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097 第三世代
しおりを挟む蔓延する妖精の鱗粉、大戦時の破壊や汚染によって、世界の様相は一変した。
ありとあらゆるものが影響を受けた。
もっとも顕著であったのが、生体兵器・慮骸の暴走と野生化。次いで動植物たちの変異。
生き残るためには変わるしかなかった。そしていまも少しずつ変わり続けている。
その中で人類がもっとも恐れていたのは、慮骸の変化である。
造物主たる人の手を離れた慮骸たち。
妖精の鱗粉と親和し人間の支配の鎖から解き放たれた段階を第一世代。
野生化し、各地に散在する過程で、その地に適するようになった段階を第二世代と呼ぶ。
しばらくは第二世代で落ち着いていたのだが、ここで出現したのが「混じりモノ」と呼ばれる個体。
慮骸の天敵は慮骸。
縄張りを巡って、あるいは獲物を奪いあっては、殺しあい喰らいあいを繰り返すことで、従来であれば単一属性であったものに、べつの属性が混ざることで生じる。
熾烈な生存競争に勝ち残った者。
まちがいなく強者。それも新たな能力を得ているやっかいな存在。
それを第三世代という。
◇
下水道の天井にぶら下がっている慮骸カキンチャク。
攻撃力はたいしたことないが、脅威の繁殖力を持ち、根付いた土地一帯を枯らす生体兵器。土と陽の光を好むがゆえに、こんな穴ぐらにはいるはずのない相手がいる。
それすなわち、ただの個体ではないということ!
「くそっ、混じりモノの可能性が高い。ここではろくに戦えない。逃げるぞ、サッシー」
俺はすぐさま反転して駆け出す。相棒のメロウもこれに続く。しかしサッシーは立ち尽くしたままで動かない。いざ、慮骸を目の当たりにして、すっかり足がすくんでしまったようだ。
そんな若者へと向けて、カキンチャクが放ったのは種。楕円形をしており拳ふたつ分ほどの大きさ。
敵の攻撃っ!
俺は手荷物を放りだし、すかさずサッシーの襟首へと手をのばした。ひっ掴むなり力まかせに後方へと引きずり倒す。
直後、ついさっきまで彼が立っていたところに当たった種は、石床にぶつかり半ばめり込んだ。
たいした威力、当たればとても無事ではすまない。いまはまだ天と地に分かれて距離があるからどうにか避けられるが、降りてきて水平射撃をされたら、狭い通路の中ではとてもではないがかわしきれない。
もたもたしているサッシーの尻を蹴飛ばし、俺は「死にたくなければ走れっ!」と叫ぶなり、駆け出す。
これにあわてて「待ってくれ」とサッシーも続く。
◇
下水道の暗い構内を、わき目もふらずに駆けに駆けた二人と緑のスーラ。
どうにか敵影を撒いたと判断したところでようやく足を止めたときには、すでに現在地がわからなくなっていた。
ぼけっと突っ立っていた若造を助けるときに手荷物の一切を捨ててしまったのが、いまさらながらに悔やまれる。
唯一の救いは、地図を上着の懐にねじ込んでいたこと。おかげで失くさずにすんだ。現在位置さえわかれば、どうにか外へと出られるはず。
「どうすんだよぉ、おれ、こんなところで迷子になって死にたくねえよぉ」
これまでの威勢もどこへやら、半べそをかいているサッシー。
いろいろと面倒くさいやつである。
が、放置してこれ以上足を引っ張られても困るで、とりあえず「心配しなくても、夜になっても戻ってこなければ、誰かが気づいて捜索隊を派遣してくれるはずだ」と慰めておく。
だというのにサッシーときたら「そんなの来ねえよ。地上の方を片付けて事件は解決したと思い込んで、きっと浮かれてどんちゃん騒ぎをしているはずだもの。そんなさなかに下水道を這いずりまわっているペーペーのことなんて誰も思い出さないさ」なんぞと嘆き節。
しかし一理ある。俺も「うっ」と二の句がつなげない。
協力を申し出た第一等級の御者に対するこの扱いからして、いかにもありえそう……。
「となれば自力生還を目指すしかないか。よし、とりあえず水の流れに沿って進もう。そうすればいずれは外に通じるところに出るはずだから」
泣き言をいっていてもしようがないので、俺たちはふたたび足を動かす。
背後の暗闇、その向こうから放たれるかもしれないカキンチャクの種に怯えながら。
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