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15 無知が未知との遭遇。

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 うんっと背伸びをして、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
 そして日課となっているチクワ撒きへと出かける。
 いつものように群がる畜生どもと戯れていたら、ふとその中に変なのが混じっているのに気がついた。
 大きな鳥かとばっかり思っていたら、翼の付け根に五歳児ぐらいの体がついている。
 はて? と小首を傾げていたらノシノシと欠伸混じりに近寄ってきたシルバーが教えてくれた。

「ほう、あれはハーピィの子供ではないか。いつも親子で行動するのが当たり前の連中なのに子供だけとは珍しい」

 ここにきてまたファンタジー要素が登場したよ。
 ハーピィってのは有翼の亜人さんのこと。この世界では魔族側として扱われるそうだが、当人らは鳥頭につき、あまり世界の趨勢には興味がないようで、毎日それなりに機嫌よく過ごしているらしい。
 まあ、こちとら廃村生活だし、あまり外界の事情とか興味ないのだが、とりあえずシルバーの説明に「へー」と感心していたら、私の中でふともの凄く嫌な予感がビビビと生じる。
 だって子供が迷子ならば親御さんらは今頃、必死になって探していると思うんだよね。そしてそこに怪しげな食い物で、子供の注意を惹くかのごとき行動をとる胡散臭い女がいたら、きっとこう考えると思うんだ。
 
「あっ! こいつ悪い奴だ! おのれウチの子に何さらすんじゃい!」ってな具合に。

 とはいえ、仮にも人の形態が残る体にて、森の仲間たちに混じって必死になって、地面にバラ撒かれたチクワの欠片を拾って食べている姿は、見ていてあまり気持ちのいいもんじゃない。そこで声をかけたら普通に「おはよう」って元気よく応えられた。

 チーズ入りのチクワを旨そうに頬張るハーピィの子。
 イーグルのような大きな翼に、両手足には鋭いかぎ爪がある。
 名前をリリイちゃんというそうで、体はロリですっぽんぽんの女の子だ。
 昨今ではテレビで放映出来ないレベルでの丸出し具合。かなり犯罪チックな容姿の気もするが、これが彼らにとっては普通とのこと。ある程度、体が成長してくると体表にも羽毛が生えて色々と隠してくれるんだとか。
 それを聞いてちょっと安心した。だってお母さんならばともかく、お父さんのすっぽんぽんの鳥人姿なんて絶対に見たくないから。
 もしも目の前にそんなのが舞い降りてきたら、私はつい反射的にサイカガンを股間に向けてぶっ放してしまうことであろう。
 
 彼女の話によると近くをお母さんと一緒に飛んでいたら、なんかいい匂いがしたからつい勝手に、こっちへとフラフラと降りて来てしまったらしい。それで下手に動き回るとうまく合流できないので、しばらくここで待たせてほしいとのお願い。
 私としても面倒な人間とかではないかぎりは歓迎なので快諾する。あともしもお母さんが勘違いしていたら、全力で止めてくれるようにお願いしておいた。
 だってリリイちゃんの容姿から想像するに、昔に歯医者の待合室で読んだ、悪魔な人がみんなのために頑張る漫画に登場した、女の鳥怪人みたいなのを連想したので。強くて気高くて麗しい残酷なる大空の死神、あんなのに襲われたらとても逃げ切れる自信がない。
 
 ……そんな風に考えてた時期が私にもありました。
 
 前言を撤回する。
 逃げ切れるどころか生き残るのも無理です。
 だって一緒になってしばらく待ってたら、姿を現したリリイちゃんのお母さんってば、とってもデカいんだもの。獅子の体に人間の顔を持ったスフィンクスってのがいるだろう。あれに大きな翼が生えた奴が上空に現れたときは、あんまりの迫力で思わず漏らしそうになったわ。どこの空中要塞かと思ったよ。
 思わず目の前のリリイちゃんと、空の上にて悠然としているお母さんをまじまじと見比べてしまった。何を喰ってどうしたらあんな巨体になるの? 生命の神秘どころの話じゃねえよ! 異世界ファンタジーだからって何でも許されると思うなよ! という魂の叫びにはピタっと蓋をして、引きつった愛想笑いにて母娘を見送る私。
 だというのに隣にずっといたシルバーは「相変わらず無駄に大きいのぉ」とのんきな発言。
 えらく余裕のある態度からして、もしかしてシルバーってアレより強いの?


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