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049 価値
しおりを挟む人間と機械。
生き残りをかけた我慢比べ。
防衛戦の序盤こそは守る人間側がやや優勢ではあったものの、それも時間の経過とともにジリジリと盛り返されてゆく。
数で勝る自動人形ども。妖精の鱗粉の影響下にて活動限界があるとはいえ、まだまだ元気。停止する素振りはない。
対する人間側はたったの九名。休む間もなく、ずっと戦い通しにて疲労が蓄積されるばかり。
多勢に無勢、ともすれば崩れかける防衛陣。
それをよく支えていたのは御者の相棒たち。
高い壁となり押し寄せる敵勢を一身に受けても微動だにしない大型騎獣のコクテイ。
竜種の血を引く甲鎧蹄亜目は、壁となりつつときおり首を動かしては額の一本角や、尻尾で群がる自動人形どもを薙ぎ払う。
コクテイの背に陣取っている緑のスーラ・メロウ。
半透明の軟体を持つナゾ生物は、筒状の突起物を大小二本生やしては射撃に徹し、敵を片っ端から狙い撃つ。
ときに外側で戦っている御者らを援護し、ときに窮地に陥りかけている内側の味方を助けたりと奮迅の働きをみせる。
◇
戦い続けるうちにおもわぬ弊害が生じ、俺とトパスは中盤以降、苦戦を強いられることになった。
倒した自動人形どもがそこいらに転がり折り重なっている戦場。
敵の骸が障害物となって視界を塞ぐ。とくに突き出たひょろ長い手足が邪魔でしょうがない。まるで鉄の雑木林にでも迷いこんだかのよう。
足をとられる。注意しながらでは存分に駆けられない。トパスの六節槍もうっかり引っかけようものならば、攻撃の手がたちまち止まってしまう。
動いている時も厄介であったのだが、動かなくなってからも厄介な相手。
奮闘するほどに自分たちが十全に戦える場所が減ってゆく。
そのせいでついに御者組も後退を余儀なくされる。
包囲の輪が着実に狭まっていく。
にもかかわらず、いつしか俺の中から焦りは消えていた。時間を気にすることも止めた。倒した敵の数ははなから数えていない。だからとて無心というほど高尚な状態ではない。考えるよりも体が先に動く。集中しているのともちょっとちがう。反射行動? ひたすら目の前の敵を屠る。自動人形よりもよほど機械らしい。おもわず自嘲せずにはいられない。
かつて軍部に所属していた頃、現役時代、最後の戦場もたしかこんな感じだった。
見渡す限りの敵、敵、敵……。
絶望の荒野。
次々と倒れる味方を尻目にひたすら短双剣を振るい続けているうちに、気がつけば周囲に動く者はなく、俺だけが立っていた。
結果、あの戦いには勝利するも、みんな逝ってしまった。
はたしてアレが勝利と呼ぶのに相応しいのか。払った犠牲に値する価値があったのかどうかは、はなはだ疑問である。
◇
戦いの終わりはなんの前触れもなく唐突に訪れる。
陽が傾き空と大地が茜色に染まりはじめた頃。
突如として目の前の自動人形が固まったかとおもったら、プツリと糸が切れたかのようにしてぐしゃりと崩れ落ちた。
これを皮きりにして次々と活動を停止していく自動人形たち。
さながら防衛陣を中心に波紋が広がるようにして、バタバタと倒れてゆく。
ついに自動人形たちが活動限界に達したのである。
これまでの激戦がウソのように静まり返った戦場。
あまりの豹変ぶりに思考がついていかず、俺たちはしばし呆然と立ち尽くす。目の前の光景をぼんやりと眺めているばかりであった。
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