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094 都市封鎖
しおりを挟む旧ガロン領へと入り、えっちら荷車を走らせること五日目。
この領内で一番栄えている都市アジエンに到着したときには、すでに辺りは真っ暗。
門が閉じる時刻に少し遅れてしまい、ダメかと思われたのだが、気のいい衛士がいて特別に許してくれたので無事に壁の中へと入ることができた。
俺はその足で運送組合支部へと向かう。
受付にて身分証を提示し、車房と獣舎の使用許可をもらって、荷車と相棒を預けたところで、ようやくひと心地ついた。
支部に隣接されている酒場兼食堂にて、ひさしぶりに温かい食事をとってから、購入した酒の小樽を担ぎ獣舎へと戻る。
待ちわびていたメロウが、樽をひったくり勝手に呑みはじめたのを横目に、俺は藁の上にごろんと寝転がった。
「ここまでくれば、目的地である集落まではあと少し。ようやくこいつともおさらばできる」
懐にある手紙。軽い荷だが、一介の御者にはいささか内容が重すぎる品。
その重圧からようやく解放される。
「この仕事が終わったら、しばらくのんびりしよう。でもソーヌに戻ってゴロゴロしていたら、またぞろ支部長のナクラに厄介ごとを押しつけられかねんし、いっそのことここアジエンで休暇を楽しむのもありかな」
そんなことを考えながら俺は眠りについたのだが……。
◇
カン! カン! カン! カン!
けたたましい警鐘の音で目が醒めた。
時刻は夜明け前のことである。
「なんだ? 火事か」
あわてて跳ね起きた俺は鼻先をすんすんさせるも、煙や焦げ臭いにおいはナシ。現場は近くではないのだろうか。
ひとまず安心したところで、モゾモゾと起き出してきたメロウを連れて、荷車を預けている車房へと向かう。
途中、職員と行き会ったので事情をたずねるも「わかりません。いま、状況把握に努めているところです」との回答であった。
車房にて荷車をいつでも出せるように準備を整えつつ、俺は情報が上がってくるのを待つ。
警鐘はまだ鳴り続いている。
ようやく鐘の音がやみ、公式発表があったの空が白じみだしてから。
「慮骸カキンチャクが出現。これにともない都市封鎖を実施する」
カキンチャクは植物系の慮骸。トゲのあるデカい球根にいくつも蔓が生えたような姿をしている。蔓に掴まれて締めあげられたり、殴られれば、それなりに被害は出るものの、さりとて他の慮骸に比べたら単体の脅威度はさほどでもない。それこそ辺境民が斧やタイマツ片手に一斉に襲いかかれば、駆逐できる程度。
しかし腐っても大戦後の世界を牛耳る慮骸の一員。
ヤツが恐ろしいのは、その繁殖力である。一度にたくさんの種をばら撒き、ところかまわず仲間を増やす。性質の悪い雑草にて、土壌の栄養を根こそぎ吸い尽くしては、不毛地帯を量産するばかり。
カキンチャクを放置すれば一帯はたちまちやせ細り、ぺんぺん草も生えないような土地となって死滅する。
それゆえにあらわれたら、すぐに封鎖をして閉じ込め、総力を持って殲滅するのが新時代の常識。
「とほほ、ゆうべはツイてるとよろこんだが、こんなことなら門の外でおとなしく野宿をしているんだった」
またもや足止めを喰らい、俺はハアとため息。
今回の旅路、行く先々で問題が発生しては巻き込まれている。
「ひょっとして呪われてるんじゃないだろうなぁ、この手紙」
懐にある預かり物を忌々しげに軽く小突いてから、俺は車房を出て支部受付へと向かう。
おとなしく待っていれば、この都市の守備隊が中心となってカキンチャクを討伐してくれるのだろうが、あんまりのんびりともしていられない。
ここまで来る途中で、そこそこ時間を消費している。まだ日程には余裕があるとはいえ、都市封鎖が長引けば取り返しがつかないことになる。
ならば自主的に協力を申し出て、すみやかに事態の収束をはかるのがいいだろう。
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