45 / 121
045 自動人形
しおりを挟む「お姉さんたちの前で悪いけど、正直言ってアメリアが嫌い。お金が戻ってきたとは言っても、婚約者を人質に取られ、1年間嫌がらせを受けてきた」
「改めて、妹に代わって謝罪します」
「最初から「太陽の指輪」のリスクを話してくれたら、流れが違っていたかも知れないのに。なんで嫌われることを選んだんだ・・」
「それは400年前の魔王討伐の真実を知る、妹の思い込みが、そうさせたのです」
「400年前の魔王戦といえば、勇者アンだな」
「システィーナみたいな普通の街娘が勇者の祝福を受けて始まる、成長物語だよね」
「仲間も私達みたいに同じ年の女ばかりで、若い冒険者との恋物語あり、友情物語ありの人気ナンバーワン勇者だ」
「しかし、魔王討伐後の物語はご存知でしょうか?」
「・・そういえば、ないね。他の勇者みたいに国を興したとか、故郷で再び活躍したとか」
「ウエス家だけに残された真実があり、アメリアは幼少時代から何度も読んで、恐れておりました」
◇◆勇者アンと聖女アイーシャ◆◇
400年前、勇者にアンという東方に住む17歳の街娘が選ばれた。拳聖ティナ、賢者ルカ、聖女アイーシャも17歳。
出身地、身分はバラバラでも、たちまち四人は仲良くなった。
しかしこのオール女子パーティーには、隠された懸念材料があった。
聖女のアイーシャが当時、聖痕を持つウエス家の女性四人の中で一番魔力量が少なかった。
恐らくアメリアよりも。
神器に「光のオーロラを放つ虹の指輪」、「魔王の闇を阻害する聖結界の指輪」を授かっていれば、また話は違っていたであろう。
しかし、よりによってアイーシャに不向きな「勇者が必殺技を撃つ魔力を聖女から搾り取る、太陽の指輪」を女神から渡された。
聖女アイーシャは、仲間に真実と嘘を織り混ぜて話した。
◇太陽の指輪は勇者アンに必殺技を使わせるための道具である。
◇太陽の指輪を使うには、自分の魔力量がほんの少し足りない。
◇使えば魔力回路が破損して、二度と魔法が使えなくなる可能性がある。
嘘である。
魔力量はまったく足りない。
使えば、高い確率で死が待っていた。
光明はあった。物語にあるように、勇者アンだけでなく拳聖、賢者も神器に高い適正があった。
勇者アンは、すでに親友となったアイーシャに神器を使わせないため、努力した。
わずか半年で神器カッティーナを覚醒させた。
さらに半年、アイーシャも魔力量を増やす訓練を重ね、勇者らもグングン力を付けていった。
しかし、ダメだった。
決戦の日、魔王に勇者アン、拳聖ティナ、賢者ルカは神器を解放し、聖女アイーシャも聖痕で闇の結界を弱めた。
アイーシャは、神器「太陽の指輪」を使わずに生き残れるかと期待した。
だが決め手がなく、戦いが長引いた。
動きが悪くなった拳聖が魔王の爪で左腕を切り裂かれた。
助けに入った賢者は魔王の火炎で左足にやけどを負った。
3人の親友を守るため、聖女アイーシャ覚悟を決めた。
そして、限りなく軽い口調でアンに向かってつぶやいた。
「アン、あなた達3人にデンスの丘を見せたかったわ」
「太陽の指輪」を発動させた。
聖女アイーシャから飛び出した光の龍が勇者アンの中に入った。
アンの体が輝き「ライトニングダスト」を魔王に撃ち込むと、たまちまち魔王は崩れた。
アンは急いでアイーシャの元に駆けようとして、背筋が冷たくなった。
遠目に見えるアイーシャが別人に見えるのだ。
まるでデンスで会ったアイーシャの母親、いやそれ以上に老けたように感じる。
ティナとルカもやってきたが、言葉をなくした。
アイーシャからアンに送られた光の残滓がまだアンに向かって飛んでいた。
アンは慌ててアイーシャの「太陽の指輪」を外した。
だか指輪は中空に浮いたまま、アイーシャから最後の命の光を搾り取り、アンに貢いだ。
アンは吐いた。
◆◆
魔王討伐後、出迎えた騎士隊の前には事切れた老婆を背負った勇者が現れた。
老婆の背中や腕さすりながら拳聖、賢者もゆっくりと近付いてきた。
異様な凱旋だった。
聖女と恋仲だった若い騎士が、涙をこぼしながら老婆を受け取った。
