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093 野ざらし
しおりを挟むビトと悪友三人が起こした不祥事はたちまち露見し、夜更けにもかかわらず緊急集会が開かれることとなる。
これまでは多少のヤンチャをしても、「まだ若いんだから」「いずれ落ち着くだろう」と許されていたが、武器を手に夜道で御者を襲ったとなれば、さすがにそうはいかない。
素行の悪さも目に余りつつあったことも重なって、多数決により彼らの放逐処分が早々に決まった。
その裏ではトリスへの息子デキスが残した遺品の引き渡しが無事に完了。
連中を返り討ちにしたのち、訴え出るまえに、俺はビトの家に忍び込んで一切合切を回収。手元に保管しておいた貴重品ともども木箱に再梱包しておいた。
息子の遺品をビトに掠めとられそうになったと知れば、頑なであったトリスも荷物を受け取ると考えたのだが、その通りになった。
集落は鼻つまみ者どもを一掃でき、デキスの魂は母トリスのもとへと帰還を果たし、俺は依頼をひとつ片づけ、みなが幸せ。
かくしてここでの用事を終えた俺は、旧ガロン領を目指す旅へと戻ることになるのだが、去り際に世話になった老店主から「あー、だったらついでにビトたちを捨ててきてくれ」と頼まれた。しかも「依頼料はうちで面倒をみた分でチャラにしてやる」ときたもんだ。
これには「ちゃっかりしていやがる」と俺も苦笑い。
だがすっかり老店主のことが気に入ってしまっていた俺は「わかったよ。爺さんも達者でな」と引き受けることにした。
◇
ガタガタガタ……。
車輪を鳴らしながら進む幌付きの荷車。
荷台には最低限の治療のみを施され、縛られ、目隠しと猿ぐつわをされて転がっている男が四人。
ときおりモガモガとうるさいが、御者台にて手綱を握る俺は鼻歌まじりで気にしない。
捨てるにしても、集落の近くだと万が一にも生き残って舞い戻る可能性がある。
だから念を入れて、丸二日ほど運んだところでようやく荷車を停めた。
空が茜色に染まっており、彼方には迫る藍色の夕闇。
場所は拓けた草原のようなところ。
一見すると穏やかな場所であるが、視界が良好なあまり、大人が立てば遠目にでもすぐに姿を発見される。それすなわち獲物を見つけやすいということ。
俺はせっせと地面に杭を打ち込む。
そいつに丈夫な綱をしっかりとくくりつけること四本。
杭を中心にして四方へと伸びた綱。その先に、縛られた状態の男たちを置いては、足首のあたりを綱でグルグル巻きにしてやった。
軽く汗をかくぐらいにしっかりと結んでやったので、解くにしろ、切るにしろ、そこそこの労力と時間が必要となるだろう。
その作業が終わったところで、老店主より依頼を受けたときに渡された小刀の四振りを、各々の脇へと置く。
最後の仕上げは、全員の手首の拘束を解くこと。
連中が目隠しやら猿ぐつわと格闘しているうちに、御者台へと飛び乗った俺は手綱をピシリとさせながら告げた。
「刃物はそばに置いてある。あとあんまりグズグズしていたら野犬の群れに襲われるから、せいぜい気をつけることだな」
野犬といっても、ただのイヌっころではない。
狂った生態系の影響をもろに受け、かつて人類の友と呼ばれていたのとはまるで別種の狂暴な生き物。基本的に夜行性、狩りをするのは日が暮れてから。いつも腹を空かせてはヨダレを垂らしているあいつらに捕まったら最後、骨も残らない。
台詞が終わるか終わらないかのところで、走り出した荷車。
相棒のメロウが玉となり、ギュルギュル回転しては牽引。猛然とその場を遠ざかっていく。
静々と降りてくる宵闇の幕。気温が下がり、風のニオイも夜のそれへと変わりつつある。
黒く染まる世界とあいまって、たちまち捨て置いた者どもの姿が見えなくなった。
俺は懸命に手綱を操作し足場に注意しつつ、旧街道を目指す。
連中に言ったことは、まんま自分たちにも跳ね返る。もたもたしていたら、ここら一帯を縄張りにしている生物に目をつけられかねない。
疾走するさなか、遠くに悲鳴のようなものが聞こえたような気もしたが、それがビトたちのあげたものなのかどうかはわからない。
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