御者のお仕事。

月芝

文字の大きさ
上 下
78 / 121

078 分離

しおりを挟む
 
 背面飛行により挟撃をかわしたウイザとセキソツ。
 だがいまだ敵影二体は健在にて、こちらの不利な状況はかわらない。
 なによりの懸念は、この危険な森の中での戦闘行為が継続されていること。
 触発されてこの地に住む何かが介入してきたら、さすがに対処しきれなくなる。そこで俺はウイザに耳打ち。

「一対一なら勝てるか?」と。

 ウイザは力強くうなづく。

「当然だよ。タイマンなら負けない。けどダイア、あんた、いったい何を考えて……」
「何を考えているかだって? そんなの決まってるだろう。この困難な局面を打破して、見事に依頼を完遂する方法だよ。というわけで半分は俺とメロウが引き受けるから、あとは頼んだ」

 俺は懐に抱えていたカラクリ箱をウイザの荷袋へと突っ込み、自分と彼女を結ぶ命綱を切る。
 とたんにふわり、セキソツの背から離れはじめる俺の身体。

「えっ! はっ? ちょ、ちょっとあんた、何をやって、あぁーっ!」

 あわてるウイザに、俺は「じゃあな。運よく生きのびたら三日後に狼煙をあげるから、帰りにでも拾ってくれたら助かる」と言い残し飛び降りる。

 いきなり宙へと身を躍らせた御者。
 後方より追尾していた黒鉄蜂たちが驚いたのは言うまでもない。
 その背にまたがっている黒装束どもがギョッと目を見開いている。その隙に俺は次の行動を起こす。
 腰の小鞄から取り出した閃光玉を後方へと向けて放つ。
 すぐさま生じる眩い閃光。
 同時に俺は短双剣・黒羽を抜き、打ち鳴らしながら叫ぶ。

「いまだメロウ、広がれ!」

 声に反応し衣類の下がもぞもぞ。外套の袖口よりシュルシュル飛び出したのは、半透明な緑色の紐状の物体。
 相棒のメロウ、たちまちグニグニと形状を変化させては万能布のような形となる。

 進路上に突如として発生した閃光、その奥にて出現した布状の物体。
 黒鉄蜂の一体はからくもこれをかわすも、もう一体は避けきれず。正面より突っ込むことになる。
 まとわりつく布状の物体。これをふり払おうと、節々した足を動かしもがく囚われの黒鉄蜂。
 だが、そうはさせない。
 メロウが相手を抑えてくれている隙に接敵していた俺の黒羽が疾駆する。

「哭け、黒羽」

 薄っすらと赤味を帯びて唸る漆黒の刃。すれ違いざまに狙ったのは、黒鉄蜂の片翅とその背にまたがる男。
 身を翻し、二振りの短剣が閃く。
 左の一刀により翅を斬り裂き、右の一刀、その切っ先が男の首筋へと吸い込まれてゆく。
 命脈を断つぶつんという手応え。
 噴き出した鮮血が、空を穢す。
 片翅を失った黒鉄蜂は大きく体勢を崩し、千切れかけた首を持つ男を乗せたまま森の底へと墜ちていく。

 とはいえ、墜ちているのはこちらも同じこと。
 このままでは地面に激突してぐしゃり。
 俺はすぐに宙を漂っていたメロウと合流。相棒を落下傘がわりにして、ゆるゆる降りていく。

「懐かしいな、軍隊時代の降下作戦を思い出す」

 残りの黒鉄蜂の姿はすでに見えない。
 どうやらウイザとセキソツを追うことを優先したようだ。
 命拾いをした。
 もしもいまの状態で襲われたらひとたまりもなかっただろう。
 だが助かったのはほんの一時的なこと。
 なにせこれから三日間、このヤバい森の中で生き延びなければいけないのだから。
 蠢く危険生物たちから逃げ回り、開けている場所を探すなり、大樹を攻略するなりして、狼煙も焚かなければいけないし、頭の痛い問題が山積である。

 じょじょに近づいてくる森の深淵。
 不気味な闇が満ちており、俺はつぶやく。

「やれやれ、これでウイザたちがやられたら目も当てられねえなぁ」

 そんなぼやきに「ぴゅい」と相棒が身をぷるんと震わせる。


しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~

網野ホウ
ファンタジー
異世界で危機に陥ったある国にまつわる物語。 生まれながらにして嫌われ者となったギュールス=ボールド。 魔物の大軍と皇国の戦乱。冒険者となった彼もまた、その戦に駆り出される。 捨て石として扱われ続けるうちに、皇族の一人と戦場で知り合いいいように扱われていくが、戦功も上げ続けていく。 その大戦の行く末に彼に待ち受けたものは……。

処理中です...