老婆の首には彼が贈ったネックレスがかけられていた。
「改めて、妹に代わって謝罪します」
「最初から「太陽の指輪」のリスクを話してくれたら、流れが違っていたかも知れないのに。なんで嫌われることを選んだんだ・・」
「それは400年前の魔王討伐の真実を知る、妹の思い込みが、そうさせたのです」
「400年前の魔王戦といえば、勇者アンだな」
「システィーナみたいな普通の街娘が勇者の祝福を受けて始まる、成長物語だよね」
「仲間も私達みたいに同じ年の女ばかりで、若い冒険者との恋物語あり、友情物語ありの人気ナンバーワン勇者だ」
「しかし、魔王討伐後の物語はご存知でしょうか?」
「・・そういえば、ないね。他の勇者みたいに国を興したとか、故郷で再び活躍したとか」
「ウエス家だけに残された真実があり、アメリアは幼少時代から何度も読んで、恐れておりました」
◇◆勇者アンと聖女アイーシャ◆◇
400年前、勇者にアンという東方に住む17歳の街娘が選ばれた。拳聖ティナ、賢者ルカ、聖女アイーシャも17歳。
出身地、身分はバラバラでも、たちまち四人は仲良くなった。
しかしこのオール女子パーティーには、隠された懸念材料があった。
聖女のアイーシャが当時、聖痕を持つウエス家の女性四人の中で一番魔力量が少なかった。
恐らくアメリアよりも。
神器に「光のオーロラを放つ虹の指輪」、「魔王の闇を阻害する聖結界の指輪」を授かっていれば、また話は違っていたであろう。
しかし、よりによってアイーシャに不向きな「勇者が必殺技を撃つ魔力を聖女から搾り取る、太陽の指輪」を女神から渡された。
聖女アイーシャは、仲間に真実と嘘を織り混ぜて話した。
◇太陽の指輪は勇者アンに必殺技を使わせるための道具である。
◇太陽の指輪を使うには、自分の魔力量がほんの少し足りない。
◇使えば魔力回路が破損して、二度と魔法が使えなくなる可能性がある。
嘘である。
魔力量はまったく足りない。
使えば、高い確率で死が待っていた。
光明はあった。物語にあるように、勇者アンだけでなく拳聖、賢者も神器に高い適正があった。
勇者アンは、すでに親友となったアイーシャに神器を使わせないため、努力した。
わずか半年で神器カッティーナを覚醒させた。
さらに半年、アイーシャも魔力量を増やす訓練を重ね、勇者らもグングン力を付けていった。
しかし、ダメだった。
決戦の日、魔王に勇者アン、拳聖ティナ、賢者ルカは神器を解放し、聖女アイーシャも聖痕で闇の結界を弱めた。
アイーシャは、神器「太陽の指輪」を使わずに生き残れるかと期待した。
だが決め手がなく、戦いが長引いた。
動きが悪くなった拳聖が魔王の爪で左腕を切り裂かれた。
助けに入った賢者は魔王の火炎で左足にやけどを負った。
3人の親友を守るため、聖女アイーシャ覚悟を決めた。
そして、限りなく軽い口調でアンに向かってつぶやいた。
「アン、あなた達3人にデンスの丘を見せたかったわ」
「太陽の指輪」を発動させた。
聖女アイーシャから飛び出した光の龍が勇者アンの中に入った。
アンの体が輝き「ライトニングダスト」を魔王に撃ち込むと、たまちまち魔王は崩れた。
アンは急いでアイーシャの元に駆けようとして、背筋が冷たくなった。
遠目に見えるアイーシャが別人に見えるのだ。
まるでデンスで会ったアイーシャの母親、いやそれ以上に老けたように感じる。
ティナとルカもやってきたが、言葉をなくした。
アイーシャからアンに送られた光の残滓がまだアンに向かって飛んでいた。
アンは慌ててアイーシャの「太陽の指輪」を外した。
だか指輪は中空に浮いたまま、アイーシャから最後の命の光を搾り取り、アンに貢いだ。
アンは吐いた。
◆◆
魔王討伐後、出迎えた騎士隊の前には事切れた老婆を背負った勇者が現れた。
老婆の背中や腕さすりながら拳聖、賢者もゆっくりと近付いてきた。
異様な凱旋だった。
聖女と恋仲だった若い騎士が、涙をこぼしながら老婆を受け取った。
老婆の首には彼が贈ったネックレスがかけられていた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる