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09 一国一城の主となる。
しおりを挟むとりあえず各家を回って家探しして、使えそうな品を根こそぎ漁ると、比較的無事であった倉庫の中にまとめて山積みにしておく。
大工道具、武器、食器から小物類、金銭、その他諸々、みんなにも手伝ってもらい片っ端から寄せ集めた。
家の床下やら暖炉の奥、地下室なんかには隠し保管庫みたいなのもそれなりにあって、こっちには金貨とか宝石類などの資産価値の高い品が納められてあった。
扉の丁番や釘なんかも再利用できそうな品は全部、いじ汚く集めてやった。それこそテレビゲームの中でプレイヤーに操られた勇者が、他人の家の中を漁るのなんて目じゃないぐらいに徹底的に行う。
おかげで当面の作業には充分過ぎるくらいの量が出揃う。
村の中には鍛冶場を始め職人らが使っていた設備が丸々残されてあるので、そのうち色々と挑戦してみるのも悪くない。
丸三日ほどかけて家々を漁りつつ、ついでに具合がよさそうな家を三匹の意見も聞きつつ見繕う。
そうして私たちが選んだのは村の中央部より、やや郊外にあった大きなログハウス風の一軒屋。ここだけ他所と少しばかり隔絶されたところにあり、周囲を林と原っぱで囲まれてある。
ちょっと調べてみたが家の前の原っぱは畑として使用されていたようだ。家のすぐ裏に井戸もあるし、内部の傷みも少ない。なによりずっと放置されていた物件だというのに、扉や窓に歪み一つ起きてないのに感心する。柱や梁とかに使われてある木も立派なモノばかり。シルバーによれば黒曜木と呼ばれる品種で、丈夫な高級素材として重宝されているものとのこと。とすればここの前の家主はかなり裕福な人であったのかもしれない。
内部の調度品に関しては、ソファーやベッドなどはさすがに駄目になっていたが、それ以外の棚とかテーブルや椅子は問題ない。戸締りがキチンとされていたおかげで家の中にほとんど荒れが見当たらない。これならばちょっとした修繕と掃除で済む。
更に一週間ほどかけて、ここに寝泊りしながらチクチクと家の修繕作業に取り組む。
その過程において三匹の有用性が改めて判明し、逆に私の駄目っ子ぶりが露呈することとなる。
レッドは屋根の修繕に大活躍だ。屋根の上に板やら釘などを持ち込んでは、器用にそのクチバシでコンコンとリズムよく打ちつけてしまう。
シロは小さい体を活かして床下から屋根裏までをくまなく調べては、問題の箇所を見つけ出してくれる。
シルバーは村中からかき集めた品々を木箱に詰めては、せっせとこっちの家の隣にある倉庫へと運び込んでいる。
そして私は、そんな彼らをぼんやりと眺めていることしか出来やしない。
これでもあっちの世界ではバイト地獄をこなしていたので、同年輩相手には一端の社会人面をしていたのだが、ちょっと環境が変わった途端にこのザマだ。
釘の一本もまともに打てないし、ノコギリを使えば板が歪み刃を痛め、井戸の水汲みやら重たい荷物に腰が悲鳴をあげ、道具の違いから掃除もまともに出来やしない。
自分でも呆れるほどの役立たずっぷりだ。
挙句にシルバーから「獲物なんかワシが狩ってきてやるから気にするな。ハナコはチクワだけ出しておればいい」なんて言われる始末。
きっと悪気はないのだろうけれども、グサリときたね。もう止めをさされた感じだ。どうやら私の価値はチクワ製造機としてしかないらしい。
彼の言うとおり他に満足に出来ることもないので、なかば自棄気味にチクワを大量に出していたら、ピコンとなんかレベルが上がった。
あの脳裏に響く謎の声が『レベルが2になりました』とご丁寧に教えてくれた。
これまではパック売りの安い感じのチクワだったのに、いきなり皮つきの高いグレードに上がった。高速道路のサービスエリアとかで売ってるようなブルジョア向けの品だ。味はもちろん美味いに決まっている。原材料から製法まで厳選されたかのような、職人のこだわりがギュっと詰まった味に三匹も大喜びだった。
不本意ながら私のチクワ製造人間としての価値が不動のものとなっていく。
そんな皮つきチクワの登場でハシャグ裏で、家の改築工事はひっそりと終了する。
こうして私は齢十七にして広大な庭付き一戸建てを手に入れたのである。
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