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046 仲間
しおりを挟む「なっ、くっ、さ、散開っ、散開して各々逃げろ!」
立ちふさがる人型の異形を前にしてモリブが叫ぶ。
すぐさま六人が左右にわかれて敵を迂回するようにして駆け出す。
だが仲間にそうしろと命じた当のモリブは腰の剣を抜くなり、雄叫びをあげて真っ直ぐ異形へと突進していた。
隊を預かる者として自分が殿(しんがり)となり、みなが逃げおおせるまでの時間を稼ぐつもりなのだ。
決死の覚悟を持って挑んでくる相手に対して、鈍銀色の長腕が無造作に振り下ろされる。
異形からの攻撃をサッと横へとかわしたモリブは 回避がてら敵の腰を狙って剣の横薙ぎ。
ガンッ!
鈍い音がして刃がはじかれる。
だがまったくの無傷というわけではなくて、当たった箇所が若干ながらもへこんでいた。
自分の攻撃がまったく通用しないわけではない。
そうとわかりモリブはわずかばかりの光明を得る。あとおもいのほかに敵の動きがぎこちない。やたらとカクカクしており、あまり小回りが利かなそう。
これならば一対一であれば充分に対処できるはず。
素早く人型の異形の背後へと回り込んだモリブ、次に放ったのは突き。
ちょうど心臓があるであろうあたりを狙って切っ先を突き入れる。
先ほどのすれちがいざまの横薙ぎとはちがい、全身でぶつかる渾身の一刀。
だがそれは未然に阻止されてしまう。
唐突に人型の異形の首が根元からぐりんと回って真後ろを向いた。腕までもが逆関節に動く。人型だからとて人間と同じではない。だが、その似た容姿からつい相手を人間のように思い込んでいた。これはモリブの失態。
その代償は異形の長腕による乱雑な薙ぎ払い。
とっさに剣を盾にして直撃こそは避けたものの、モリブの身はたやすく吹き飛ばされる。
重い。華奢な見た目に反してやはり膂力がかなり強い。
地面にぶつかる寸前、背を丸めて縮こまり受け身をとるモリブ。あえて押し寄せる暴力には抗わず、流れに身をまかせて転がる。
転がりを利用して四つん這いになりながらも、どうにか体勢を整えたモリブ。
けれどもすぐさま顔をあげた彼が目にしたのは、猛然と自分に向かってくる相手の姿。
速いっ。足が長い分だけ歩幅がある。六シーカほどもあった両者の距離があっという間に埋められてゆく。
駆ける勢いのままに振り抜かれたのは蹴り。
ブゥンと風切り音が鳴り、陽光を受けてギラリと光るのは異形の鈍銀色の長い脚。つま先が地を這い滑り、土煙をあげながらモリブの顔面へと追い迫る。
当たったら終わる。
瞬時に脅威を察知したモリブは、みずから後方へと倒れ込むことで避けようとした。
しかし逃げきれない。
獲物を逃すまいと脚がぐんとのびる。
首や腕がありえない稼働域を実装していたのと同様に、股関節や脚回りも人体のそれよりも遥かに広く、ありえない角度で動く人型の異形。
間合いがのびたことにより、人型の異形のつま先が倒れ込むモリブのアゴ先を捉え当たろうとした、まさにその時っ!
ギリギリのところでつま先をカチあげたのは、横合いから振るわれた剣撃。
助けに入ったのは先に逃がしたはずの仲間のうちのひとり。
「なっ、おまえ、どうして」
戻ってきた仲間に困惑しているモリブに彼がニカっと歯をみせる。
「俺だけじゃねえぞ、ほら」
みれば生き残りの全員が集結しており、人型の異形を囲んでは立ち向かっているではないか。
「ほら、いつまでも呆けてんじゃねえぞ、モリブ隊長。とっととアイツをやっつけちまおうぜ」
言うなり返事も待たずに加勢すべく走り出した。
その背よりわずかに遅れてモリブも駆け出す。
「この大バカ野郎どもが。こうなりゃあ、何が何でも全員で生き残るぞ」
モリブの掛け声に、六名の仲間たちが「おう」と威勢よく応じる。
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