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099 出撃準備
しおりを挟むどうにか行く手をさえぎる鉄格子を突破し、外へと出ることに成功した俺たち。
そこは都市の防壁の外だった。
一昼夜ぶりに再会したお陽さまの光に目を細めつつ、ほっとしたのもわずか。ぐずぐずしてはいられない。急ぎ、都市へと戻るべく門へと向かう。
◇
都合のいいことに門を守っていたのは顔見知り。この都市に到着時、門限に遅れた俺を迎え入れてくれたあの親切な衛士であった。
「おいおい、ひどい格好だな。泥だらけじゃないか。それになにやら臭うような」
胡乱げに鼻先をスンスンさせている衛士に、俺たちは留守の間、地上の方がどうなったのかとたずねると案の定であった。
守備隊が中心となって慮骸カキンチャクを倒したと、夜通し街をあげてのお祭り騒ぎにて、みな浮かれていたそうな。
「ほらな? おれが言った通りだろう」とサッシー。
これには俺も苦笑いするしかない。
にしても困ったことになった。こんな調子では、上層部に報告に向かったところでまともにとりあってもらえるかどうか。
「とはいえ、しないわけにはいかないだろう。とりあえず俺は運送組合の支部の方に向かうから、サッシーは上司にかけあってくれ。ここから先は時間との勝負だ。モタモタしていたら、とり返しのつかないことになるぞ」
「わかった。じゃあ、またあとで」
俺たちの会話を聞いていた衛士は、不穏な内容に目を白黒とさせながらも自分たちの都市に危機が迫っているのをおぼろげに察し、「こっちでも動けそうな奴に声をかけておくから、人手がいるときはすぐに言ってくれ」と請け負ってくれた。
◇
報告を受けた運送組合支部の反応は早かった。
すぐに地下へ向かう人選をはじめ、討伐隊の編成に乗り出す。
なにせ第一等級御者からの報告であり、相手が混じりモノとなれば、たとえ与太話であろうとも看過はできないからだ。たえず外部との接触を持っているからこその危機意識の高さが発揮された次第である。
しかし都市の上層部や守備隊の方はかんばしくない結果となる。
命からがら逃げ帰り、敵の情報を持ち帰ったサッシー。
上役から浴びせられた第一声は「興が冷める。せっかくの気分に水を差すなっ!」という理不尽な怒号であったという。
運送組合の支部にて合流したサッシーの口からじかにその話を聞いて、俺は「あちゃあ」と天を仰ぐ。
街中に出現した慮骸を退治したと大々的に喧伝してしまった手前、いまさら「じつは誤報でした。もっと厄介なのが残っています」とはとても言えやしない。
体面やら恥じやらに酔いなんぞも加勢して、見たくないものから目を背け、聞きたく情報に耳をふさいでしまったのだ。
「その様子だと、せめて連中の酔いが冷めてからでないと話にならないな。だがのんびりと待っている時間はない」
「どうする?」
というサッシーに「どうもこうもない。こうなればすぐに動ける奴だけでやるしかない」と俺は小首をふる。
もっとも装備類が充実している守備隊を動かせないのは厳しい。
が、やりようはある。なにせうちには頼りになる相棒の緑のスーラがいるのだから。
「火を使って炙りだすのが手っ取り早い。だがあそこでうかつに火を使ったら、大爆発がおきかねん。そこで、これだ」
俺は腰の小鞄から赤の石の欠片を取り出し、サッシーにみせる。
「こいつは慮晶石か、小さいな。たいして使い道のないクズ石だろう? こんなもんがいったい何の役に立つってんだよ、おっさん」
「ところがどっこい、役に立つんだな、コレが。で、サッシーに頼みたいんだが、クズ石をできるだけ集めて欲しい。赤青緑の三色全部。あいにくと俺はここアジエンに土地勘がないもので、どこに行けば手に入るのかがわからないからな。あともしも可能ならばクズ石以外の慮晶石も頼む」
俺は膨らんだ小袋を手渡す。
受け取ったサッシーは中身を見て「げっ!」とのけぞった。銀貨や銅貨の中には金貨も数枚含まれていたからである。
新米隊士からすれば、目が飛び出るような大金。
それをポンっと差し出したもので「御者って儲かるんだな。やっぱりおれも転職しようかな」とサッシーはぶつぶつ。
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