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062 足止め十一日目・北天の剣士
しおりを挟む閃光玉がはじけたの同時に躍り出た俺とメロウ、左右に分かれてミアル率いる小集団に接敵。
緑のスーラは玉となり転がりながら、筒状の突起物を生やし、次々とスーラ弾を発射。
その数、六。
あわよくば初手にて決着をつける勢いの攻撃。
だがメロウの不意撃ちが命中したのは二人のみ。目くらましに怯みたたらを踏んでいた者たち。肩と腹に直撃を受けて吹っ飛ばされて沈黙するも、他の四人は手をかざして閃光玉より目を守ったばかりか、飛来する弾をしゃがんでかわしさえした。
夜陰の中、かなりの近距離、初見にてスーラ弾に反応できるだなんてたいしたもの。大商会に雇われているだけのことはある。
けれども彼らの注意がメロウへと集まったとき、拡張能力にて足の筋力を増強していた俺が、地を這うようにして連中の背後へと肉薄していた。
抜き放たれた短双剣・黒羽の二刃が疾駆し、血潮が舞う。
しゃがんだまま立ち上がれなかったのは一人。俺にふくらはぎを斬られて、痛みと出血にてうずくまる。
残り三人はここでもいい反応をみせる。各々跳ねるなり後方に下がるなりしては、こちらの攻撃を回避。
その中にはミアルも含まれていた。
◇
俺と相棒の先制攻撃により、六人から三人へと数を減らした襲撃者たち。
にもかかわらずミアルは慌てるでもなく、淡々と残った部下に指示を出す。
「おまえたち二人はあの邪魔な緑のスーラの相手をしろ。この御者は私が片づける」
部下たちはうなづくなり駆け出し、ミアルは静かに剣を抜く。
外側にやや反りがある細い剣身。波紋が浮かぶ銀の片刃は美術品をおもわせるが、優美な姿とは裏腹に凶悪な切れ味を誇る武器。
柄を両手でしかと握り、ミアルは正眼の構えをとる。
自分へと向けられる切っ先と、その向こうにいるミアルを見つめながら、俺はじりじりと後退、距離をとる。
「その剣……、あんた、北天一刀流か」
「そうだ。北天の剣と対峙する、その意味がわかっているのだろうな」
大戦時、妖精の鱗粉の蔓延により、戦場の様相は一変した。
銃火器などの近代兵器が軒並み使用不可となり、かわりに台頭したのが肉体を行使する武術である。
剣、槍、弓、棍、斧、徒手空拳……。
古来より連綿と受け継がれてはきたものの、近代戦ではまるで役に立たないことから、すっかり形骸化し、廃れていたそれらがふたたび脚光を浴び、かつてないほどに隆盛を誇るようになる。
いくつもの流派が乱立した。実際にどれだけ存在しているのか、正確なところは誰にもわかっていない。
群雄割拠となった武術界。しかしじきに戦場にて目覚ましい活躍をし、多数の門下生を抱える武門があらわれる。
四大流派と呼ばれる雄。
その一角を担うのが北天一刀流である。
北天一刀流は「斬る」「突く」に特化した剣。卓越した手腕の持ち主が稀代の名刀を手にしたならば、ときに慮骸の身すらをも両断するという。対人戦での強さも有名な流派にて、「史上、もっとも人を殺めた剣」とも称されている。
ネソにとりいる時とはガラリと雰囲気が変わったミアル。全身から殺気がほとばしっており、気の小さい者であればこれだけで動けなくなってしまうであろう。
これもまた北天一刀流の特徴のひとつ。
かの流派は殺意や殺気を否定しない。むしろ極限まで膨らませ、爆発させて、猛る想いのままに剣を振るう。
◇
自分の周囲がミアルの発する殺気に塗りつぶされてゆく。夜の闇が人の闇と混ざり合い、より濃密な黒へと変容する。
ミアルの剣の切っ先が一瞬ブレたとおもったら、その姿を見失った。
考えるよりも先に俺は両膝を折り、みずから仰向けに倒れていた。
直後にミアルの放った突きが、真上を通過する。
踏み込みからの突き。なんの変哲もない単調な攻撃。だが北天一刀流の歩法と剣技にて洗練され昇華されたソレは、イナズマのごとき速さを有していた。
もしもあのままぼんやり立ち尽くしていたら、一刀で俺はノドを貫かれて絶命していたであろう。
だが窮地はまだ終わらない。
ミアルの放った突きが変化する。
突如、閃いた刃が弧を描く。柄を握る手元を巧みに動かすことで、剣を回転させたのだ。続けて刃が狙うのは地面に伏せているこちらの首筋。
半ば寝ているような体勢ゆえに俺は横転して逃れるしかない。
それを執拗に追うミアルの切っ先。ブスリと串刺しにすべく振り下ろされる先は、的が大きな胴体部分。
必死に横転を続けからくも切っ先をかわし続けるも、このままでは逃げ切れない、じきに追いつかれてしまう。
そう判断した俺は急制動、からの反転。逃げるのではなくてこちらから向かう。
地面を転がるばかりの無様な獲物を追いかけていたミアルは虚を突かれ、一瞬固まった。
そこに振り抜かれる短双剣の一刃。狙ったのは左足首。やっかいな歩法を封じるのを狙う。しかし攻撃は不発に終わる。ミアルが地面に刺さった愛刀を支えにして、大きく跳ねたからだ。おもいのほかに軽快な動き。
でも、そのおかげで両者の距離が開いた。
この隙に俺は素早く立ち上がり、体勢と呼吸を整える。
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