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120 漆黒の弾丸
しおりを挟む砲台と化したメロウ。
照準を合わせたところで、いざっ!
「撃てえぇぇぇっ」
俺の合図にて咆哮が鳴り響く。
かつてない高濃度に圧縮された空気がはじけてズドン、発射されたのは漆黒の弾丸。
反動により地面が上下にびりびり震える。
パンッと見えない壁が砕けた。
すぐさま音速域へと到達した弾丸。
流線形の弾頭がギュルギュルと回転しながら高速で飛翔。
一直線に空を斬り裂き、赤い雲海に穴を穿つ。
直後に生じた衝撃波が埋め尽くしている赤い霧を打ち払い、視界が鮮明となる。
ここで俺はずっと発動しっ放しであった拡張能力を、さらに酷使する。
残ったすべての力を二つの目に集中する。
一瞬「失明するかな」との考えが脳裏をよぎるも、どのみちいまを乗り切らなければ、次はない。お先真っ暗なのは同じこと。ならば出し惜しみしている場合じゃない。
満身創痍にて疲労困憊。とっくに限界なんぞは越えていたが、さらにその先へと。
漆黒の弾丸の行方を目で追いながら、ひらけた視界の中にあるはずの慮骸アカシオの核である慮晶石の姿を懸命に探す。
「この霧の色味からして、赤属性なのはまちがいないはず。これだけの規模の集合体。相応の大きさだろう。どこだ? どこにある?」
眼球を動かすたびに、奥に鋭い痛みが走り、ブチブチと何かが切れる音がしやがる。
心なしか視界も暗くなってきた。
「まだだ、まだもってくれよ。……っ痛ぅ。ぐっ、うん? あれはっ!」
ようやくそれらしい対象を発見。
真紅の卵型の物体が立ってゆらゆらしている。
しかし想定していたよりもずっと小さい。八つか九つぐらいの子どもの背丈ぐらいしかない。そんなシロモノがふらふらと風に揺られている。
「的が小さい……。イケるかメロウ?」
俺が声をかけると相棒は「ぴゅい」といい返事をしてくれたが、その身は熱した鉄のように熱くなっていた。
当たり前だ。体内に取り込み撃ち出したのはあの黒の慮晶石。
白と並んで現在の人類にはろくに扱えないような危険物。内包されている力がどれほどであるか。そんなモノを扱っては、いくらスーラの身とて無事ですむわけがない。
なのに相棒は「まかせろ」と言うばかり。
「なぁ、こんな場面で訊くようなことじゃないんだがメロウ、おまえはどうしてそこまで俺に尽くしてくれるんだ? こんな死にぞこないのためにどうして……」
気づいたら俺はそんな言葉を吐いていた。
ずっと疑問だった。なぜ誰にも懐かないといわれているスーラが自分に懐いたのか、騎獣となって御者の仕事を手伝ってくれているのか。
好物の酒が目当てであれば、他にいくらでも手に入れる方法はある。
なのに俺のそばから片時も離れようとしないのはなぜだ。
ずっと心の奥底にあった疑問。
いまこの時に吐露したのは予感があったから。
二発目の漆黒の弾丸。
それを放てば、メロウのみならず俺の身にも何かが起きるだろうという、そんな予感が……。
じっと見つめていると、ぷるんとスーラの身が小さく震える。
ふとメロウが微笑んだような気がした。
とても懐かしくて、胸を締めつけられるような、それでいて甘く切ない笑み。
俺はそれを知っている。
だがしかし、どうしてメロウが……。
直後に放たれた第二射。
轟音とともに突き進んだ漆黒の弾丸は狙いあやまたず。慮骸アカシオの核である真紅の卵を撃ち抜く。
真紅の慮晶石と黒の慮晶石がぶつかった瞬間、キラリと光が産まれた。
とても鮮やかで力強い輝き。まるで星が産まれたかのよう。
ほとんど使い物にならなくなっていた俺の目にも、ありありと映るほどに激烈な光。
そんな光がどんどんと強く、大きくなっては、周囲にあるすべてを呑み込んでいく。
世界を白一色に染めあげる破壊の光。
俺はどろりと半壊しているスーラのかたわらにて、その光景をぼんやり眺めていた。
じきに御者と騎獣の姿は、押し寄せる光彩の波に呑まれて消えた。
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