47 / 121
047 回収
しおりを挟む七人がかりで一体の人型の異形を倒すことに成功したモリブたち。
いざ実際に戦ってみると、やっかいではあるが対処できぬほどの難敵ではないとわかった。
だが勝利の余韻に浸っている暇はない。
後続の大群がすぐそこまにで迫っている。
あわてて逃げ出す七人。一目散に拠点を目指す。
けれども先の戦いにていささか時間をかけすぎた。
追う者と追われる者。
両者の距離がみるみる縮まってゆく。
押し寄せる人型の異形の群れ。その突端がついにモリブたちの背に届こうとした時、不意にドンっと衝撃音が鳴り響く。吹き飛ばされたのは追いすがろうとしていた人型の異形の一体。
それを皮切りにして次々と放たれる砲撃。
喰らった敵勢の先方が崩れ、足並みが大きく乱れる。
いったい何が起きたのかわからない。
モリブたちが呆気にとられていると、「急げ! ちんたらしていたら置いていくぞ」とのがなり声が飛んできた。
声の主は御者のダイアであった。そして砲撃を放っていたのは彼の相棒の騎獣である緑のスーラ。体に筒状の突起物を生やしては、そこから射撃を行っている。
第一等級の御者の実力は知っていたが、緑のスーラ・メロウがこんな特技を持っていただなんて。
目をパチクリさせ驚くモリブたちであったが、すぐにはっとしてそんな場合ではないと気がつき、荷車へと駆け寄る。
◇
ギリギリ間に合った。
モリブたちを回収した俺はただちに荷車を反転させて全速力で離脱、拠点へと向かう。
道すがら「これだけか」と言葉をかければ、モリブはうなだれたままにて小さくうなづく。
「勝手をした連中がどうなったのかはわからない。穴に到達する前にアレがあらわれたからな」
「あー、アレなぁ。トパスによると大戦時の遺物で自動人形とかいうヤツらしいぞ」
「自動人形……ははは、ピッタリだな」
「でだ、ご存知の通り世界には妖精の鱗粉が蔓延しているから、連中もじきに動けなくなるだろうけど、亡都ツユクサの周辺は濃度がいまいちだから、しばらくは時間がかかると」
「つまりそれまで持ちこたえれば勝ちというわけか」
「まぁ、そういうこった。ここから先は特約条項にのっとって俺とトパスも参戦する。それで悪いが防衛戦ではトパスの指揮下に入ってもらうぞ。この手の忍耐が必要となる戦いはアイツが上手いんだ」
「……わかった、従おう。よろしく頼む」
モリブおよび生き残り全員の了承を得たところで、相棒の引く荷車がちょうど防衛陣へと到着した。
◇
三両編成の鉄製の大型荷車らを牽引する騎獣コクテイが構築した四角い防衛陣。
正面に陣取り我が身を壁として陣を守るのはコクテイ。
その背よりスーラ弾にて砲撃を担当するメロウ。弾は集めた鉄くずが山ほどあるので、それらを用いる。
モリブをはじめとする探索屋の七名は、手分けして両側面と後方を守る。荷車の屋根の上にのぼり、越えてこようとする相手を片っ端から叩き落とす。
なお自動人形に斬撃は通りにくいことが判明しているので、彼らの得物は回収された鉄管や金棒などの打撃に特化した武器に持ち変えられた。
そして陣の外、やや前方にて敵勢を出迎えるのは俺ことダイアとトパスの第一等級御者の二人組。
あえて突出して迎撃するのにはちゃんと理由がある。
ひとつはトパスが扱う槍。
少しばかり通常のシロモノとはちがい、その性能を十全に活かすには、ある程度開けた場所のほうがいい。
いまひとつは俺の短双剣や戦い方および拡張能力。
待ちや守りよりも攻め。巣にこもるよりも自由に動き回っては敵勢を攪乱するのにむいている。
自動人形の戦闘力や頑強さについてはさほどでもないことは、モリブたちからの報告により判明している。
それを踏まえてトパスはこの布陣に決めた。
序盤はこれで様子をみて、できうるかぎり敵の数を減らしつつ、その後は臨機応変に。
「なぁ、トパス。これって結局のところ、行き当たりばったりなんじゃあ……」
「ははは、細かいことは気にしない。ほら、ダイア、さっそくお客さんがやってきたぞ。さぁ、我慢比べの始まりだ」
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
狐侍こんこんちき
月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。
父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。
そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、
門弟なんぞはひとりもいやしない。
寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。
かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。
のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。
おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。
もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。
けれどもある日のこと。
自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。
脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。
こんこんちきちき、こんちきちん。
家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。
巻き起こる騒動の数々。
これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
箱庭物語
晴羽照尊
ファンタジー
※本作は他の小説投稿サイト様でも公開しております。
※エンディングまでだいたいのストーリーは出来上がっておりますので、問題なく更新していけるはずです。予定では400話弱、150万文字程度で完結となります。(参考までに)
※この物語には実在の地名や人名、建造物などが登場しますが、一部現実にそぐわない場合がございます。それらは作者の創作であり、実在のそれらとは関わりありません。
※2020年3月21日、カクヨム様にて連載開始。
あらすじ
2020年。世界には776冊の『異本』と呼ばれる特別な本があった。それは、読む者に作用し、在る場所に異変をもたらし、世界を揺るがすほどのものさえ存在した。
その『異本』を全て集めることを目的とする男がいた。男はその蒐集の途中、一人の少女と出会う。少女が『異本』の一冊を持っていたからだ。
だが、突然の襲撃で少女の持つ『異本』は焼失してしまう。
男は集めるべき『異本』の消失に落胆するが、失われた『異本』は少女の中に遺っていると知る。
こうして男と少女は出会い、ともに旅をすることになった。
これは、世界中を旅して、『異本』を集め、誰かへ捧げる物語だ。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
御様御用、白雪
月芝
歴史・時代
江戸は天保の末、武士の世が黄昏へとさしかかる頃。
首切り役人の家に生まれた女がたどる数奇な運命。
人の首を刎ねることにとり憑かれた山部一族。
それは剣の道にあらず。
剣術にあらず。
しいていえば、料理人が魚の頭を落とすのと同じ。
まな板の鯉が、刑場の罪人にかわっただけのこと。
脈々と受け継がれた狂気の血と技。
その結実として生を受けた女は、人として生きることを知らずに、
ただひと振りの刃となり、斬ることだけを強いられる。
斬って、斬って、斬って。
ただ斬り続けたその先に、女はいったい何を見るのか。
幕末の動乱の時代を生きた女の一代記。
そこに綺羅星のごとく散っていった維新の英雄英傑たちはいない。
あったのは斬る者と斬られる者。
ただそれだけ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる