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103 射撃対決
しおりを挟む本来ならば連射できないはずの種を放とうとする慮骸カキンチャク。
しかしそれはメロウも同じ。属性持ちの弾を精製し体内に保管することは可能だが、撃つのには圧縮した空気が必要。それを準備するための時間がいる。これをおろそかにすると威力が格段に下がってしまうのだ。
射撃対決にかぎった話ではないが、戦いにおいて先に相手へと有効打を当てた方がいっきに勝利を手繰り寄せる。
双方が必殺の一撃を持つ者同士。
先に準備を整え終えた方が勝つという局面。
じりじりと焦燥感ばかりが募る。
待つ時間がとてつもなく長く感じる。
そんな中、先に準備を整えたのは慮骸カキンチャク! すぐさま第二射を放つ。
固い殻を持つ種がふたたび、こちらへと猛然と迫る。
それに遅れること、ほんのわずか。
メロウの砲身が吠えた。
互いが互いを狙い撃つ。
構内に充ちる闇を斬り裂き、まっすぐな弾道を描く。
しかしここで奇妙な現象が起こった。
先に撃ち出されたはずのカキンチャクの種の方が若干ながらも弾速が遅く、あとから発射されたはずの黄色い弾頭の打ち上げ速度がこれを抜く。第二射を急ぐあまりカキンチャクの攻撃準備が雑になったせいだ。
その結果、天井と床に分かれている双方のほぼ中空付近にて、種と黄色い弾頭がすれ違うことになる。
ほぼほぼ重なっている射線。
二つの回転が近接した瞬間、チュインと甲高い音が鳴り響き、火花が散る。
これにより双方の射撃の軌道がそれる。
慮骸カキンチャクの種が着弾したのは、おれたちのすぐ左の地点。衝撃により石床が砕け、爆風と破片に襲われた俺とメロウは横倒しとなる。
一方でメロウのスーラ弾もまた目標をはずし、慮骸カキンチャクのすぐ脇の天井へと激突。すると先の攻撃の分とあわせて、脆くなっていた天井の一部がついに崩れて穴が開いた。
これにより天井にぶら下がっていた慮骸カキンチャクの身が、ずるり。
ついに落ちるかとおもわれたが、なおも根が引っかかり持ちこたえるばかりか、続けて第三射の準備に入ったのだから恐れ入った。
奴にしてみれば、なにがなんでも俺たちを殺さずにはおくものかといったところなのだろう。
もちろんこちらとておとなしく殺られてやるつもりなんぞは毛頭ない。
いちいち俺が指示を出すまでもなく、メロウもまたすぐに第三射の準備に入っている。
だがしかし、このままでは先の二の舞だ。
「くそっ、またしても先手をとられる。いったいどうしたら……」
懸念材料は他にもある。それは天井にぽっかり開いた穴。
そこから差し込む陽射しにて下水道内の視界が良好となった反面、メロウの位置からでは逆光となって相手の姿がよく見えない。
最悪、当てなくてもいい。慮骸カキンチャクを叩き落としてくれたら、あとはこちらで対処する。
この場に居合わせた味方勢が固唾を飲んで見守る中。
やはり先に準備を終えたのは慮骸カキンチャク。
ところがここで誰もが予想だにしない出来事が起きた。
「おおーっ!」
雄叫びが聞こえたかとおもったら、突如として天井の大穴の縁から躍り出た影ひとつ。
誰かとおもえば槍を手にしたサッシーであった。
穴をのぞき込み、のっぴきならない状況なのを察した新米隊士が「させるかよっ」と無茶な突撃を敢行。
しかしそれは値千金の奇襲であった。
飛び込んだ勢いのままに、ほぼ体当たりのようにカキンチャクへとぶつかるサッシー。槍そのもの攻撃はてんで的外れにて、たいした手傷を負わせられない。けれどもこれから種を撃つぞという段階での横槍は、おおいに敵を狼狽させた。
ただでさえ不安定になっていたところがさらにグラグラ。せっかく狙いを絞ったというのに、種の発射口がてんでちがう方向を向いてしまう。
カキンチャクはまとわりつく邪魔なサッシーを蔓でペシンと叩き落とし、すぐさま軌道修正をしようとしたのだが、その時にはすでにメロウが放った黄色い弾頭が眼前へと迫っていた。
射撃対決を制したのはメロウ。
半身を吹き飛ばされ、ついにこらえきれずに天井より落ちた慮外カキンチャクは、下で待ちかまえていた者たちの手によりすみやかに討伐された。
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