9 / 54
08 最果ての地にて。
しおりを挟む「おうおう、シルバーさんよぉ。こいつはどういうこったい?」
目の前の光景に、思わずチンピラ風の物言いになってしまった私を誰が責められようか。
だってものの見事に廃村なんだもの。
朽ちた柵、門扉が外れて地面に寝転がっている村の入り口、かつて鐘でもぶら下げてあったであろう鐘楼は大地に横たわり、通りには人っ子ひとり見当たらず、その代わりだとばかりに雑草が大手を振ってボウボウと生えている。
試しに手近な廃屋に足を踏み入れてみたが、屋根は落ち、床はところどころ抜け、室内には物が散乱しており、その上に埃が雪のように積もっている。
どう少なく見積もっても数年単位にて人が住んでいた形跡がない。
「おかしいのぉ、五十年ほど前にはそこそこ栄えておったハズなんじゃが」とシルバーが言った。
なんでもここは人類の最前線にして最果ての地として、神域の森の恵みを求めて来訪する命知らずの猛者どもで活気づいていたというが、いまや見る影もない。
数軒ほど家の中を覗いてみたがどこも似たり寄ったり。
やたらと小物が散らばっているし、退去したというわりには家財道具一式が残っていたりするんだよねえ。なんていうか慌てて逃げ出したみたいな印象を受けるのだが……。
そんなことを考えていたら胸ポケットの中にいたシロがひょっこり顔を出して「ちー」と鳴いた。レッドも「ケーン」といつもよりも甲高い声を上げる。
二匹のこの反応は「要警戒」を意味することを、短い旅の間に学んだ私は身構えてすぐに周囲に視線を走らせる。
「うむ。どうやらこれはアヤツのせいみたいじゃの」
シルバーが鼻先をクンと向けた先、ちょうど村の中央広場があった場所らしくて、そこにドドンと鎮座しているデカい亀がいた。
亀といっても縁日で売られているような可愛いらしいものではなくて、どちらかというと怪獣映画に登場するような奴だ。たとえ周囲の家よりもデカいこいつが激しく横回転しながら空を飛んだとしても、私はきっと驚かないだろう。なんだか平気でそれぐらいしそうな怪獣具合である。
「アレが神域の森から出て来たから、みんな慌てて逃げ出したと。そして今も日当たりの良さが気に入って居座り続けているというワケか。ところでアレって肉食かな?」
私が訊ねると悪食との嬉しくない答えが返ってきた。しかも村が放棄されて冒険者どもも逃げ出すぐらいだから、きっと強いんだろうなあ。はてさて、どうしたものかしら。
たぶんシルバーとレッドならば勝てると思うんだけど、私としては村の跡地は極力、そのままで手に入れたい。探せば使えるモノがごまんと見つかりそうだし……。
いろいろと思案していたら、いつの間にやらポケットの中から外へと出ていたシロが、トテトテと巨大悪食亀のところに近づいているではないか!
「ああ、駄目っ!」と叫ぼうとしたところで、シロが「ちーっ!」と大きな声を上げた。
途端に亀のイガイガした凶悪な甲羅の表面に無数の亀裂が走る。
更にシロがもうひと声。
すると今度は内部より血飛沫が上がって、亀がその逞しくて長い首を天へと伸ばし一度だけ苦悶の声を上げ、そのままドスンと倒れてピクリとも動かなくなってしまった。
どうやら永眠してしまったらしい。だがそれだけでは終わらない。
どこからともなく現れた無数の黒いサイカたちが、亀の遺体に群がってガリガリもちゃもちゃ、あっという間に綺麗さっぱりと片づけてしまった。固いハズの甲羅の一欠けらすらも残っちゃいない。ものの十分ほどの出来事である。
彼らはすっかり亀を平らげると、さっと散ってしまい何処かへと消えてしまった。
「シロ強え! っていうか今のって超音波みたいなのかな? あとアレがサイカの群れか……、こっちも半端ねえな。そりゃあ都の一つや二つぐらい軽く消えるわ」
目を白黒させて驚く私のところにタタタと小走りにて帰ってきたシロ。
そのまま体を伝ってよじ登り、自分の定位置であるポケットの中にすぽんと納まってしまった。
「そういえば言っておらなんだな。サイカの王たる白い個体は他のと違って単体でも強いぞ。まあ仮にも神域の御戸の付近をぶらぶらしている時点で弱卒なんぞありえんがな」
そう言ってカカカと愉快そうに笑うシルバー。
そしてこの発言を受けて私はある覚悟を決めた。
それはここでひっそりと隠れ住むということ。
だって考えてもみてよ? 神獣の銀狼、火の精霊を従える不死鳥、そして災厄の使徒の白王様、これって超過剰戦力じゃないかしらん。
そして私は異世界渡りのへんな能力者。私個人にはなんら価値を見出されなくとも、この三匹を連れている時点で、付加価値が本体価値を軽く凌駕している。
これって云わば付録がメインの雑誌や、オマケがメインのお菓子に成り下がったことを意味している。そして世の中にはオマケや付録欲しさにホイホイと大金を投げ出す馬鹿が多く、迷走している販売元も多いのだ。
気持はわかるさ! 業績を上げたい、数字を伸ばしたい、でもそれって何だか違うだろう? アンタらがやりたかった仕事ってのは本当にソレだったのか?
こほん……、すまん、ちょっと錯乱した。
ようは外の連中に知られちゃうと、私が極めて困った立場に陥るということさ。
だから文明圏での生活はきっぱりと諦めよう。
そしてここでお気楽極楽隠遁生活をおくるのだ。
幸い、家はいっぱい余っているし、その中から具合の良さそうなのを選んで修繕しよう。
道具はその辺を漁れば見つかるさ。井戸はあるから水は問題なし、当座の食い物はチクワでしのぐ。森には獲物が一杯だからシルバーたちにお願いして肉類も確保できる。しかも嬉しいことに共同浴場らしき場所にて温泉が湧いているのも見つけた。土地もあまっているし、きっと畑の跡とかもあるからなんちゃって家庭菜園とかイケるかもしれない。
よし! 行き当たりばったりでもいいから頑張ってみよう。
8
お気に入りに追加
2,848
あなたにおすすめの小説
追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~
夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」
カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。
それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。
でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。
そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。
※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。
※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。
※追放側のマルセナsideもよろしくです。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
神造小娘ヨーコがゆく!
月芝
ファンタジー
ぽっくり逝った親不孝娘に、神さまは告げた。
地獄に落ちて鬼の金棒でグリグリされるのと
実験に協力してハッピーライフを送るのと
どっちにする?
そんなの、もちろん協力するに決まってる。
さっそく書面にてきっちり契約を交わしたよ。
思った以上の好条件にてホクホクしていたら、いきなり始まる怪しい手術!
さぁ、楽しい時間の始まりだ。
ぎらりと光るメス、唸るドリル、ガンガン金槌。
乙女の絶叫が手術室に木霊する。
ヒロインの魂の叫びから始まる異世界ファンタジー。
迫る巨大モンスター、蠢く怪人、暗躍する組織。
人間を辞めて神造小娘となったヒロインが、大暴れする痛快活劇、ここに開幕。
幼女無敵! 居候万歳! 変身もするよ。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
ピンクの髪のオバサン異世界に行く
拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。
このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。
孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。
水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました!
死んだら私も異世界転生できるかな。
転生してもやっぱり腐女子でいたい。
それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい……
天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生!
最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。
父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!?
※BL要素ありますが、全年齢対象です。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる