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06 神域の森の木陰から。
しおりを挟む銀狼の背に乗って、のっしのっしと森の小道を進んでいく。
いや、一度、調子に乗って駆けてもらったんだ。
そうしたら途中で降り落とされて死にかけた。あんなものバイク事故と同じだ。とっさに頭を庇わなかったらヤバかった。学校の体育の授業で習った柔道の受け身が大活躍さ。あれを考えたとかいうどこぞのご老体、あんたはたいしたもんだぜ。
なんにせよ文字通り疾風のごとき速さにて、こっちの身が持たん。
あと気分が悪くて吐きそうになった。
ファンタジーでも揺れるもんは揺れる、そしてきっちり酔う。だから颯爽と駆けて行くのは早々に諦めた。
歩きながら銀狼にこの世界について色々と教えて貰った。
先ほどまで私たちがいたのは神域の御戸と呼ばれる地で、世界のへそみたいなところなんだって。だが整った場所のわりに存在意義や使い道はよくわかっていないとのこと。
そして神域とは大陸の三分の一をも占める広大な森にして、凶悪なモンスターと獣たちの楽園なんだとか。緑があまりにも濃く深く、そこに住む者たちは強大にて、弱者が立ち入ることを拒む地。ゆえにいかなる種族の手も入っておらず、せいぜいが外縁部を辺境と呼び、細々と開拓しているのが現状らしい。
そんなところを堂々と闊歩しているこの銀狼さんは神獣でとっても賢くて強い。
自画自賛ぶりが少々鼻につくが、おかげでこうしてのんびりと森の奥でいられるのも事実。だから機嫌よくおだてておくことに私は決めた。
森の日暮れは早い。
空が茜色に染まったかと思ったら、アッという間に周囲が闇に包まれた。
フェンリルは夜目が効くので平気だと言うが、こっちの身が持たないので夜はのんびりさせてもらうことにする。
暖をとろうと薪を集めたところでハタと気がつく……、火がないということに。
なんとなく木と木を合わせてゴシゴシして火種をつくる方法は覚えているが、どうしたもんかなと悩んでいると、レッドが火をブォーと吐いて薪を燃やしてくれた。
そういえばここは異世界だったな……。
フェンリルによるとレッドはファイアーバードと呼ばれるモンスター鳥で、この子も神獣と呼ばれているんだとか。
炎をまとい火を吐くそうで成長すると不死鳥に進化するらしい。そうなると火の精霊を従えるは、地中のマグマは自在に操るわと凄いことになるそうな。
話のついでにシロがサイカと呼ばれるモンスターであるということも教えてくれた。
こっちは別名「災厄の使徒」と呼ばれる存在で、雑食につきあらゆるものを食する小動物。大群になったら手がつけられない。一夜にして大きな都を滅ぼしたこともある。
なお白いのは彼らの王様、王様のひと声で何十何百万の軍勢がどこからともなく集結して、命令一下にて行動するんだって。これを表して最強の兵団と呼ぶ人もいるんだとか。
「へえー、こんなに可愛いのにねえ」
指先でちょんちょん撫でるとシロは「ちーちー」と嬉しそうな声をあげた。
火をつけてくれたお礼にレッドの頭をナデナデ。
そんな一人と二匹の姿を見ていたフェンリルがぼそりと呟く。
「それにしても二匹とも人になんぞには懐かんはずなのになあ」
いやいや、たぶんあんたと同じ理由で、私に懐いたというよりもチクワになびいただけであろう。などと思ったがあえて口には出さない。
言ったらきっと面倒なことになる。だって微妙に誇り高そうなんだもの、銀狼さんってば。それが食い物になびいたなんぞ、絶対に認めそうにもなかったので。
チクワをポコポコと出して夕食にする。
焚火であぶったチクワはたいそう美味であった。
思わずみんなで焚火の周りを小躍りするほどには美味かった。
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