112 / 121
112 対策会議
しおりを挟む慮骸アカシオの出現と、それを起因とする氾濫の発生。
急報がもたらされた都市アジエン側の動きは早かった。
すぐさま関係各所に通達し、緊急事態宣言を発動。国に応援要請をするかたわらで総動員体制へと移行し、近隣集落へと避難誘導する部隊を派遣。そのいっかんとして俺たちのところにも迎えを寄越してくれたという次第。
自前の荷車と迎えの分とで、どうにか全員が徒歩でなくなったことにより、行軍速度は格段に上がる。おかげで俺たちは氾濫に追いつかれるよりも先に都市入り出来た。
壁の中は上を下への大騒ぎであった。
なのにおもいのほか取り乱すことなく、各々がやるべきことに邁進しているように映るのは、先のカキンチャク騒動が効いているのかもしれない。良くも悪くもアレが予行演習になったせいか、組織がきちんと機能している模様。
リリンとウタカは「集落のみんなが心配だからいっしょにいる」というので、そちらは相棒のメロウにまかせて、俺はひとり運送組合支部へと足を運ぶ。
報告と今後の指示をあおぐためだ。
ひょっとしたら、御者として「五候の遺児のみ先に王都へ輸送せよ」と命じられるかもしれないと考えた。
しかし面会した支部長の判断は「ここで防衛戦に協力して欲しい」というものであった。
すぐさま出立したとて無事に旧ガロン領より脱出できるという保障はない。女連れの旅路。急ぐあまりうっかり窪みにでもはまって車輪が壊れでもしたら、そこで終わる。
一方で頑強な壁があり、人材も物資もある程度揃っている都市アジエン。いざともなれば例の下水道に潜るという手もある。
はたして生き残る確率が高いのはどちらか、ここに留まるべきか否か。
俺は「依頼人の意向を聞いてみないことにはな」といったん話を持ち帰らせてもらうことにする。
とはいえ先の彼女たちの態度からして、答えはすでに出ているようなものだが、いちおう確認だけはしておかなければ……。
◇
「民あっての領です。民を見捨てる領主なんかに存在意義はありません。なによりせっかくガロン家を再興したところで、アジエンを失ってはどのみち意味がありませんから」
「さすがです、リリンさま」
主人であるリリンはきっぱり逃げる意思がないと言い切り、従者であるウタカもそれに追随する。
大戦末期に一族郎党を失い、ひとり生き残った候家の姫君は、長らく辺境の市井に身を置くことで、ずいぶんとたくましく育ったようだ。
安全な王都に引き篭るしか能がない連中に、彼女の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
でもって依頼人の意思が固まっている以上は、あとはやるべきことをするだけ。
俺はふたたび支部に顔を出すと、先の要請を受けることを伝えた。
◇
都市アジエンを担う主要人物らが集っての対策会議の場。
先の騒動のおりに活躍したサッシーなどの知った顔もちらほら。
その中にリリンとウタカ、俺の姿もあった。
リリンたちはガロン家の遺児であることがバレたことにより、将来の盟主として列席を求められ、従者兼護衛役のウタカはこれに付随。俺に関しては先のカキンチャク騒動での活躍が認められたのと、サッシーら守備隊の若手からの推薦もあってのこと。
というか、連中の目当ては相棒のメロウであろう。
なにせ遠方より強力な射撃が行えるのは、防衛戦においてはたいそう心強いことだから。
「氾濫はどうにかしのげるだろう。だが問題はアカシオだ」
「山の頂上付近を覆うほどの大きさとは……」
「おそらくは複数個体が寄り集まったのだろうが」
「そんなこと本当にありえるのか?」
「わからん。だが現実に存在している以上は認めるしかあるまい」
生体兵器である慮骸の敵は慮骸。
慮骸は相手を殺し喰らうことにより、核である慮晶石を吸収し、より強固な個体となる。もしくは混じりモノとよばれる複数の属性持ちへと進化する。
だからこそ同属性、同種のみにて合体している、あの超大なアカシオのような存在は、本来であればありえない。
「アレの行先は風に左右される。ひょっとしたらたまさか同じ風溜まりにでも転がりこんでしまったのやも」
との説が濃厚だが、真偽を確かめる術はない。
「しかしあれほどの規模の赤霧、どうやって払ったものやら」
「ありったけの火薬をかき集めて、吹き飛ばすとか?」
「無理だ。とてもではないが足りん。たとえ用意できたとて、どうやって起爆させるつもりだ。妖精の鱗粉のせいで遠隔装置の類は使えん」
「確実に着火させようとすれば、その者も爆発に巻き込まれる、か」
「では、核となる慮晶石を破壊するのは?」
「あの規模のアカシオの中をどうやって探す。うろうろしているうちに溶かされてしまうわ」
実体をともなわず、物理攻撃がほとんど効かない慮骸アカシオ。
これを撃退するには、強い風を起こして向こうに追いやる。
そして倒すには、唯一の実体である慮晶石を破壊するしかない。なお慮晶石のおおまかな位置ならば外部からでもわかる。もっとも霧の色味が濃くなっているところだ。
だが街ごと呑み込みかねない大きさのアカシオともなれば、これを人為的に誘導するのは、なまなかなことではない。
少なくとも現在の都市アジエンが保有する力では不可能。
それゆえにいくら知恵を絞ろうとも妙案が出ることはなく、話し合いはいっこうにまとまる気配を見せず、いたずらに時間ばかりが過ぎてゆく。
イラ立ちと焦燥ゆえに、ともすれば険悪がちになる雰囲気。
そんなさなかに、おずおずと手をあげたのは、これまで黙ってみなの話に耳を傾けていたリリンであった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる