101 / 121
101 クズ石
しおりを挟む侵入経路をなぞらえて進むので、俺とメロウは他の連中よりもずっと早くに目的地に到着する。
混じりモノとおぼしき慮骸カキンチャクは、はじめに遭遇した場所、中央広場地下にてあいかわらず天井に張りついたまま。
移動した形跡がない。俺とサッシーを追わなかったらしい。
ならば慌てて逃げ出さなくてもよかったということになるのだが、あとではどうとでも言えるもの。あの時は、こっちも必死だったのだからしようがあるまい。
カキンチャクに注視しながら、じりじりと距離をつめる。
八つの水路が交わる開けた空間。
通路を抜けてそこへと立ち入ったとたんに、根がモゾモゾと動きだしたもので、俺たちはあわてて後退。どうやらここがヤツの縄張りにて、このあたりが境界線。
これを一歩でも越えたら察知されて、迎撃されてしまうようだ。
いったん通路へとさがった俺たちは、他の者たちが到着するまでの時間を使って戦いの準備に着手する。
◇
生体兵器「慮骸」には属性が存在する。
基本を赤青緑の三原色とし、組み合わせにより派生する黄や紫などの体液を持つ個体を「混じりモノ」と呼ぶ。
属性には相性があり、対慮骸戦では相手が苦手とする属性の攻撃をすることが基本となっている。
まずは体液を確認して相手の属性を探ることが、対慮骸戦の鉄則なのだが今回の相手はカキンチャク。植物系であるので属性が緑なのは、いちいち調べるまでもないこと。
緑に強いのは赤の属性。
ただし問題は、相手が混じりモノだということ。本来であれば陽の下を好むはずなのに、穴ぐらに潜り込んでいることから、水辺と相性がいい青と考えるのが妥当。だがしかし……。
「やはりひと当たりして確認するしかないか。できれば、不意打ちでいっきにカタをつけたかったんだが」
俺が考え込んでいると、ちょんちょんと突いてきたのは相棒。緑のスーラがにょろんとのばした触手にて指し示すのは、石床になかばめり込んでいる種。
最初に遭遇したおりにサッシーめがけて放たれたモノ。
「おっ! そうか、わざわざ戦わなくても、この種を割ってみればいいのか。でかした、メロウ」
褒めがてら俺はぷにょんとした軟体をひと撫で。
というわけで、さっそく種を石床よりほじくり出す。
まだ発芽していないところをみると、やはり成長するのには日の光なり栄養のある土なりが必要なのかもしれない。
子どもの頭ほどもあろうか。ずしりと重い種。固い殻に覆われている。
しかし俺の短双剣・黒羽ならば問題ない。
スパッと両断。割ってみると、実とおぼしきモノが詰まっており、ドロリと垂れる汁は異様に発色がいい鮮やかな空色。染料とかに活用できたらいい染物になりそう。
空色は緑と青を合わせることであらわれる色。
ついに討伐対象が緑を基本とする青の混ざりモノであると判明した。
ならばそれに対抗する属性を持つ攻撃を用意してやればいい。
そこで俺は慮晶石の欠片が詰まった袋から、赤と緑のクズ石を出し並べては、その中からもっとも色味が強く、純度の高い品を選り分ける。
緑の属性には赤が有効であり、青の属性には緑が強い。
ゆえに赤と青を組み合わせて、黄色の属性を持つ弾を精製し、メロウの必殺技「スーラ弾」にて射出する。
向こうが飛び道具で来るのならば、こちらも飛び道具で対抗するまで。
それで倒せればよし。
ダメでも天井から引っぺがしてくれれば、俺および腕に覚えありの者どもにて殲滅する。
万が一、下水道から地上へと逃げたら、あちらに控えているサッシーたちが集団で対処する。さすがに街中に慮骸が姿をみせれば、ふざけたことをぬかした守備隊の上役も重い腰をあげざるをえないだろう。
「用心して少し多めに弾を作っておくか。頼むぞ、メロウ」
質のいい赤と青のクズ石、十個ずつ、計二十個を与えると、それを体内にとりこんだ緑のスーラ。とたんに半透明の内部にてしゅわしゅわと細かい泡がたち、分解融合作業が開始される。
作業が進むほどにメロウの体もほんのり黄へと変色しだす。
その姿を前にして、俺はふと思った。
「あれ? ひょっとしてメロウなら、あのやたらと固い鉄格子も、溶かせたんじゃなかろうか」と。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
41
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる