異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝

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14 運命の出会いとは錯覚である。

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 みんなで食べる分や大量に畑に撒いたりして能力を酷使していたら、気がついたらチクワ能力のレベルが5まで上がっていた。
 始めは三本パック入りのチクワが、皮つき高級チクワとなり、長さやサイズが選べるチクワを経て、チーズ入りやピリ辛などの味付きチクワへと進化し、ついに両手からドバドバとチクワを滝のように大量に出せるようになる。
 チーズ入りなんて食べたとき、感動のあまり私は思わず自身の頬を伝う涙を止めることが出来なかった。レッドはピリ辛なのが気に入ったらしく、ずっとソレばかりをおねだりしてくる。シルバーは大きくて太い方が食いであっていいと尻尾を振り、シロはなんでもござれだった。

 毎回、出したモノをかじるだけの食事も味気ないので、チクワ料理にも色々と挑戦する。
 刻んで潰して練って団子にしたり、刻んで潰して練ってハンバーグもどきにしたり、刻んで潰して練って麺っぽくしたり、途中から同じ調理法しかしていないことに気がついて、急遽、衣をつけて油で揚げてみたりもした。
 油は森のそこら辺に生えている花の種を潰すと採れた。小麦っぽいのは廃村内に残っていた畑跡にて逞しく自生していたのを拝借した。野菜とかはうちの畑にチクワを撒いておけば勝手に育つ。
 なにせこっちにはシルバーという歩く百科事典がついている。おかげで森は我が家の食糧庫状態、ゆえに私の辺境ライフはかなり安定しつつある。
 
 近頃では森の仲間たちが、ちょろちょろと廃村に顔を出す。
 いろんなモコモコや毛玉やケダモノにモンスターどもが広場に集結。彼らの目的は私のチクワだ。もちろん快く分け与えてあげる。
「みんなお食べー」と笑顔でばら撒く。
 それにハムハムと群がるアニマルどもの姿を眺めてはひとり悦に浸るのが、私の密かな楽しみだ。そんな遊戯をしていたらお礼のつもりなのか、ときおり返礼品が家の前に届くようになった。
 これだけ聞いたらメルヘンチックに感じるかもしれないが、現実は御伽話のように素敵に綺麗なことなんてない。
 ウチの玄関先に転がるのは小動物や虫などの死骸の山である。
 畜生どもの考える恩返しなんぞ所詮はこんなもんだ。そういえば家猫も似たような真似をすると聞く。飼い主に対する想いの現れのようだが、これを粗略に扱うと途端に拗ねると聞いたので、迂闊に捨てるわけにもいかず私は返礼品の処理をシロに一任している。
 彼ならば号令一下、仲間を集めて適切に処理してくれるから。

 こんな風に辺境の廃村にてご機嫌に過ごすこと半年あまり、ついに恐れていた事態に直面することとなる。
 
 いつものように三匹と森の中を適当にぶらついていたら、上空にて警戒に当たっていたレッドが「ケーン」と鳴いた。これは何かを見つけたという合図だ。
 で、行ってみたらソレが転がっていた。
 あちこちに傷をこさえて血を流して倒れている冒険者風の格好をした男。
 思わず「げっ!」と声をあげた私。
 しかし見つけてしまったものは無視できない。とりあえず調べてみると悪運が強いのか、まだ生きていた。ちっ! こうなっては放っておくわけにもいかないので、とりあえず村まで運ぶことに。
 男は歳の頃は二十半ばぐらいの金髪の偉丈夫。彫りは深めでわりといい男なのだが、ひっそりと隠遁生活を送る身の上としては、あまり喜ばしい遭遇ではない。だから適当に治療を施したら、とっとと放り出す予定である。

 家に運び入れて男の傷の手当をする。
 廃村の中には医者の家もあったので、そこそこの薬瓶が残されてあった。
 当初はラベルになんて書かれてあるのかまるで読めなかった私も、みっちりとシルバーに読み書きを習ったおかげで、今ではこちらの世界の文字が普通に読める。なにせ田舎の夜はすることがない。寝るか勉強するぐらいしかないので、おかげで学習はすこぶる捗った。
 男の鎧を引っぺがし、丸裸にして傷口を水でキレイにしてから塗り薬をベタベタつけて、後は包帯でぐるぐる巻き。
 男の裸は平気なのかって? ああ、酔っ払って帰宅したオヤジの着替えなんかをしょっちゅう手伝っていたせいか、特に何も感じなくなったよ。どんないい男だって一皮むけばみんな同じだからね。それよりもむしろ、いい歳こいた大人がお漏らしをするという事実の方が私を驚愕させたわ。酔うとどうしても下半身が緩くなるらしいのだが、後始末をさせられるこっちはたまったもんじゃない。
 だから私は異性に夢をみない。あんなのはただのデカくて可愛げのない赤ん坊だ。
 
 傷の手当がちょうど終わったところで、ううんと男が意識を取り戻す。
 薄っすらと瞼を開けてこっちを見て「ここは? それに君はいったい……」と呟いたので、とりあえず顔面にパンチを入れて黙らせた。
 のびている男に手早く服と鎧を着せると、シルバーに頼んで森の外の安全なところに捨ててくるようにお願いした。



 男をくわえて廃村を出たシルバーは、駆け足にて森の外縁部よりかなり離れた草原まで行くと、そこで荷物を放りだした。だがいささか動作が乱雑だったせいか、衝撃にて男が再び目を覚ます。そして自分の目の前に立つ巨大な銀狼の姿に絶句した。
 金色に輝く両目に睨まれて思わず呼吸をすることすら忘れる。

「事情は知らぬが、次はないと思え。あの場所はチカラなきものを拒む」

 銀狼から発せられるは荘厳なる声。
 それだけ告げると銀狼は森の方へと向かって駆けていってしまった。
 取り残された男はその後ろ姿を黙って見送ることしか出来ない。

「言葉を話す狼……、伝説のフェンリル!? それにあの御方はいったい……」

 男の呟きは草原に吹く風にかき消されて、自身の耳にすらも届かなかった。


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