御者のお仕事。

月芝

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 七人がかりで一体の人型の異形を倒すことに成功したモリブたち。
 いざ実際に戦ってみると、やっかいではあるが対処できぬほどの難敵ではないとわかった。
 だが勝利の余韻に浸っている暇はない。
 後続の大群がすぐそこまにで迫っている。
 あわてて逃げ出す七人。一目散に拠点を目指す。
 けれども先の戦いにていささか時間をかけすぎた。

 追う者と追われる者。
 両者の距離がみるみる縮まってゆく。
 押し寄せる人型の異形の群れ。その突端がついにモリブたちの背に届こうとした時、不意にドンっと衝撃音が鳴り響く。吹き飛ばされたのは追いすがろうとしていた人型の異形の一体。
 それを皮切りにして次々と放たれる砲撃。
 喰らった敵勢の先方が崩れ、足並みが大きく乱れる。

 いったい何が起きたのかわからない。
 モリブたちが呆気にとられていると、「急げ! ちんたらしていたら置いていくぞ」とのがなり声が飛んできた。
 声の主は御者のダイアであった。そして砲撃を放っていたのは彼の相棒の騎獣である緑のスーラ。体に筒状の突起物を生やしては、そこから射撃を行っている。
 第一等級の御者の実力は知っていたが、緑のスーラ・メロウがこんな特技を持っていただなんて。
 目をパチクリさせ驚くモリブたちであったが、すぐにはっとしてそんな場合ではないと気がつき、荷車へと駆け寄る。

  ◇

 ギリギリ間に合った。
 モリブたちを回収した俺はただちに荷車を反転させて全速力で離脱、拠点へと向かう。
 道すがら「これだけか」と言葉をかければ、モリブはうなだれたままにて小さくうなづく。

「勝手をした連中がどうなったのかはわからない。穴に到達する前にアレがあらわれたからな」
「あー、アレなぁ。トパスによると大戦時の遺物で自動人形とかいうヤツらしいぞ」
「自動人形……ははは、ピッタリだな」
「でだ、ご存知の通り世界には妖精の鱗粉が蔓延しているから、連中もじきに動けなくなるだろうけど、亡都ツユクサの周辺は濃度がいまいちだから、しばらくは時間がかかると」
「つまりそれまで持ちこたえれば勝ちというわけか」
「まぁ、そういうこった。ここから先は特約条項にのっとって俺とトパスも参戦する。それで悪いが防衛戦ではトパスの指揮下に入ってもらうぞ。この手の忍耐が必要となる戦いはアイツが上手いんだ」
「……わかった、従おう。よろしく頼む」

 モリブおよび生き残り全員の了承を得たところで、相棒の引く荷車がちょうど防衛陣へと到着した。

  ◇

 三両編成の鉄製の大型荷車らを牽引する騎獣コクテイが構築した四角い防衛陣。
 正面に陣取り我が身を壁として陣を守るのはコクテイ。
 その背よりスーラ弾にて砲撃を担当するメロウ。弾は集めた鉄くずが山ほどあるので、それらを用いる。
 モリブをはじめとする探索屋の七名は、手分けして両側面と後方を守る。荷車の屋根の上にのぼり、越えてこようとする相手を片っ端から叩き落とす。
 なお自動人形に斬撃は通りにくいことが判明しているので、彼らの得物は回収された鉄管や金棒などの打撃に特化した武器に持ち変えられた。
 そして陣の外、やや前方にて敵勢を出迎えるのは俺ことダイアとトパスの第一等級御者の二人組。

 あえて突出して迎撃するのにはちゃんと理由がある。
 ひとつはトパスが扱う槍。
 少しばかり通常のシロモノとはちがい、その性能を十全に活かすには、ある程度開けた場所のほうがいい。
 いまひとつは俺の短双剣や戦い方および拡張能力。
 待ちや守りよりも攻め。巣にこもるよりも自由に動き回っては敵勢を攪乱するのにむいている。
 自動人形の戦闘力や頑強さについてはさほどでもないことは、モリブたちからの報告により判明している。
 それを踏まえてトパスはこの布陣に決めた。
 序盤はこれで様子をみて、できうるかぎり敵の数を減らしつつ、その後は臨機応変に。

「なぁ、トパス。これって結局のところ、行き当たりばったりなんじゃあ……」
「ははは、細かいことは気にしない。ほら、ダイア、さっそくお客さんがやってきたぞ。さぁ、我慢比べの始まりだ」


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