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12 辺境にて意気地を立てて生きる。

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 シルバーとの特訓がひと段落ついたので、今度はレッドとの訓練に着手する。とはいえ現状、思いつくことといったらせいぜい鷹狩りみたいなやりとりぐらい。
 シルバーは私と普通に話せるが、レッドとシロはこっちの言う事は理解するが話すことは出来ない。基本的に「ケーン」と「ちー」という鳴き声と仕草にて意思表示をしてくる。だから指示出しは声をかければいいだけなのだが、それだと狩りなどの隠密行動に不向き。そこで簡単な合図を取り決める。
 右手を上げれば行け! 口笛を吹けば来い! とかみたいに。でもあんまり複雑にするとお互いに頭がこんがらがるので極力シンプルにする。
 いろいろと試して右手の上げ下げと指のみにした。
 指一本で行け、指二本で戻れ、指三本で警戒、指四本で追跡、指五本で殺れ、と取り決める。

 右手を上げて、遠くに置いた目標に向かい私が人差し指を差し示す。
 すると肩から飛び立ったレッドが一旦、大空高く舞い上がる。
 そこから猛然と目標に向かって滑空、広げた翼を畳んで更に速度を上げて弾丸のように迫る。爪でがっちりと獲物を掴むと同時に両翼の角度を調整し、勢いのままに再び空へと向かって舞い上がる。
 そして急旋回して「ケーン」とひと鳴きして、もの凄い勢いでこっちに帰って来た。
 げっ! と思ったときにはすでに手遅れ。
 まるで戦闘機から放たれたミサイルのように、目標がこっちに飛んできて私の顔面を直撃した。衝撃で後ろ向きにバタンと倒れ大の字となる。
 
 しかし心配ご無用、これは小袋に小豆みたいな豆のもみ殻を詰めたモノ。直撃したところでせいぜい肌の表面が赤くなる程度で済む。
 いやー、始めは小石とか薪でやってたんだけど同様な目にあって、あやうく昇天するところだったんだ。コレはコレで攻撃手段として使えそうだけど、とりあえず目下はちゃんとターゲットを取って来て、持ち帰るまでと定めている。言葉が通じるから楽勝かもなんて考えていた、以前の自分を叱ってやりたい。
 
 レッドの身体能力を舐めていたわ。
 たぶんハト形態でも私ならば殺られる自信があるね。
 とにかく速い、地を駆けるシルバーとは違う種類の速さ。
 車や電車に飛行機にと、ひと口に速さといっても色々あるだろう? たんなる数字上の問題ではなくて置かれている状況や視点、体感などがまるで違う。ゆえに感覚もまるで別物、空に生きるレッドと地べたを這いずり回る私との生物的溝を痛感した。
 鳥のショーをしているお姉さんとか鷹匠の人とかって凄いね。相棒のことを熟知しているからこその為せる技だ。それに比べて即席コンビのデコボコっぷりが酷い。問題はレッドではない、私だ。
 彼の高い身体能力をまるで把握しきれていない。
 だから慌てる、戸惑う、そして無様な失敗を繰り返す。
 レッドはかなり手加減をしてくれている。それでもこのザマだ。

「あー、格好悪いなー、私ってば。本当にダメダメだー!」

 大きな声で叫ぶ。それからひょいっと立ち上がって上空にて旋回していたレッドに向かって指を二本立てると、ふわりと舞い降りて私の差し出した腕にとまった。

「よし! もっかいお願いね、レッド」

 私が話しかけると「ケーン」と気前よく鳴いてくれるファイアーバードであった。

 野球の千本ノックってあるだろう? あんな前時代的な練習方法に根性論以外の意味があるのかって、ずっと疑問に思っていたけれども、ちゃんと意味があったんだな。私はそれを朧げながら悟ったよ。
 地味な反復練習を延々と繰り返すことで、動作を体に徹底的に覚え込ませるんだ。それこそ条件反射の域に達するまで。そこまでやってこそスライディングキャッチやらダイビングキャッチとかのファインプレーが飛び出すんだ。
 他のスポーツとか職人の技術なんかもきっとそうなんだろうな。
 骨の髄にまでしみ込んだ基礎練習の土台があってこそ、初めて本人も知らないうちに体が勝手に動く。頭だけでも駄目、腕だけでも駄目、全身の筋肉が連動して一つの行動をとることで成せる業。
 もう、理屈がどうこう口を挟める領域の話じゃない。一心不乱にバカみたいに打ち込んだ奴にだけが見える景色がある、辿り着ける場所があるということを私は知った。


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