降りて来てしまったらしい。それで下手に動き回るとうまく合流できないので、しばらくここで待たせてほしいとのお願い。
私としても面倒な人間とかではないかぎりは歓迎なので快諾する。あともしもお母さんが勘違いしていたら、全力で止めてくれるようにお願いしておいた。
だってリリイちゃんの容姿から想像するに、昔に歯医者の待合室で読んだ、悪魔な人がみんなのために頑張る漫画に登場した、女の鳥怪人みたいなのを連想したので。強くて気高くて麗しい残酷なる大空の死神、あんなのに襲われたらとても逃げ切れる自信がない。
……そんな風に考えてた時期が私にもありました。
前言を撤回する。
逃げ切れるどころか生き残るのも無理です。
だって一緒になってしばらく待ってたら、姿を現したリリイちゃんのお母さんってば、とってもデカいんだもの。獅子の体に人間の顔を持ったスフィンクスってのがいるだろう。あれに大きな翼が生えた奴が上空に現れたときは、あんまりの迫力で思わず漏らしそうになったわ。どこの空中要塞かと思ったよ。
思わず目の前のリリイちゃんと、空の上にて悠然としているお母さんをまじまじと見比べてしまった。何を喰ってどうしたらあんな巨体になるの? 生命の神秘どころの話じゃねえよ! 異世界ファンタジーだからって何でも許されると思うなよ! という魂の叫びにはピタっと蓋をして、引きつった愛想笑いにて母娘を見送る私。
だというのに隣にずっといたシルバーは「相変わらず無駄に大きいのぉ」とのんきな発言。
えらく余裕のある態度からして、もしかしてシルバーってアレより強いの?
7
お気に入りに追加
2,848
あなたにおすすめの小説
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
神造小娘ヨーコがゆく!
月芝
ファンタジー
ぽっくり逝った親不孝娘に、神さまは告げた。
地獄に落ちて鬼の金棒でグリグリされるのと
実験に協力してハッピーライフを送るのと
どっちにする?
そんなの、もちろん協力するに決まってる。
さっそく書面にてきっちり契約を交わしたよ。
思った以上の好条件にてホクホクしていたら、いきなり始まる怪しい手術!
さぁ、楽しい時間の始まりだ。
ぎらりと光るメス、唸るドリル、ガンガン金槌。
乙女の絶叫が手術室に木霊する。
ヒロインの魂の叫びから始まる異世界ファンタジー。
迫る巨大モンスター、蠢く怪人、暗躍する組織。
人間を辞めて神造小娘となったヒロインが、大暴れする痛快活劇、ここに開幕。
幼女無敵! 居候万歳! 変身もするよ。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ピンクの髪のオバサン異世界に行く
拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。
このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる