5 / 54
04 プラスわんの世界。
しおりを挟むシロとレッドとチクワをかじっていると、不意に空から銀色のなにかが降ってきた。
ライオンよりも二回りぐらい大きな犬?
いや、これは狼といったほうがいいのかな。目つきが鋭いし、大きな口の中に立派な牙が生えているし、四肢もがっちりしているし、どこか野趣が溢れている。
やっべー、こりゃ死んだなー、とか思いつつチクワをかじっていたら声が聞こえてきた。
「娘、オヌシは先ほどから何を食べておる。香しいにおいが神域の御戸の方から漂ってくると思って来てみれば、原因はソレか」
どうやら目の前の銀狼が喋っているようだ。
てっきり極限状態下における疲労による幻聴かと思ったのだが、目の前の奴に違うときっぱり否定されてしまった。
ちっ! これで誠に遺憾ながら異世界転移説が確定したな。だが言葉を介するというのはありがたいと、気を取り直して話しかけてみることにした。
「こんにちわ、私は山田花子。とりあえず、おひとついかが」
そう言って差し出したチクワをぱくりと大きな口で食べた銀狼。
途端に彼の金の両目がかっと見開いて「なんじゃこりゃー!」と絶叫した。
なんとなくそんなことになりそうな雰囲気だったので、いち早く両耳を塞いでいたので私の鼓膜は無事。シロもポケットの奥に潜り込んでいたので無事、レッドはいつの間にか翼をはためかせて銀狼の背後に逃れており、大音量の騒音の直撃から逃れていた。
なんだか気に入ったみたいで、やたらと尻尾をバサバサ振って埃が舞って鬱陶しい。だから大量に出して、しばらく食べることに専念させて黙らせる。
百本ほど食べたところで銀狼が「そういえば、こんなところでハナコは何をしておる」と今更ながらに訊ねてきたので、かくかくしかじかと簡単に事情を説明したら、「はて?」と小首を傾げられた。
彼はこちらの異世界転移云々の与太話に疑問を持ったのではなくて、召喚された者がこんなところに一人でいることを不思議がっていたのである。
そうして告げられる驚愕の真実の数々を知り、私は自分という存在のちっぽけさを痛感することとなった。
どうやら一部の者ら以外にはまったく知らされることもなく、異世界間にてしばしば集団転移が行われているようだ。
目的は魂の総量だとか世界のバランスとかの調整をとるため。神だか管理者だかが取り仕切っているんだとよ。
それで銀狼の話によれば事前に相手側には連絡がいっているらしく、受け入れ態勢を整えることになっているんだとか。転移される人たちにしたって村単位やクラス単位みたいに、ある程度の知り合いらが選ばれて、まとめて飛ばされるようになっている。
これは見知らぬ土地で精神を病んでウツウツしたり、孤独死しないための配慮らしいのだが、そのわりには私は地の底で一人ボッチなのは何故……。
「本来ならば教会の大神殿や王城にある召喚の間とかに呼び出されるはずなんじゃがなあ。神域の森の御戸なんぞに放置されたことなんぞ、ついぞ聞いた事もない」と銀狼さん。
ちなみに彼はフェンリルとかいう生き物で、神獣と呼ばれるほどに賢くて物知りで強いんだとか。
そんな彼に召喚にまつわる諸々も教えてもらえたのだが、それによって私のこのヘンテコな能力についてもようやく合点がいく。
ヘンな能力が付与されるのは世界ごとの魂の資質の問題なんだそう。
私の元いた世界には魔法なんて存在しない。これを仮にAとする。
だがこちらの世界には魔法がある。こちらをA+1とする。
Aの世界からA+1の世界へとそのまま移動したのでは足りないので、不足分の+1が異能というワケだ。だから送られる先の世界の状況によっては付与ではなくて、逆に奪われるケースもあるどころかマイナススタートすらもありえるらしい。
そしてこの+1というのがまた曲者で、極論を云えば私のチクワを出す能力も、伝説の剣豪ばりのスキルや、大魔法使いの魔法の素質、死者をも蘇らせるほどの治癒の力も、すべて同じ+1として計上されちゃうのだ。
大雑把というか大らかというか、どうやら世界を司るような御方の目からすると、しょせん1は1でしかないらしい。転移させられた者の命運を左右する能力すらも、彼らにとっては誤差の範囲に過ぎないのだ。
それでも大抵は有益な能力を得るというのに、私のはチクワだ。
こっちに送られる直前に会ったオッサンの問いかけ……、たぶん普通はもう少し丁寧なやりとりをして、当人の希望に沿った内容のスキルを貰えるんじゃなかろうか? さすがに毎回、あんな適当をしていては有益な能力がゴロゴロと発現するとは思えない。
そしてチクワである。
もはやハズレスキルどころの話ではない。
賢いと自称しているフェンリルにも訊ねてみたが、食い物を出す能力事体が見たことも聞いた事もないという。有効利用についても相談してみたが顔をそむけられた。
ただ一言「さすがに勇者や聖女は無理じゃろう」と彼は述べるに留まった。
ふむふむ、神獣ですらもお手上げの珍能力のようだな。
だから当面は食べることに専念するとしよう。
37
お気に入りに追加
2,871
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる